ミウラはV12エンジンのサウンドだけでドライバーを夢中にする!|偉大なる闘牛【後編】

Stephane Abrantes

この記事は「瞬く間に伝説となったランボルギーニ・ミウラ|偉大なる闘牛【前編】」の続きです。



全開の快感


50台を生産するという目論見は早々に達せられたものの、問題があった。ミウラがまだ発展途上にあったからだ(もっとも完成したことなど最後までなかったという意見さえあるのだが)。

1号車が 1966年の12月にデリバリーされたものの、根本的な脆弱性がすぐさま露見し、発表時の名声は一気に窄んでしまう。68年に発表されたミウラSでは、その前年遅くに施された鋼管フレームの増強に加えて、加速における沈み込みを抑制するべくリアサスペンションのマウント位置も変更されていた。同時にイタリア車界の馬力競争で先頭をキープすべくエンジンの最高出力も20bhp引き上げられている。

そして1971年のジュネーヴにて、385bhpを誇るグランドフィナーレ、ミウラSVがデビューした。SVでは太いタイヤを覆うべくよりグラマラスなリアフェンダーを採用し、フロントエンドのグリルは拡大され、ヘッドライトの“まつ毛”がとうとう廃されていた。けれども最大の改良はカウルの内側に施されていたのだ。

ミウラの横置きエンジンレイアウトの欠点はあまりに明らかだった。エンジンとトランスミッションが潤滑油を共有し、そのほとんどが伝家の宝刀 V12エンジンに捧げられていた。

4000rpm以下では、バルブトレーンのガタガタ音やトリプルチョーク・ウェバーキャブ・カルテットの発するゴロゴロ音、さらにはトランスミッションの鳴きを聞き分けることなど不可能に近かった。けれども4000rpmを超えてくれば信じられないほど強力なサウンドをミウラは奏でる。ただただ引っ張り続けるだけで、だ。

殊更ていねいに操作せずともギアシフトは容易に行えた(ギアレバーを巧みに操作しゲートを横切らせて差し込むなどといった必要はない)。多くのランボルギーニと同様に、ミウラが生き生きと走ってくれるのは全開を試みた瞬間だけであり、その時点で、つまりはV12のエンジンサウンドだけで、ドライバーはミウラに夢中になってしまうのだ。完全に、そして永遠に。



レヴリミットの周辺を探りつつ右足を踏んでいるときの唸り音や呻き音、金切り音に、右足を戻した時の破裂音や炸裂音、発砲音の、それはミックステープを聞いているかのようだ。このサウンドに心を動かされない車好きなどこの世にいるはずもない。

もちろんミウラの性能は今日の基準からみて、素晴らしく速いとはいえないものだ。ワインディングロードでは何台ものホットハッチからカモにされることだろう。けれどもそんなことは問題ではない。感覚的には十分に速いのだし、走りの質はある種独特だ。



それだけじゃない。薄く広がったウィンドウに反射するダッシュボードの先の、ボンネット一面に広がった景色には瞬時に引き込まれてしまいそうになる。それはもはや罠だと言ったほうがいい。明らかに感覚でドライブする車であり、現代のスーパーカーとはかけ離れた異質の存在なのだ。そこに技術的なサポートなど一切ない。その代わり、すべての情報は車から常にドライバーの五感へと伝えられている。

SVは十分に速いし、ニンブルで、しかも評判とは違ってフロントが浮くこともない。初期型でハードなコーナリングを試すと少なからずロールを感じたものだが、SVではほとんどなく、それどころかアンダーステアやオーバーステアを論じるまでもなく、ニュートラルなハンドリングを見せる。サーキットではまた別の表情を見せることだろう。けれども雲を目指して走っているような峠道では、とにかくコーナーへと突っ込み、素早く立ち上がってまた次のコーナーを目指すということを繰り返すのみ。

設計に問題があるのか低速域では不平を漏らすサスペンションも、高速域になればなるほど滑らかに作動するようになる。そしてローギアードでアシストなしの重いステアリングも、低速域ではかなりの重労働を強いられるものの、動作中の手応えは極めて正確だ。

セルフセンタリングがないため、タイトターンではスロットルを踏み込む前にステアリングを目一杯戻さなければならないけれど、それもまたミウラのドライブに没頭するという経験のひとつでしかない。

とはいえ、ひとつだけ、最後まで掴みきれない特性があった。それはブレーキだ。ガーリングのブレーキは急な下り坂でもフェードせずによく機能してくれた。けれども、常に上手く働いてくれるわけではなかったのだ。時にはバルクヘッドに達するまで踏んでいるというのに、まるで反応しないこともあった。

もうひとつ重要なこと、それは素晴らしいサウンドを楽しんでいる間には十分な換気が必要だということ。よくあることだけれど、車内はすぐに香ばしい空気で満たされてしまうのだ。



ミウラという車は大いなる批判にさらされることなどもはやない。何を言おうと、究極的には問題にならない。評価が揺るぎないからだ。ミウラは一個の作品としてさまざまに理解されうる。たとえば動く彫刻として、またはポップカルチャーの基準点として。

ドライブに熱中させる車であるとか、そのサウンドは死者をも奮い立たせるといった事実は、高カロリーなケーキを飾るちょっとしたオマケにすぎない。

ベストなスーパーカーではない。ベストなランボルギーニですらない。けれども最も偉大であったことは間違いない。それは僅かな違いではあるけれど、重要な違いでもあった。




編集翻訳:西川 淳 Words:Jun NISHIKAWA
Words:Richard Heseltine Photography:Stephane Abrantes


1971年ランボルギーニ・ミウラ P400SV
エンジン:3929cc、オールアルミニウム製、DOHC、60度 V型 12気筒、横置きリアミドシップ、ウェバー・トリプルチョーク40IDL-3L×4基
最高出力:385bhp/ 7850rpm 最大トルク:39.0kg-m/ 5500rpm
トランスミッション:5段 MT、後輪駆動 ステアリング:ラック・ピニオン
サスペンション(前/後):ダブルウィッシュボーン、コイルスプリング、テレスコピックダンパー、アンチロールバー
ブレーキ:ガーリング製ベンチレーテッドディスク 最高速度:275km/h  0-60mph:6.5秒

西川 淳

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