24台しか生産されなかった希少なランチア・ハイエナに試乗!

Barry Hayden

この記事は「思わず笑みがこぼれる「笑顔誘発マシン」|ランチア・ハイエナ誕生の背景」の続きです。



久しぶりにハイエナを運転する機会を得たことで、筆者にとっては実に3台目の試乗となった。総生産台数の8分の1に乗ったことに優越感を覚えたが、知人の編集者は12台に乗ったというので、上には上がいる。当該車両は、ジラード&Co.が現在販売しているものでハイエナ生産第2号車(ベース車であるインテグラーレは1991年式)で、デルタのリアシート付きというめずらしいモデルだった。試しにリアシートに座ってみたところ、足元は問題なかったが、頭上スペースがタイトだったことを報告しておく。

リアシートは、この個体独自の装備だ。

ハイエナを飼い慣らす


最初のオーナーは、イギリスとイタリアの自宅を行き来するためのエキサイティングかつ快適な車を求めていたイギリス人の銀行家だった。そもそもハイエナのエンジンはすべて最高出力が250bhpに引き上げられていたが、この車にはターンフロー式シリンダーヘッド、ハイカムシャフト、チューブラー・エグゾーストマニフォールドなどを組み込むことで、ほぼ 300bhpを達成していたといわれている。そのほか、クロスドリルド&グルーブ入りディスクブレーキ、容量90リッターの競技用燃料タンクを備え、航続距離450マイルを実現していた。

2004年10月に次の所有者の手元に渡り、ミラノの「Mavcorse Preparazione Sportive」というショップでブラックに再塗装された。内装もすべて取り払われ「テクノファイバー」と呼ばれるイタリアの高性能断熱材が奢られた。2012年にはフランス在住のコレクターが入手し、カムシャフト、バルブスプリング、アジャスタブル・カムシャフトプーリー、ギャレットGT 28ターボチャージャー、シリコン製のウォーターホース/オイルホース、大型インタークーラー、カーボンエアインテーク、リアルタイムエンジンマッピング、ブースト計など改良を加えた。そして2018年にイギリスに戻ってきた。

OMP製のステアリングホイールを握ると、目の前にはダブルバブルルーフを彷彿とさせるダッシュボードが目の前に広がり、カーボン製のドア内張はザガートの「Z」が見えるようなザガート・エッセンスを随所に感じる。それと同時に、アルファスパイダーの外側ドアレバー、フィアット・ティーポの内側ドアレバー、アルファ75のエアコン吹き出し口など流用品の出どころを言い当てられるのも楽しい。

シートポジションはデルタのプラットフォームを流用しているだけあって座高が高めで、スロットルは右にずれている。シートポジションを足元で合わせるとステアリングホイールまでの距離が遠く、ステリングホイールで合わせると頭上がフロントウィンドウに近すぎる、昔ながらのイタリア車は今となってはノスタルジックだ。



エンジンを始動させると、インテグラーレの4気筒エンジンのようなガラガラとした威勢の良い音がするが、アイドリング音はエキゾチックさからは程遠い。マルチシリンダーの芳醇さはないが、アクセルペダルを踏み込むと、さながらアルファ“105ジュリア”のツインカムの唸るようで、打楽器のような、景気のよい音が響き渡る。ひとたびターボが効き始めると、まったくことなるキャラクターが顔を覗かせる。スーパーカーとまではいかずとも、フェラーリ348くらいならさほど苦労せずに着いて行けるだろう。

グリップ力があり、挙動は落ち着いていて、ハンドリングは正確。スピードを上げると路面を滑空するように走る。コーナリングではまるで路面に掴むようなスタビリティを披露し、ボディロールも少ない。まるでラリーカーで攻めているかのようだ…と記したくなる。ベースがインテグラーレなので当然なのだが。しかし、ドライブトレインの堅牢さとステアリングホイールのダイレクトな操舵感は、まったくインテグラーレを“感じさせない”。同様に、変速の正確さと容易さは、当時のゴムのようなフィアットの“ガラクタ”とはまったく性格を異にするものだ。



また、ボディ剛性の高さも顕著だ。インテグラーレの場合、ボディがバラバラに荒れた路面を乗り越える雰囲気だが、ハイエナは塊感に満ちている。乗り心地は、走り出してすぐはハードに感じるが、速度が出てくるとよほどの悪路でないかぎりスムーズにいなす。高速移動車両として、これほどうってつけな車両はそうそうないし、ドライバーは笑みを浮かべる。もっともイギリスとイタリア間の移動は、後席の乗員には辛かったかもしれない。



ハイエナはあまり売り物が出てこないが、24台しか生産されなかったゆえに当然のことだろう。筆者が前回ハイエナを運転したのは2010年で、10万ポンドで売りに出されていた。ちなみに前々回に運転したハイエナは2001年のことで、6万ポンドで販売されていた。

フェラーリ348は総生産台数約7000台、安いものは5万ポンド前半から見つけられ、極上品でも8万ポンドほどで狙える。対するハイエナの現在の相場は2010年の2倍以上である。フェラーリ348よりも安くデビューするはずが、ハイエナはほぼ同価格で販売され、今ではフェラーリ348をも凌ぐ。

ベースは控えめなインテグラーレながら、ザガートの魔法がしっかり効いているのはハイエナも例外ではない。



1991年式ランチア・ハイエナ・ザガート(標準)
エンジン:1995cc、4気筒、16バルブ DOHC、ターボチャージャー、燃料噴射装置
最高出力:250bhp/5750rpm 最大トルク:220lb-ft/3500rpm
トランスミッション:5段 MT、4WD
ステアリング:ラック&ピニオン(パワーアシスト付き)
サスペンション(前/後):マクファーソン・ストラット、コイルスプリング、アンチロールバー
ブレーキ:ブレンボ製ベンチレーテッド・ディスク 車両重量:1148kg
最高速度:143mph(230km/h) 0-62mph加速:5.4秒


編集翻訳:古賀貴司(自動車王国) Transcreation:Takashi KOGA (carkingdom)
Words:Glen Waddington Photography:Barry Hayden

古賀貴司(自動車王国)

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事