ピーター・セラーズがソフィア・ローレンよりも愛した!? フェラーリの最高峰モデルとは

フェラーリ 500 スーパーファスト(Photography: Lies De Mol)

そう、世の中には幸運を独り占めする者がいる。ブリット・エクランドとフェラーリ・スーパーファストを手に入れたピーター・セラーズは、その中でも飛びぬけた幸運の持ち主だった。

ピーター・セラーズは気前のいい男だったかもしれないが、決して恋に落ちることはなかった。その代わり、一瞬にして取りつかれたように夢中になる性格だった。

ソフィア・ローレンに甘い言葉を並べたて、フェラーリと引き換えにライアン・オニールの妻を手に入れようとし、ブリット・エクランドには実際に会う前にプロポーズした。だが、車に対する彼の思い入れはそれ以上のものだった。女性と違って不意に裏切ることはないとでも思っていたのだろうか。

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オートエロティック
自分自身を「オートエロティック」と称した割に、彼のテイストは、ベントレー、アストンマーティン、ロールス・ロイスとかなり古典的だった。そう、ある車に一目惚れするまでは。

愛するソフィア・ローレン同様、フェラーリ 500 スーパーファストは人を惹き付ける高貴な雰囲気を持ったイタリア生まれの車だった。派手な高級車で金持ちを誘惑しようというアメリカのディーラー、ルイジ・キネッティのもくろみを後押しするために造られた、1950年代のフェラーリ・アメリカとスーパーアメリカの流れをくんでいる。最初に開発された340アメリカはまだ荒い感じであったが、後継のアメリカとスーパーアメリカはサイズも重量もアップし、さらに多くの装飾が施された。500 スーパーファストはその集大成であり、ピーターにとって絶対に手に入れなくてはいけない一台だった。

しかし、コメディアン、そして俳優として活躍していた"せっかちな"彼も、この時ばかりは我慢せざるをえなかった。セラーズがスーパーファストを購入したのは1965年6月28日のことだったが、英国でのデビューとなるアールズコート・モーターショーが行われる10月以降まで、納車を待たなくていけなかったのだ。ロンドンのフェラーリ・ディーラー、マラネロ・コンセッショネアーズは、有名人の顧客が人目に付かないよう必死だったが、当の本人はブリット・エクランドと並び、ボディに片手を置いて堂々とポーズをとっている。ゴールドに近い、ヘーゼルナッツブラウンよりもわずかに控えめなノッチョーラに塗装されたスーパーファストは、セラーズがさりげなく着こなしているレザーコートと同じくらいスタイリッシュだ。

1年後、セラーズはスーパーファストのステアリングホイールを握り、豪快なエンジン音を唸らせながら、映画『紳士泥棒/大ゴールデン作戦』の撮影現場であるローマへと向かっていた。ドアミラーごときに無駄金を費やすことはなかったが、どちらにせよ、大陸を横断する間、彼を追い越せるような車はほとんどなかった。

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation: Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:渡辺千香子(CK Transcreations Ltd.) Translation: Chikako WATANABE (CK Transcreations Ltd.) Words:Bart Lenaerts Photography: Lies De Mol 取材協力:クーン・ポシェット(www.albionmotorcars.com)

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