ワンオフのモンスターマシン「ファララック」その名の由来は?

Photography:Paul Hardiman

ファレル、アラード、キャデラックから名付けられた「ファララック」は、ワンオフのモンスターマシンだ。偉大なるファララックの話は、オーナーのトニー・ビアンキ抜きには語れない。長年、あらゆるタイプの一風変わったレーシングカーを所有してきた人物で、今も車と飛行機で少数ながらも幅広いコレクションを持つ。中でも40年近く使い続
けているのが、このシンプルな歴戦の強者だ。

ビアンキに話を聞いた。「ファララックMk1は、1950年代に、自転車の選手だったドン・ファレルが造った車だ。彼は元々アラードJ2を所有していたが、1953年か54年にさらによいJ2を購入した。ピーター・コリンズがアストンマーティンのシートを獲得する前にレースで使っていたマシンだ。ファレルはそのボディをル・マン風の全体を包み込むスタイルに造り直した。速くなったが、ハーレーフォードマナー・ヒルクライムで大事故を起こして、派手に横転してしまったんだ」

以前からチューブラーフレームの車を造ろうと考えていたファレルは、事故車のパーツを移植して、1958年頃にファララックMk2を造り上げた。

「最初から大成功だった。ファレルはフロントを
独立式にしたいと考え、アラードのエンジニアが、練習代わりにウィッシュボーン式のフロントを設計した」フロントは、ゴムではなく、硬いリン青銅製ブッシュでピボットした。

ほかの設計も巧妙だ。アルヴィス・スピード25の4速シンクロ式ギアボックスを使い、フレキシブルカップリングでハリブランド製ディファレンシャルと接続。リアサスペンションはド・ディオン式だ。エンジンとトランスアクスルは短いプロペラシャフトで接続する。ブレーキはドラム式だが、放熱フィンと通気孔付き。エンジンはもちろんキャデラック製のV8で、オリジナルはコリンズのJ2に載っていたものだが、ブローを起こして現在は別のエンジンを使用している。

「以前は6.0か6.9リッ
ターだったが、私はオリジナルと同じ390cu-in(6.4リッター)にしている。私が入手したのは1970年代後半で、その後シャシーに少しひびが入り始めたので、1984年にリビルドした。でも、実質的にはヘッドレストを付け加えた程度だ。ロールオーバーバーですら2006年にやっと取り付けた」

名工モーリス・ゴムの手になる薄いアルミニウム製ボディをまとい、車重は1000kgを切る。その大半がエンジンだ。「ホーリー製2バレル2基で、約400bhp、650lb ftを発揮する。まだファレルが所有していた60年代に、ブラックブッシュのドラッグフェストでロータス30とローラT70スパイダーを破ったこともあるくらいだ。あるとき、バイパーのオーナーから、トルクについて分かっていないというようなことを言われたので、乗せてやったら、信じられないと驚いていたよ。この車は1トン以下で、彼の車の3分の2ほどだから無理もない。エンジンの吹け上がりはイマイチだが、シルバーストンのクラブサーキット(ショートコース)ならトップギアで走ることができる。

足りないのはトップエンドだ。あと500rpm伸び
れば170mphに届くだろうが、シルバーストンの以前のピットストレートで142か143mph止まりだ。その辺りからフロントが浮き始めてしまう」

「数年前までは、ドラムブレーキのスポーツカー
で常にトップ3に入ったものだが、最近は無理だね。みんながエンジンやシャシーのチューンに大金をつぎ込むようになった。この車も速くなるだろうが、私は変えたくないんだ。ただ、サスペンションは硬くした。パワーは少し落ちているのに、スネッタートンでラップタイムが以前より3秒上がったよ。億万長者だったら違うやり方をしていたかといったら、そんなことはないと思う」

「効果的な車で、素晴らしいオールラウンダーだ。1時間走るごとにリビルドしなきゃならない神経質なレーシングカーとは違う。コンロッドだって標準仕様だよ。ファレルと同じように、私もスプリントレースからヒルクライム、ドラッグレースまで参戦してきた。ブライトン・スピードトライアルにも出たし、"ポム"(ポメロイ・トロフィー)には何度も挑戦している。ヴェルナスカ・シルバーフラッグやモン・ヴァントゥなど、ヨーロッパ中でざっと250 レースは出場しているかな。ディジョンでは、7台のFIAコブラに割って入って2位になったよ」

「でも、あくまでスポーツカーなのよ」と妻のピ
アが念を押す。ピアはファララックで何度もクラス最速ラップを叩き出したことがある。ビアンキは笑顔でこう言った。「彼女はこれで買い物にも行くからね」

Words and Photography:Paul Hardiman

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