約4億円のとてつもないマシン、アストンマーティンヴァルキリーに『Octane』UK編集部が試乗!

Octane UK

アストンマーティンがミドエンジンのスーパーカーを開発したのは、あの奇抜なモデル「ブルドッグ」以来である。70年代に開発されたとんでもないウェッジカーが未開発のワンオフモデルにとどまったのに対し、約4億円の価格で販売されたヴァルキリーは、アストンマーティン、エイドリアン・ニューウェイ、レッドブルによる7年間の共同開発が完全に完了する前に150台が売り切れた。その理由は簡単で、ヴァルキリーがとてつもないマシンだからだ。

ニューウェイの影響は、機能的なディテールの隅々にまで及んでいる。これまでのどの市販車よりも、ヴァルキリーは空力効率の妥協なき追求によって形作られてきた。アストンのデザインチームは、美しいデザインを追求することを許されたものの、それはあくまで機能的な部分を損なわない範囲に限られた。



ヴァルキリーの心臓部には、コスワースが開発した6.5リッターV12が搭載され、リマック製のバッテリーとKERSシステムでパワーが補われている。最高出力は1139bhp/10,500rpmで、リカルド製の7速シングルクラッチ・シーケンシャル・パドルシフト・トランスミッションを介してリアアクスルにのみ伝達される。最高速度は220mph(354km/h)だ。

シャシーとボディはカーボンファイバー(シャシーはマルチマチック製)でできており、アクティブサスペンションシステムは、従来のスプリングとダンパーに加え、強力な油圧システムで制御される横方向のトーションバーが組み合わせられている。このトーションバーが、ボディロール、スクワット、ダイブを自在にコントロールし、車高を一定に保つとともに、ダウンフォースの圧縮作用に対抗しているのだ。

このように、トーションバーは非常に複雑な機械なのである。そのため、ボディはまるで機械部品を真空パックしたかのように密閉されている。コクピットも同様だ。足から乗り込み、固定されたシートに潜り込んで、高く設定されたペダルに足を乗せる。ペダルは前後に調整可能で、ステアリングホイールも取り外し可能だ。バタフライウィングドアを閉めれば、まるで宇宙を漂うカプセルにいるような感覚になる。





外から聞こえるヴァルキリーV12の咆哮は、これまで聞いたことのないような素晴らしいエンジン音だ。一方、室内では機械的ノイズが響く。耳栓をしても、ヘルメットの消音効果があっても、騒音レベルは極めて高い。一般道では、ノイズキャンセリングヘッドホンの装着が必須だろう。スーパーカーのサウンドトラックは、その魅力において不可欠ではあるが、聴覚保護のために聴覚を遮断してしまうことは、車と人とのコネクションを妨げてしまうため、サウンドノイズがヴァルキリーの最大の問題点だと言える。

ヴァルキリーのパフォーマンスに圧倒されないようにするのは大変なことだ。ハイブリッドで強化されたV12は、思わず酔ってしまうほど強力。トルクがありすぎて、まるでパチンコのようにコーナーから飛び出していく。9000rpmでシフトアップし、11000rpmまで回すと、少し朦朧としてくるほど強烈な加速を見せる。



ブレーキングも同様だ。バーレーンF1サーキットのスタート/フィニッシュストレートの先で、ヴァルキリーは時速322kmを叩き出すのだから、強力なブレーキが必須なのは当然だろう。ル・マンを何度も制したアストンマーティンの開発ドライバー、ダレン・ターナーは、タイトな右コーナー1まであと200mというところでブレーキングするようアドバイスしている。信じられないくらい遅いように思われるが、勇気を出せば実はそのブレーキングポイントでも十分処理が可能なのだ。

ヴァルキリーの大きな売りはダウンフォースだ。最終的には1800kgという当初の発表には届かなかったが、高速ブレーキング時のピークに到達する1100kgのダウンフォースは絶大なものだ。ハイブリッドパワートレインやこのようなアクティブサスペンションの複雑さを考えると、1270kgという重量は軽いとさえ言えるのではないだろうか。

自分の思い通りにヴァルキリーのコーナリングのポテンシャルを引き出すことは、非常にチャレンジングだ。ステアリングの重さと反応速度は完璧であり、マシンを正確にコントロールすることができる。しかし、アクティブサスペンションのボディコントロールからは、あまりフィーリングを感じられない。さらに、ミシュラン・パイロットカップ2というロードタイヤが限界に達していることも、その一因となっている。結局、スリックタイヤとウイングで構成された本物のレーシングカーのような、無限のグリップに身を任せるような感覚は味わえない。ABS、TC、ESCは、スリップする前に受け止めてくれるが、ヴァルキリーの性能を引き出すには、レーサーのマインドが必要なのだ。



ターナーによれば、ダイナミック・ドライビング・モードをロード・セッティングに切り替えると、アクティブサスペンションがよりボディを動かすようになるとのことなので、ヴァルキリーはレーストラックを離れれば、よりフィーリングの良いマシンになる可能性がある。

アストンマーティンにとって、F1の影響を受けた究極のロードカーというエイドリアン・ニューウェイのビジョンを生産し、ホモロゲーション化することは、酸素を使わずにエベレストに登頂するくらい難しいことだ。このような妥協のない要求に応えるためには、必然的に重要な妥協がいくつか必要となる。しかしこれはこのような並外れた車だからこそ許されるパラドックスなのだ。

文:Richard Meaden

文:Richard Meaden

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