クラシック・レンジローバーの市場価値はなぜ上がり続けるのか? 人気コレクターカーの魅力を探る

Photography Justin Leighton



初期レンジローバーの他にはない特別感

ルートは100マイルにおよび、風光明媚な場所を巡って一周する。コーンウォール公領のカキ養殖場でビールをひっかけ(ウソではない)、第二次世界大戦から1959 年までRAFが使用したセント・エヴァル飛行場では、レンジローバーの高速走行をジャーナリストが自ら試した。

ルートの一部は休日の交通渋滞が見込まれるので今回は避けることにした。それでも明らかになったのは、これほど初期のレンジローバーでも長距離ドライブがまったく苦痛ではないことだ。同時代のランドローバーではこうはいかない。

初期のレンジローバーに高級感はないが、何ともいえない特別感がある。また、その姿勢制御やオンロードでのハンドリングは驚くほどだ。ただし、ノンパワーのステアリングは最大のカルチャーショックといえる。いかついタイヤの抵抗に対抗するためローギアードなのだ。また、ステアリングの直進位置が不明瞭な点もオフローダー特有で、タイトコーナーを立ち上がるときなど、戻しすぎてまた切り足すはめになる。しかし、これもクリーンな変速と同様、うまくやりおおせれば大きな満足感を味わえるやりがいのあるチャレンジと思えばいい。

クラシック・レンジローバーならコーンウォールの狭い田舎道でも取り回しに困ることはない。バンプの衝撃も完璧に吸収するし、高速コーナーでもロールは穏やか(何度も出てくるキーワード)だ。同時代のランドローバーなら、シビアなリーフスプリングのせいで手足がもげそうな振動を受けかねない場所でも、レンジローバーは想像をはるかに超えるしなやかさを見せる。

「私たちもレンジローバーを運転してみて、ランドローバー・シリーズ2より大幅に快適な乗り物だとすぐに実感した。ストロークの長いサスペンションの恩恵だよ」とロジャーも賛同する。

そもそもレンジローバー・プロジェクトのヒントとなったのは、柔らかなスプリングで優れたハンドリングを擁するローバーP6サルーンだった。スペンサー・キングは、耕した畑をP6で走り、その想像を超える性能に気づいたのである。社内では論争が勃発した。真のオフローダーでコイルスプリングがリーフスプリングの代わりを務められるはずがないと信じて譲らない者もいたのだ。

「オフロード性能の鍵はトラクションだ。四輪駆動なら四輪すべてでトラクションを発揮する必要がある。サスペンションが硬すぎるとトラクションを失うんだよ」とロジャーは説明する。

発表会に先立ってレンジローバーのオフロード性能を怪しむ記者がいたとしても、ブルーヒルズ鉱山で疑問はすべて払拭されたはずだ。エンジニアのジェフ・ミラーがそこでデモンストレーションを行い、優れた性能を見せつけたのである。その日の写真には、かつての銅山を取り巻く岩だらけの急坂をレンジローバーが駆け上る姿や、砂煙を上げて丘を疾走する姿が収められている。

今もブルーヒルズ鉱山は相変わらず美しい。ただ、ここでのオフロード走行は規制が厳しくなり、新旧のレンジローバーは駐車場で1日を終えることとなった。様々なファミリー向けSUVが立ち去るのをじっと待つ。どれもレンジローバーから派生して誕生した車だ。
やがて太陽が海に沈み始めたが、まだ1台残っている。キャンピングカー兼サーフボード・カヌー運搬用にフル装備した最近のランドローバー・ディフェンダーだ。どうやらオーナーは既にバーベキューを始めており、夜はシーカヌーを楽しむ予定らしい。レンジローバーの背後に写り込む位置だが、3台が並ぶ写真も一興だ。

こうして素晴らしい1日は幕を閉じた。海沿いでフィッシュ&チップスに舌鼓を打ちながら、ロジャーとマイケルは新旧のレンジローバーについて話が尽きない。例えばソフトダッシュボードになる前の4ドアモデルが格安だ、といった話だ。

サポート役として同行した最新モデルの頂点、SVオートバイオグラフィーを見ながら、ロジャーは「素晴らしい車だと思う。オフロード性能も桁外れだね」と高く評価した。

1970年に集まったジャーナリストの中に、レンジローバーの製造が2018年も続いていると予想できた者が果たしていただろうか。たとえいたとしても、最新モデルの装備やパワーアップのレベルは想像をはるかに超えるだろう。135bhpだった出力がオートバイオグラフィーでは550bhpに達するのだ。初期モデルの高騰ぶりにも驚嘆するに違いない。葉巻の煙にむせて咳き込む姿が目に浮かぶようだ。

1971年レンジローバー(上写真/左)
エンジン:3528ccV8気筒、OHV、ゼニス製ストロンバーグ式キャブレター×2
最高出力:135bhp4750rpm 最大トルク:25.6kgm2500rpm
変速機:前進4MT、ハイ/ロー2段トランスファーボックス、四輪駆動
サスペンション:リジッドアクスル、コイルスプリング、テレスコピック・ダンパー、
リアにハイドロマット・セルフレベリング機構 ブレーキ:サーボアシスト付きディスク
車重:1724kg 最高速度:153km/h 0-100km/h加速:15.2

2015年レンジローバーSVオートバイオグラフィー(上写真/右)
エンジン:5000ccV8気筒、DOHC32バルブ、スーパーチャージャー、
電子制御燃料噴射装置 最高出力:550bhp4000rpm
最大トルク:69.1kgm3500rpm
変速機:8AT、ハイ/ロー2段トランスファーボックス、四輪駆動
サスペンション:電子制御エアサスペンション、(前)マクファーソンストラット、
(後)ダブルウィッシュボーン ブレーキ:サーボアシスト付きディスク
車重:2560kg 最高速度:240km/h 0-100km/h加速:5.5
 

 

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation: Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA Words David Lillywhite

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事