英国新興メーカーイネオス「グレナディア」、ディフェンダーと比較すると何が見えてくる?

Octane UK

状況は絶望的だと思われた。狭い森の中の道を2台のグレナディアでしばらく走っていると、前夜の強風でモミの木が倒れており、行く手を阻まれてしまったのだ。コースを真横に横たわるモミの木はすねの高さほどあり、迂回できる方法はない。

そのとき、経験豊富なオフローダーである私のコ・ドライバーは少し考え込んだ後、こう言った。

「私なら乗り越えられるかもしれない」

グレナディアを製造するイギリスの自動車メーカー「イネオス」の広報担当と私で枝を抑え、木の幹のしなやかな部分に過重をかけると、彼は無事にそれをやってのけた。私は本気で感心した。

このような状況こそ、イネオスが購入希望者にグレナディアの性能を試してもらいたいシチュエーションだろう。実は、イネオスが『Octane『に試乗を許可するまでには、ちょっとした説得が必要だった。以前、普段は600馬力のスーパーカーをレビューしているような自動車雑誌によるロードテストで、グレナディアがネガティブな評価をされてしまったからだ。

正直なところ、2023年3月にグッドウッドの敷地内外で初期型グレナディアを20分ほどドライブしたととき、私はなんとも言えない気持ちになった。オフロードでのポテンシャルは感じられたが、ロードカーとしては不満が残るものだったからだ。ローギアの時はステアリングの反応が鈍いし、T字路を抜けた際に、ステアリングを素早く目一杯回す必要があるうえに、ステアリングセンターに自動的に戻ってこないのだ。



それでも、グレナディアは「有識者」が言うよりもずっといい車なのではないかという気がした。そして、1週間乗ってみて、それは本当だと確信することができた。

オフローダーとしての装備は非常に充実しており、ルーフにあるボタンを長押しすることで作動するフロントとリアのアクスルデフロックと、ハイ/ローレバーのノブを持ち上げて引くことで作動するセンターデフロックが別々に選択できる。現行のディフェンダーのような「全部やってくれる」お手軽さはなく、自分で判断しなければならない。それはネガティブに聞こえるかもしれないが、オフロードを楽しむのであれば、747のパイロットのようにすべての機能を自在に使いこなし、操作することには、なんとも言えない満足感がある。

また、(例えばディフェンダーのフロントウイングに施されたプラスチック製のフェイクチェッカープレートとは異なり)純粋に実用的な工夫もたくさんある。車両のスペックシートに「ヘビーデューティー・ユーティリティー・フローリング with ドレインバルブ」と記載されている時点で、おもわずニヤリとしてしまう。さらに、また水深の深い場所を渡る時にバッテリーやECUを浸水から守るためのコファー・ダムが中央にあり、テントやオーニングを取り付けるための金属製チャンネルが各側面に設けられている。さらに、縦に分割されたテールゲートは左側のドアの幅が狭いため、コンパクトな駐車スペースでも小物の出し入れがしやすい。



“ツリードライブ”の経験で明らかになったように、グレナディアは荒れた道ではほとんど止まることはない。また、ディフェンダーよりも高性能に見える。というのも、ハイマウントされたラダーフレームのシャシーの下にはクリアな空間があり、スチールリムにディープサイドウォールのBFグッドリッチ製オールテレーンタイヤが装着されているからだ。しかし、最大車高に設定されたエアサスペンションのディフェンダーと比較すると、重要なアプローチ/ブレークオーバー/ディパーチャーアングルはほぼ同じだ。見た目だけの話ではあるかもしれないが、グレナディアは究極のエッジを持っているように感じられる。

グレナディアに搭載されるBMW製3.0リッター直6ディーゼルのツインターボも、エコ主義者はともかく、伝統主義者は喜ばせることができるだろう(イネオスは、BEVまたはレンジエクステンダー付きEVの新モデルである「フュージリエ」を発表したばかりではあるが)。パンチがあり、控えめなうなり音が心地よく、マニュアルシフトも可能な8速オートマチックギアボックスとの相性もいい。オンロードでは、ディフェンダーよりもさらに高い位置に座ることになるが、フロントウィングラインが低いので、路上でのポジション取りは簡単だ。実を言うと、Aロードでハッスルするにはディフェンダーほど安心感はないが、ハイサイド・バン的な乗り方ならまったく問題ない。

最も重要なのは、イネオスがステアリングに手を加えて、よりシャープで応答性の高いものにしたことだ。イネオスのコマーシャル・マネージャー、ジョージ・ラトクリフ(創業者でMDのジム・ラトクリフの息子)と電話で話したときに、この疑念が確信に変わった。運転席の左足のスペースに不快な侵入を引き起こす排気ダウンパイプについて、あるYouTuberが見つけた可能な解決策について言及したところ、ジョージはそのウェブリンクを確認してこの改良を取り入れるかどうか検討してみると約束してくれた。このような迅速な対応がJLR(ジャガー・ランドローバー)で想像できるだろうか?



私たちのテスト車両の乗り出し価格は79,000ポンド(約1500万円)近くで、ディフェンダー110の領域だ。林業従事者かガス管敷設を生業とする人でない限り、ディフェンダーの優れたオンロード・ダイナミクスを考えると、日常的にオールラウンドに使うためにグレナディアを買うことを正当化するのは難しいのは否めない。それなのに、それなのに……。グレナディアには独特の個性があるのだ。ドライバーは誇示よりも機能を重視する真の愛好家のクラブに属しているかのような気分になることができる。私はそれが好きだ。

おそらく、本当に比較すべきはディフェンダーではなく、数多くの専門家が大金を出して欲しがる数多くの「アップグレード」や、装飾が施された旧式のディフェンダーなのだろう。私はグリーン・オーバルの熱烈なファンだが、どちらが好きかは明らかだ。



文:Mark Dixon

オクタン日本版編集部

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