【追悼】マルチェロ・ガンディーニが若者に伝えたい大切なメッセージ|トリノ工科大名誉博士号授与セレモニーでのスピーチを全文掲載

Lectio Magistralis, Marcello Gandini


自動車とは人類の夢であり希望である


それでは自動車はどのようにして生まれるのでしょうか?すべてのプロジェクトの前提となる条件はほぼ次のとおりでしょう。

• マーケティング指標
• 達成すべき目標
• そのモデルで主張すべき特性: パフォーマンス、経済性、革新性、また大衆のウケ
• 全体的なアーキテクチャ
• 良好な機能性
• 装備(価格帯による)
• 安全性(現実的または望ましい)

そして、この段階におけるデザイナーの役割は次のとおりです。

• 潜在的な顧客層を最大限に拡大すること
• 技術的特徴、ブランドイメージを強調すること
• キャラクターや性能、豪華さ、本質性などでエンドユーザーを刺激すること
• プロジェクトの前提条件について明確な知識を持つこと
• 自分の分野(歴史的および現在)に関する重要な知識を持っていること
• 現実的な問題に対してさまざまに官能的な解決策を生み出すこと

最後の項目こそデザイナーの最も重要な役割です。それは感情や感情を引き起こすことだからです。



ディーノ308GT4の起死回生策として2シーターオープンモデルをフェラーリにプロポーザルしたのが1976年トリノショーに出品されたこの308GTレインボーだった。308GT4をベースとし、変形タルガトップを備える。

デザイナーは所有者の個性がそのモデルによっていかに表現できるか、そのことをまずは確認しなければなりません(多くの場合は肯定的な意味ですが、そうでない場合もあります)

誘惑のアクションを優先するのがデザイナーの仕事だからです。自動車は複雑なバランスで成り立っています。たとえば日常に使うシティカーなら次のように話しかけてくるデザインが適当でしょう。「私は気さくで、フレンドリーで、親切で、歩行者を尊重し、信頼できます。優しいのです。そんな価値が私にはあります。そのうえ私は万能ですし、皆さんに好かれたいとも思っています」

スーパーカーならこんなふうでしょう。「私はとてもアグレッシブで、パワフルで、速くて、時に気難しいのですが、自分の魅力には自信を持っています。ドライバーもそんな人なんですよ」

大型セダンならこう言うはずです。「私はエレガントです。私をドライブするオーナーは重要人物で、バランスのとれた賢い人なんですよ」

デザイナーはつまり自動車に言葉を持たせることが出来るのです。デザイナーは比較を避ける方法として、非スタイリッシュ、それもスタイルですが、を選択することもできます。

意図的に不調和で、巨大で、やや醜い自動車は、「私は個性に満ちている」と語っているかのようです。「私にはカリスマ性があり、他人とは違っていたい、違うことを恐れません。オーナーも同じようです」

自動車には社会的かつ文化的な役割があります。特に都市においてはそれらが重要な部分を占めています。人々を定義し、昔からの夢を更新する対象でもあります。これらの考察から自動車の新たな構想が始まるわけですが、最初のデザインはアイデアを適宜修正するために不可欠なものであり、そしてそこからそれらをCAD、モデル、プロトタイプで徐々に進化させていくのです。

アウトビアンキA112ラナバウトは1969年トリノショーに発表されたコンセプトカー。その後、デザイン手法が部分的にフィアットX1/9やランボルギーニカウンタックLP400、ランチアストラトスにも流用された。

私から4番目に明らかにしたいメッセージは「テクノロジーを何のために使うか」、です。それはアイデアを実現するための手段です。だから書くこと、描くこと、計算すること、創造することをやめないでください。鉛筆とは脳、つまりアイデアと現実をつなぐ素晴らしい手段です。一枚の紙と一本の鉛筆からプロジェクトを開始するということは、オリジナルのアイデアを思いつく手段であり、すべて驚異的なテクノロジーはそこから生まれてくるはずです。

特別に注目に値する自動車には共通項ともいうべき一定の役割があります。私のキャリアを通じて、そしておそらく今日私が受けている評価の根底にもそれはあります。自動車はイノベーション、技術、エンジニアリング、機能の研究の絶え間ない原動力によって支えられているのです。

カーデザインは今、過度の標準化に悩まされています。すべてがすでに完成しているかのようにも見えます。

おそらく対象そのものを再定義する必要すらあるのでしょう。

これは私が常に考え続けてきたことでもあります。過去20年間においてはさらに大きな関心を持って取り組んできました。今日、これまで以上に自動車は全体として考えられ、設計される必要がありますが、多くの場合、内装、外装、機構は依然として別個の部品として考えられており、形状に至って技術的にもそして生産の段階においてもほぼ分離された状態になっています。

デザインの教育や職場においては、独創的なアイデアよりも流行りのトレンドが重視されるようになりました。スタイルはただそれまであった姿を追い求めるだけで、成功したデザインを際限なく繰り返そうとするかのようです。

いったいイノベーションはどこにあるというのでしょうか?

私たちは変化する勇気を持たなければなりません。自動車は依然として、最初にシェルが構築され、その後に何千何万ものパーツが組み込まれる唯一の工業製品です。

操作系や機能的な機械部品、計器類、装備品、小さな部品やカバーなどがさらに追加されます。まるでボトルに入った船のようです。

ここ数十年間の私の研究はまさにこの問題に焦点を当ててきました。シンプルに自動車の構造を構成する部品を減らし、あらかじめ構造化された材料を使い、同時に作り終えることができるよう工夫するのです。複合材料やサンドイッチ構造、構造そのものの中で全体または一部を事前に一体成型したメカニカルパーツを使用することで、単なるボトルシップではなく、すでに完成した船であってもなんとか入れることのできるボトルを作ることができました。

必要な作業を劇的に削減できるデザインと工法です。もちろん、その結果、全体的なコストもまた削減されるのです。

80年代に私のアイデアに完全に従って設計、製造された新しいエンジンが発表されました。片側にメカニックがいて、その隣にボディシェルがあり、2人の作業員が15分で走行可能な状態へと組み立てることができました。このプロジェクトとプロトタイプはさまざまな特許で保護されており、その後、フランスの大手自動車会社が買ってくれたものです。

最近ではこの成果を一層明確に進化させた研究を行い、新たな特許と興味深い複合材料を使ったアイデアをインドの巨大メーカー向けに開発しました。この場合もまた車両を分解した状態でプレゼンテーションを行なっています。一部を片側に置き、他の要素はもう片側にあってわずか10分で合体させ、世界No.1企業に向かって一緒に走り出したのです。

非常に少ない要素点数で同じ機能を発揮すること。これこそ将来の課題というべきでしょう。

私が若い皆さんに伝えたい最後のメッセージは、「誰かと同じことをあえてしないで戦う」ということです。すでに行われたこと、同じことを繰り返す必要などありません。難しいかもしれませんが、新しい解決策を見つけて欲しいのです。もちろん簡単なことではありません。今日の自動車会社では、特に高級ブランドにおいては、いつまでも同じような自動車を作りたいという誘惑に駆られるものです。過去を尊重することは大事ですが、決して自分自身の過去のレプリカを無限に作っていいわけではありません。過去をコピーし台無しにすることを避けると同時に、起業家精神と創造性を示すこと、将来を見据え、革新と前衛、真の天才をサポートする勇気を私は望みます。ビジネスにおいて変化と勇気が必須となる時代が限りなく近づいてきました。企業や各CEOの戦略に今後ますますそういったことが反映されることでしょう。私はあなたたちの味方であり続けたいと思っています。

今回いただいた名誉な学位をマリエラ・メンゴッツィに捧げたいと思っています。彼女のことを私は永遠に忘れられないでしょう。彼女の素晴らしい人間性と優しさに感謝しています。

ご来場の皆様、そして快く展示に協力いただいたオーナーの皆様、誠にありがとうございました。




文:西川 淳 Words: Jun NISHIKAWA

(2024.3.14加筆)

西川 淳

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