北へ、南へ、シトロエン2CVと30年|第27回:日本で一番古い2CV試乗記

Yoshisuke MAYUMI

今年もオンラインでの開催となったフレンチブルーミーティング(FBM)、その2日目午後のトークセッションに筆者も参加する機会をいただいた。「フレンチ君プロデュース ディープなフランス車ラバーズの集い その2」と名付けられたプログラムの前半は、自動車評論家の武田隆さんと日本シトロエンクラブの永野然次さんのお二人が、今年亡くなった自動車デザイナーのロベール・オプロンについて語ることになっていた。後半はシトロエン爆買いで有名なフレンチ君こと鈴木さんと、日本で一番古いナンバー付き1955年2CVのオーナーのHラシマさんこと原嶋さん、そして筆者の3名による2CVトークショーだ。



企画意図が明確な前半に比べて、我々の後半は「2CVについて3人で何か話す」ということ以外、何も決まっていなかった。まあ原嶋さんもフレンチ君も2CVに関するネタはたくさん持っているから、こちらはニコニコと相槌を打っていればいいかなと気楽に構えていた。

しかし。当日、収録会場となった都内のフレンチ君の事務所に向かっていると「最終型オーナーであるマユミさんに原嶋さんの2CVに乗ってもらって、比較インプレッションをしてもらうことになりました」とメッセが来た。先に着いた原嶋さんがフレンチ君に入れ知恵をしたに違いない! とはいえ日本で一番古いナンバー付き2CVを運転できるのは貴重な機会だ。「えーっ」と返信したものの悪い話ではないなと内心では思った。



ちなみに単純に古い2CVということだとトヨタ博物館の1953年タイプAになる。タイプAは最初期の375ccモデル、原嶋さんのAZは1954年に登場した425ccにボアアップされたモデルだ。375ccモデルの9馬力に比べると出力は12馬力に向上しているものの、それでも筆者の602ccモデルの29馬力の半分以下に過ぎない。足回りもフリクションダンパーに有名な慣性ダンパーが組み込まれていて、後年のモデルに比べて遥かに柔らかいと言われている。果たして自分の最終型2CVとどれほど違うのだろうか。



そして、いざ本番。原嶋さんからキーを渡され、1955年2CVに乗り込む。フロントドアは後ろヒンジ、スターターはキーを回すのではなくボタン、ウインカーもレバーではなくスイッチなど、この時点で自分の最終型とは異なる点が結構ある。原嶋さんのAZは遠心クラッチモデルなので、発進時クラッチを踏んで1速に入れたら、ギアは1速に入れたままクラッチを離し2ベダルで発進する。走り出しの瞬間は少々緊張した。後席からフレンチ君が全世界に向け実況中継をしているのでプレッシャーもなかなかだ。助手席の原嶋さんがニヤニヤ笑っている気がした。



遠心クラッチの繋がりは想像よりもやや唐突だったが、しかしあっけなく2CVは動き出した。1速から2速にシフトアップしたところで上り坂に差し掛かり、アクセルを踏み込んだ。12馬力というスペックから想像していたよりずっとパワーを感じる。602ccモデルに比べて100kg弱軽い495kgという車重が効いているのは間違いないが、一方で大人三人が乗っていることを考えると、ちょっと驚くほど加速が良い。



それもそのはず、後で知ったのだが、このエンジンの最高出力発生回転数は3500回転と非常に低い。2.2kg-mに過ぎない最大トルクもわずか2000回転で発生する。1速は15km/h、2速は30km/hで吹け切ってしまうものの、3500回転まで回すとほぼ次のギアの最大トルク回転数になる適切なギアレシオのおかげで加速感が途切れることはない。原嶋さんによれば、うるさいのを我慢すれば高速道路の下り坂では4500回転くらいまで回るらしく、その場合の計算上の速度は約90km/hである(おやめなさい・笑)。さすがに平地だと80km/hくらいが限界だそうだ。

比べると602ccモデルは29馬力/5750回転、4.0kg-m/3500回転とはるかに高回転型だ。絶対的なパワーは上回るものの、こちらも5500回転以上まで引っ張らないとシフトアップした時にトルクの谷を感じるというか、加速がきれいに繋がらない。ちなみに1速が吹け切るのは30km/h、2速が60km/h。4速5750回転の計算上の速度は120km/h弱だが、こちらも実際には4速で5500回転以上はなかなか厳しく110km/hくらいが最高速度であろう。

ギアレシオ自体は特に1、2速は602ccの方が高いが、各ギアのステップ比は1-2-3速で602ccの方が小さく、全体でも602ccの方がクロスレシオだ。「各ギアの役割分担が425ccはきっちりできている」と言う原嶋さんの言葉に納得だ。



足回りの柔らかさも噂通りだった。ちょっと走り出しただけでふんわりとした乗り心地を味わうことができた。それでいて路面をしっかり掴むような高いロードホールディング性も有している。602ccモデルも40~50km/h以上で走れば、シトロエンらしい長い周期の上下動を伴った乗り心地を披露するが、低速域での足の動きはこれほど良くはない。加速感も足回りも425ccモデルは20〜60km/hあたりが一番気持ちよく乗れる「スイートスポット」で、602ccモデルの場合は40〜80km/hくらいだ。

425ccモデルは前後ドラムのブレーキがかなり踏まないと効いてくれないことと、ドライブシャフトが等速ジョイントではないので角度を付けて曲がると少々ギクシャクすること以外、街中では十分に実用的かつ運転の楽しい車だった。



2CVの進化の歴史は高速化する交通環境への対応に追われる歴史でもあった。原嶋さんによれば最初に2CVの足が固められたのは意外と早く1955年9月のことらしい。原嶋さんのAZは1955年6月生産モデルなので、ギリギリ登場時の足回りである。

筆者の乗る最終型2CVは、街中で大幅には後れを取らない加速と高速道路での90km/h巡航を可能とするパワー、そしてそれらを受け止める足回りを得た一方で、初期モデルの街中での加速感の良さや足回りのしなやかさは薄まっている。

巷で言われる2CVらしさ、つまり「遅いけれど回せば意外と速くて乗り心地は柔らかい」をさらに強調、もしくは凝縮したのが原嶋さんの425ccモデルだと感じた。まさに2CVの中の2CVと言ったら誉めすぎだろうか。まあたまには誉めないとね(?)



なお、FBMオンラインにおける三人の2CVトークは以下のURLの6時間40分あたりからご覧ください。
French Blue Meeting 2021 10.3

https://www.youtube.com/watch?v=OtO_dNHnkIM&t=24606s

文・写真:馬弓良輔 Words & Photography: Yoshisuke MAYUMI

文・写真:馬弓良輔 Words & Photography: Yoshisuke MAYUMI

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