知る人ぞ知るレジェンドマシン ランチア037の歴史を紡ぐモンスターが登場

Kimera Automobili

レストレーションとモディファイを意味する造語"レストモッド"がひとつの大きな車文化が世界的に広がった今となっては、"キメラ・アウトモビリ EVO37"と聞いてピンと来る方も少なくないだろう。知る人ぞ知るラリーマシン、ランチア037の開発に実際に関わっていた人々の協力を得たうえで、037を現代風に再解釈し、最新の技術を用いながら作りあげたレストモッドマシンである。

キメラ創設者であるルカ・ベッティは父親がラリードライバーであったことが大きく影響し、彼自身もドライバーとしてモータースポーツシーンで活躍を重ねている。ヨーロッパ各地で150戦以上のラリーに出走し、ヨーロッパ・ラリー選手権では2位に輝いている実力派だ。父親がストラトスのハンドルを握っていたこともあり、ルカはランチアを常に身近に感じてきた。そして、野心溢れる彼は様々なチャレンジをする中で、ランチア 037ラリーというマイルストーン的存在となったマシンに新たな息吹を吹き込みたいと考えたのである。こうして2018年にキメラ・アウトモビリを創設しプロジェクトの構想を広げていき、2020年より実際にEVO37の設計を開始した。037にちなんで37台が製造されることになっている。(試乗記をご覧になりたい方はこちら



EVO37はベータ・モンテカルロをベースとして、一台一台職人が手作業でフレームを作る。月に1台完成できるかできないか、というゆっくりなペースでの製造ではあるが納車は確実に行われている。ちなみに、EVO37はすべてオーナーによって好きな名前が与えられており、例えばこれまでに納車されたものにはヴィクトリア、エメラルダ、エッダといった名がつけられている。

そして今回キメラがマルティニカラーを身にまとった“マルティニ7”という名を冠した新たなEVO37を公開した。この一台が誕生し、この名が付けられたのにはストーリーがある。1983年、ランチアは初めてWRCで世界タイトルを獲得した。その栄光によってマルティニ・レーシングチームは生き続け、競争をやめることなく、その後10年間に及び世界中のラリーを通してたくさんの人々に勇気と感動を与えた。その後、037はデルタS4、デルタインテグラーレへとバトンを渡し、デルタに至っては6度の世界タイトルを獲得したのである。ランチアファンであればご存知かと思うが、ランチアは5度目と6度目の連続世界タイトルを記念するモデルとして、デルタ "マルティニ5"と"マルティニ6"を発売した。青、水色、赤のストライプで飾られたサイドと「World Rally Champion」の文字が特徴的な限定シリーズである。このアイデアから発展し、キメラはマルティニ・レーシング・チームとして獲得している世界タイトルは、037で勝ち取った1回も含め計7回の世界チャンピオンという点に着目し、このマルティニ 7を作ったのである。



エクステリアは、フロントスプリッター、サイドスカート、フロントグリルのフロントマッドガードにnolder製エキストラクターを備えたカーボンファイバー製エアロダイナミックパッケージを採用し、サイドにはnaca製エアインテークを備えている。リアバンパーにはクイックリリースシステムが採用されており、EVO37のリアエンド下部を取り外すと、037グループBエボ2同様の素晴らしいエンジンが現れる。ラリーカーのキャラクターを印象付けるために追加されたフォグランプも特徴的だが、これまでに作られてきたEVO37とはまったくキャラクターが異なる。特にエキゾーストは、当時と同様に交差したダブルコーンになっているが現代の技術を使った手作業で再構築されており、ホワイトセラミック素材で処理されている。性能向上に加え、マルティニ・レーシングのボディワークのホワイトカラーを思い起こさせる。内部コンパートメントには、デルタ・グループAの全車に採用されていたイエロー/ブラックのカーボンケブラー素材が再び採用されているというのもこだわりのポイントである。



シートは、S4と同じブルーのアルカンターラにレッドのステッチを施したもので、ダッシュボードはレーシングカーらしい蛍光オレンジのレブカウンターで統一され、各ボタンには当時のラベルが貼られている。センタートンネルにはABSモータースポーツとトラクションコントロールを調整するための2つのノブがあり、それらによって優れたドライビングフィールを体感できる。



気になるパワーについてだが、マルティニ7は他のEVO37よりもチューンアップによって50hpパワーアップしている。そのエンジンをカーボンファイバーとカーボンケブラーを多用することで約1100kgという車重に達したボディに搭載し、最高出力は550hpにも及ぶという。ギアボックスはより短く、よりラリーカーの感覚に近いレシオになり、1~2hp/kgのパワーウエイトレシオとなっている。ブランドアンバサダーを担っているWRCチャンピオン ミキ・ビアジオンもマルティニ7の開発に携わりテストドライブをおこない、その走りはチャンピオンのお墨付きである。

マルティニ 7の並外れた性能を実現するには、3Dスキャン、リバースエンジニアリング、CAD、CAE、ラピッドプロトタイピングなど様々な最新技術ソリューションが駆使されているのは言うまでもないだろう。その車が持つユニークなヒストリーを尊重しながらも、現代だからこそ出来る技術を用いながら車を作る"レストモッド"としてあるべき姿を体現させたといえる。

このマルティニ 7は顧客のオーダーで作られたものであるのか、同じ仕様でオーダーが可能であるのか等詳細はまだ分かっていないが、しばらくは世界中のランチアファンから熱い視線が注がれることだろう。彼らからのニュースを楽しみに待とう。

オクタン日本版編集部

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