GTーグランドツーリング|ロンドンからブリュセルへランチを食べに気軽に足を伸ばす休日

Photography: Matthew Howell



ランチを楽しむ旅は、チェルシーにあるパスカルのガレージからはじまった。ブリストル410に朝陽が忍び寄る。そしてツインエグゾーストから蒸気が昇り、V8の轟音が辺りを埋め尽くす。

フィリップ・ホワイトが411のハンドルを握る。パスカルの410はオーストラリア・シドニーにあるクラシック・スロットル・ショップからのもの。走行距離はたった19,672マイルで素晴らしい状態である。当初はベルギーを走り抜け、ランチをしてそこで一晩を過ごし、翌日は早めに戻ってくる予定であった。しかしブリュッセルはさほど遠くないので、この旅に2日を費やすのは無意味だと感じた。私達は正統派のジェントルマンドライバーである。大きいV8エンジンを搭載したブリストルがあるわけだから、一気に走り抜こう。この車は"軽蔑されるような無頓着さ"で距離を稼ぐように造られているのだ。

カーナビ?もちろんそんなものは付いてない。道を知り尽くしたパスカルがその役割を果たす。出発してから、私はパスカルに少しロンドンから外れるよう勧め、彼はそれに従った。青い411を追跡する。置いていかれないようにするには、かなり踏み込まなければならない。411はブリストルを熟知したフィリップが運転しているからだ。

チェルシーからスタートし、ナイツブリッジ、ウェストミンスター、そしてドックランズと、ブリストルは力強く街を駆け抜ける。M20モーターウェイに乗ると、ペースの速さが心地よい。ユーロトンネルに到着して、約35分後にはもうフランスに到着していた。なんて素晴らしいエンジニアリングの賜物だ。カレーで陸に降り立つと、今度は私が 411のステアリングを握った。

私はこのとき、想像以上にブリストルを高く評価したことを白状しなければならない。昔から一台所有したいと思っていて、実際に買ってしまいそうになったことがある。華美でないところが好きで、初心者にはオースティン・ウェストミンスターに見間違えられることもあるくらいだが、車の魅力は見た目よりも走りだ。この走行距離36,000マイルの411は機敏で、スムーズ、しかも静かで正確。レスポンスも良くて洗練されている。パワーステアリングは素晴らしい重さがあり、ポジションも完璧だ。豪華に詰められた黒革のアームチェアに座れば、ウォールナットのダッシュボードがよく見える。

この411は私が想像していた通りの走りで魅せてくれた。一体感がある、紛うことなきグランドツアラーだ。6277ccのV8と3速オートマチック・トランスミッションは、よくマッチしている。当時のスペックでは、60mph加速も驚異的で、アウトバーンを突進するメルセデス・ベンツ300 SEL6.3よりも高い最高速度を誇った。


薄いブルーのほうがブリストル411。ブリストル・カーズで、当時販売中だった車である。ロバート・コーチャーは411に比べて410の方が少し古さを感じ取ったようだが、結果として、より原始的な410のほうを好んだ

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編集翻訳:堀江 史朗 Transcreation:Shiro HORIE 原文翻訳:野崎 健人 Translation: Kento NOZAKI Words: Robert Coucher

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