世界一コストパフォーマンスの高いクラシックカーとは?

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MGBを見下す人たちのおかげで、価格は低く抑えられてきた。スポーツカーファンにとっては朗報だ。小ぶりなMGBロードスターは、仰々しいメルセデスベンツ190SLより乗って楽しめる車だ。ハンドリングが優れ、目的地にも早く到着するだろう。つまり、重要な点で勝っているのだ。また、世界一コストパフォーマンスの高いクラシックカーといっても過言ではない。価格は190SL の10分の1、場合によっては20分の1である。
 
MGBロードスターは1962~1980年に38万6961台が製造され、イギリスのスポーツカー史上、最多の販売台数を誇る。確かに、OH Vエンジンやダブルウィッシュボーンのフロントサスペンションは1940年代のMGモデルの発展型だが、MGBは古いパーツを寄せ集めて化粧直しをしただけの車ではない。

なにしろ、窓は巻き上げ式だし、ドアには外側にハンドルが付いていて鍵まで掛けられる。1962年のイギリス人は大興奮だった。真面目な話、社内のデザインながら実に美しいシルエットで、英国的でありながらエレガントさではイタリア車にも引けを取らない。フロントグリルに付いた八角形のバッジがなければ、ランチアかアルファかと思うほどだ。その上、MGBはスポーツカーとして初めてモノコック構造を採用し、オーバースペックといえるほどの剛性を実現した。『Motor』誌は、「舗装が穴だらけなのでロードテストでは避けていたような悪路を走行しても、MGBはまったく意に介さない様子で、ドアがガタつくこともない」と評価している。また、ステアリングはラック・ピニオンで、フロントはディスクブレーキだった。
 
MGAに比べると飛躍的進歩である。全長は短縮、幅は拡大して、広い車内空間を実現し、トランクの実用性も増した。また、1800㏄のエンジンでスピードも向上し、初期型でもロードテストで最高速108mph、0-60mph 加速12.2 秒だった。アメリカの『Road&Track 』誌も「これまで見たMGの中で技術的にも工作精度でも最高」と称えている。
 
「お母さんはいい顔をしないだろう」という初期のキャッチコピーは有名だが、ルノーもいい顔はしなかった。彫りの深いノーズの形状について、フロリードの真似だと難癖をつけたのである。だがMGBはキビキビとしたハンドリングを擁し、許容範囲が広く挙動も予測しやすい欠点のない車だった。レースに出ればクラス優勝を争い、しばしば大物食いもやってのけた。

発売後しばらくは改良が続いた。エンジンのメインベアリング数が3 個から5個に増え、オーバードライブがオプションに加わり(のちに標準化)、ギアボックスはオールシンクロになり、ヒーターも1968年以降は標準装備となった。ところが、合併でブリティッシュ・レイランド( BL )になると、スポーツカーではトライアンフが優先されるようになる。
 
その最初の現れとして、1969年に安価な黒のプラスチック製グリルが導入されると、激しい抗議が巻き起こり、1972年には元に戻された。ここでMGBの生産が終わっていたら、大胆で真面目なスポーツカーとしてもっと尊敬を集めていたかもしれない。しかし、そうはならなかった。1974 年にはアメリカの安全基準に合わせてラバーバンパーが導入され、車高も高くなってハンドリングに影響が出た。しかし、アメリカ市場を優先するBLが、資金を投じて国内用に異なるモデルを造ることはなかった。ただ、65bhpにパワーダウンした排ガス対策エンジンがアメリカ向けのみに搭載されたのは幸いだったといえる。
 
1979年7月の販売台数は、トライアンフTR7が750台だったのに対し、MGBは4000台である。1980年にMGBの生産は幕を閉じたが、依然して需要はあった。アメリカのディーラーは2億ドル分まとめて発注したほどだ。現在では、価格、実用性、部品供給、維持のしやすさなど、いずれの点においても、MGBほど安上がりなクラシック・スポーツカーはない。

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation: Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:東屋 彦丸 Translation: Hicomaru AZUMAYA Words: Richard Meaden

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