VWタイプ2の荷台にミウラのフロントが!? 秘蔵のジャンクヤードの全貌がオークション開催で明らかに

Robin Adams ©2024 Courtesy of RM Sotheby's

1950年代後半に北米に渡ってきたドイツ人移民、ルディ・クラインは当初、精肉店を営んでいたがヨーロッパの名車の解体・パーツ売買が儲かると気づき、1967年に「ポルシェ・フォーリン・オート・レッキング」を設立。なお、ポルシェから訴えられることを危惧し、あえて「Porsche」ではなく「Porche」とスペルを変えていたという。





"ポルシェ"という名称ではあるが、ポルシェだけでなくヨーロッパの高級車を片っ端から仕入れていたようだ。とはいえ、クラインが購入した車の多くは事故車や焼損車、あるいは部品取り車であった。戦略的だったのか、頑固だったのか、クラインは中古部品に非常に高い価格を設定したため購入は困難を極めたという。そのためか在庫は積み上がっていき、時間の経過とともに"コレクション"へと昇華していった。







とはいえ、車に興味がない人には鉄くずにしか見えまい。一般的な車好きが見ても、おいそれと手を出せる代物ではない。しかし、一部のマニアックな車好きが見れば、お宝である。なかにはジャンクヤードに似つかわしくないほど綺麗な状態のホルヒなどが含まれているが、これらはドイツの博物館にクラインが貸し出していたものだという。

ロサンゼルス近郊にあるポルシェ・フォーリン・オート・レッキングは、現在「クライン・アウト・ハウス」(8935 S Alameda St, Los Angeles)という看板が掲げられている。ジャンクヤードの周囲は塀で囲まれており、中にどのような車両が収まっているのか外からは窺い知ることはできない。

Robin Adams ©2024 Courtesy of RM Sotheby’s

Kegun Morkin ©2024 Courtesy of RM Sotheby’s

Robin Adams ©2024 Courtesy of RM Sotheby’s

2001年、ルディ・クラインは死去し、息子たちであるベンとジェイソンが引き継いだ後も、基本的に門戸は閉ざされたままだった。ただ2017年、ドイツ人写真家ディーター・レブマンと著者ローラント・ローヴィッシュが取材を許されたそうで、後に「Junkyard: Behind the Gates at California's Secretive European-Car Salvage Yard(ジャンクヤード:カリフォルニアの極秘欧州車サルベージヤードの門の向こう側)」という写真集が発売された。

そんなクラインのコレクションが、RMサザビーズによって「ザ・ジャンクヤード:ルディ・クライン・コレクション」(10月26日)ならびに「ザ・ジャンクヤード:オンライン」(10月26日~28日)と銘打ったオークションで放出される。

ちょっと目を引くのは、1968年式ランボルギーニ・ミウラP400のフロントエンドやホイールを文字通り"積んだ"、1969年式のVWタイプ2ピックアップだ。事故車両のミウラP400は1989年にシャシー番号(3646)が入ったフレーム、エンジン、トランスミッションはイタリアに送られ、見事な復活を遂げている。2017年にはアールキュリエルのオークションに出品され、88万8040ユーロで落札された記録がある。残っているフロントエンドこそ"本物"であるのだが、シャシー番号がない今は鉄くずである。

Robin Adams ©2024 Courtesy of RM Sotheby's

タイプ2ピックアップにミウラP400のフロントエンドを積んだ"セット"で出品されているのは面白い。ミウラP400のフロントエンドだけではどうにもならないし、タイプ2ピックアップをレストアするには莫大なコストがかかり、現在価値に達する可能性は極めて低い。だから、落札予想価格は2万~3万ドルと謳われているのだろう。もっとも、この落札予想価格が高いのか安いのかすら、実は判断しにくいのも事実だ。

Robin Adams ©2024 Courtesy of RM Sotheby's

見方を変えてこのセットだけでなく、今回の出品車両/出品物全般に言えることだが、"現代アート"として考えたら安く感じるから面白い。ミウラP400のフロントエンドは正真正銘の本物であるし、タイプ2ピックアップの朽ち果てた感も実にシュールである。

Robin Adams ©2024 Courtesy of RM Sotheby's

ちなみにミウラは1967年式P400(落札予想価格35万~40万ドル)、1968年式P400、1969年式P400S(両車、落札予想価格50万~70万ドル)が出品されている。いずれも車両も写真を見るとジャンクヤードに相応しい、“ポンコツ”ぶり。しかし、腐っても鯛とはこのことで、たとえレストアに1億円かかっても現在価値に十分見合うゆえにオークションは白熱すると予想する。

Patrick Ernzen ©2024 Courtesy of RM Sotheby's

Patrick Ernzen ©2024 Courtesy of RM Sotheby's

Patrick Ernzen ©2024 Courtesy of RM Sotheby's

なお、ルディ・クライン・コレクションにはグランプリドライバー、ルドルフ・カラッチオラに納車された1935年式メルセデス500 Kスペシャルクーペ、29台しか生産されなかった軽量合金ボディを持つ希少な1955年式メルセデス・ベンツ300 SL「ガルウィング」、1967年式イソ・グリフォA3/Lスパイダープロトタイプなども含まれる。

Kegun Morkin ©2024 Courtesy of RM Sotheby’s

Robin Adams ©2024 Courtesy of RM Sotheby’s

Kegun Morkin ©2024 Courtesy of RM Sotheby’s

現代アートとして、出品リストをチェックしてみてはいかがだろうか?


文:古賀貴司(自動車王国) Words: Takashi KOGA (carkingdom)

古賀貴司(自動車王国)

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