1970年代、栄光のモータースポーツの刹那を切り取った写真集『Paddock Transfer』

Edgar Vernon Starr

『Octane』2021年3月号(イギリス版)ではアマチュア・モータースポーツ写真家、エドガー・ヴァーノン・スターが1960年代に撮影した素晴らしい作品を取り上げた。すべては2004年、チャーターハウスのオークションで自動車愛好家のティム・ビーヴィスが2箱のカラースライドを落札したことに始まる。ビーヴィスはカラースライドを詳しく調べていくうちに、そこに記録されている内容の幅の広さと質の高さに驚かされ、レンズの後ろにいる人物について調べ始めた。



エドガー・ヴァーノン・スターは童謡『きらきら星』の英語歌詞、“キラキラ”(Twinkle Twinkle…)の部分から「トゥインク」というあだ名がつけられた。ウェストカントリー・エアクラフト・サービシング社の航空機エンジニアで、メディアパスやパドックパスなどがなくても、レースで最も熱い“現場”であるピットレーンやパドック内に入り込む術の持ち主であった。結果として、サーキットの様子だけでなく、往年のスターたちの自然体でリラックスした表情のスナップも撮影することができた。

二度結婚したトゥインクはブリストル・エアクラフト・カンパニー、その後ヨービルのウエストランド社に勤務しながら、チェルトナム・モータークラブのメンバーとしてライレーで競技に参加するなど精力的に活動していた。最初の本が出版されて以来、トゥインクと家族ぐるみの友人が何人か現れた。なかには、彼が2階の寝室で750クラブマシン(ヒストリック・フォーミュラマシン)を造り、それを取り出すために窓を取り外さなければならなかったという逸話を著者に聞かせてくれた人もいた。

60歳の誕生日にはカメラを持ってバイクでモンツァに行き友人を訪ね、その後はVWビートルでカナダ巡りをした。カナダ巡りというのは後付けの理由に過ぎず、北米でモータースポーツの写真を撮り続けたのだ。

ビーヴィスは編集者で作家のガイ・ラヴリッジと組んで、トゥインクが撮影したコレクションを一般に公開することを画策。いざ二人がスライドを掘り下げてみると1冊どころか、5冊分の素材が見つかった。

1冊目は1960年代に撮影されたものを集めた『Admission7/6』、2冊目は1970年から74年までに撮影された『PaddockTransfer』である。企業によるスポンサーシップやエアロダイナミクスの台頭など、レースが新しい時代に入ったことを感じさせてくれる。また、イギリス、ヨーロッパ、カナダのサーキットで撮影されたハイエンドな雰囲気は、1973年5月にブガッティ・オーナーズ・クラブのイベントでプレスコットの駐車場に停められた参戦車両(パンテーラ、デイトナなど)と面白いほどのコントラストをなしている。

綿密に調査され、キャプションが付けられた写真に加えて、ジェレミー・ウォルトン、初期のヤードレー・ガール(スポンサーであるヤードレーのレースクイーン)のスー・レーマン、トニー・トリマー、ジャッキー・オリバーなどの意見が加えられ、さらにマイク・ワイルスやジョン・サーティズの言葉も引用されている。なお、特にジョン・サーティズはこの本の出版を応援した。

ビーヴィスとラヴリッジの両氏に、新刊への思いとお気に入りの写真について語ってもらった。

ティム・ビーヴィスのコメント

写真は古くなればなるほど良くなるとはよく言われていることです。私が手に入れたトゥインクのコレクションは、まさにその通りでした。画像からは歴史が染み出し、アクセスが容易でスポンサーが少なかった、モータースポーツの異なる時代を見事に映し出しています。

シルバーストンは、私の家とガイ・ラヴリッジの家の中間地点にあり、この本のリサーチの拠点となりました。また、伝説のパブ「グリーンマン・イン」では、執筆後に何度も夕食をとりました。

執筆のプロセスは今ではすっかり定着しました。画像を年代順に並べ、各ページへの収まりを考慮して選定していくのです。そしてシルバーストン・インタラクティブ・ミュージアムにあるアーカイブの助けを借りて、レースレポートやプログラム、エントリーリスト、レース後のコース係のメモ、当時の文献、さらには当日その場にいた人たちへヒアリングもします。1960年代と70年代前半を終え、次はハント対ラウダ、グランドエフェクト・カーなどが登場する、70年代後半に目を向けることになりました。

この本が出版されるまで、目にすることができなかった画像に対する読者の反応を目の当たりにして、非常に驚かされたとともに画像を一般に公開したことは正しい選択だったと確信しています。

トゥインクの親友の息子、ロブ・レナードからEメールを受け取ったことは、特に嬉しかったですね。「このユニークな人物が認められて喜ばしいし、きっと制作にはビールが関わっていたのでしょう。少なくとも私が父とトゥインクが揃ったときは、そうでした!」とだけ記されていました。

ガイ・ラヴリッジのコメント

トゥインクの2セット目の写真を見るのは、シュールな気分でした。1セット目、ティムと一緒に作業をしていた時、彼の努力も空しく世間は冷たく厳しい眼差しを送っていました。でも、『Admission7/6』は成功しましたし、トゥインクを知る人たちからの反応も上々で、今回はよりパーソナルで、より親密なものになったと感じています。インタビューや当時を知る人たちの経験を反映させることはもちろん、当時の鮮やかな色彩やファッション、そしてトゥインクの写真家としての成長ぶりも表現しなければならないという思いでした。

彼は自分の焦点、そして、翼を広げていったのです。撮影された写真を通してプレスコットで開催されたVSCCのミーティングやクラブマンのレースに参加したり、カナダに行ったり、スライドフィルムからネガフィルムに移行し(そしてまた戻る)、パンニングショットを取り入れたトゥインクと遭遇できます。相変わらず、ピットやパドックに無許可で侵入するテクニックは健在ですが、より好奇心旺盛にマシンを観察していたことが見てとれます。トゥインクの写真は前回よりも確実に進歩を遂げています。ベルトの摩耗、無造作にリベットで留められたペダル、失敗した実験、はたまた消火器を取り付けたBRMにどうやってドライバーが乗り込んだのかなど、様々な視点で撮影されています。

また、ロブ・ウォーカーに敬意を表することができたのは、この上なく嬉しいことでした。彼は『ミンテックス・マン』の取材中も紳士的で、グランプリ・マネージメントから引退したことをこの本で紹介できたことは個人的にも嬉しいことでしたし、ティムが提案してくれたことも嬉しかったですね。また、キース・グリーンの手書きのセットアップ・ノートを使用できたことで、過去の英雄たちとのつながりを感じさせてくれました。

編集翻訳:古賀貴司(自動車王国)

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