12年ぶりのWRC日本開催!「ラリージャパン」に見る世界最高峰ラリーイベントの歴史とこれから

©Jaanus Ree / Red Bull Content Pool

2022年11月10日(木)から13日(日)にかけて、愛知県と岐阜県でWRC(FIA世界ラリー選手権)の第13戦、シーズン最終戦となる「ラリージャパン」が開催された。日本でWRCが開催されたのは、2010年に北海道で行われて以来12年ぶりのことだ。

WRCは1973年に始まった世界最高峰のラリーイベント。FIA(国際自動車連盟)が主催する自動車競技の世界選手権としてはF1につぐ長い歴史を持っている。

少しだけその歴史を振り返ってみると、WRC黎明期の1970年代には、軽さと回頭性をウリにした伝説のマシンが誕生する。ランチア ストラトスだ。そして、1981年には、構造が複雑で重いとされた4WDの既成概念を覆し、初のフルタイム4WDを搭載したアウディクワトロを投入。WRCの新時代を切り拓いた。

(Image: Lancia)

その後、1980年代のWRCの最上位カテゴリーはグループBと呼ばれる過激なものだった。鋼管スペースフレームのシャシーをFRP製のボディで覆い、ハイパワーエンジンをミッドに搭載して4WDで駆動するモンスターマシンたち。いまなお絶大な人気を誇る、アウディスポーツクワトロやプジョー205ターボ16、ランチア ラリー037、ランチア デルタS4といったホモロゲーションモデルが数多く生み出された。

(Image: Audi)

1980年代後半になると、安全面やコスト面などの課題から車両規定がより市販車に近いグループAに変更された。ランチア デルタインテグラーレが牽引するこの時代のWRCには、トヨタ、スバル、三菱、日産、マツダといった日本メーカーもこぞって参戦。トヨタがセリカで日本車としては初となるドライバーズおよびマニュファクチャラーズタイトルを獲得。また1995~1997年にはスバルがインプレッサでマニュファクチャラーズタイトルを3連覇。1996~1999年には三菱がランサーエボリューションでドライバーズタイトル4連覇を果たす。

しかし、1999年にはトヨタが、2005年には三菱が、そして2008年にはスバルもWRCでのワークス活動を終了する。以降、WRCで日本車が活躍する姿は見られなくなってしまった。

いまのWRCはトヨタを中心に動いていると言っていいだろう。豊田章男社長の陣頭指揮のもと、トヨタは2017年にWRCへと復帰。同年、トヨタはそれまでヘッドオフィス直轄の一部署であった「TOYOTA Gazoo Racing ファクトリー」を、独立した「TOYOTA GAZOO Racing カンパニー」(以下TGR)とした。

自動車メーカーのレース活動は、景気に左右されやすく、不況になればまっさきに打ち切られる。TGRは、独自のスポーツカーを開発、販売することによって利益を生み出し、レースに投資していく。サステイナブルなレース活動を1つの目標として生まれたカンパニーだ。現在のラリーカーのベースとなっているGRヤリスをはじめ、いまトヨタの市販車のラインアップを見渡せば、“GR”の名を冠したモデルがたくさんあるが、それらが原資となっているわけだ。

現在のWRCは、トップカテゴリーのWRCをはじめ、WRC2、WRC3といった、フォーミュラでいえばF1、F2、F3に該当するカテゴリーが用意されている。

そして、2022年シーズンにトップカテゴリーに参戦していたのは、トヨタ、ヒョンデ、Mスポーツ(フォード)の3メーカー。使用されるマシンは、それぞれトヨタヤリス、ヒョンデi20、フォードプーマというBセグメントハッチバックをベースとした「Rally 1」車両とよばれるスペシャルマシンだ。



ラリーは競技区間となる林道などを閉鎖したSS(スペシャルステージ)でのタイムを競う。そして、リエゾン区間と呼ばれる一般公道を走行して次のSSへと向かう。リエゾン区間は、一般の日本の交通ルールのもとに走行するため、速度制限はもちろん遵守。ときには渋滞に巻き込まれることも。©Jaanus Ree / Red Bull Content Pool

昨シーズンまでの「WR」カーに代わって、2022年シーズンより新たに導入された「Rally 1」カーは、各モデル共通のハイブリッドシステムを備えている。トヨタのRally 1車両「GR YARIS Rally1 HYBRID」を例にみてみると、1.6L直噴ターボエンジンに全車共通のハイブリッドユニットを組み合わせている。ユニットは3.9kw/hのバッテリーとモータージェネレーターユニット(MGU)からなり、加速時には最大で100kw(約134馬力)のパワーと180Nmのトルクを発生。システムトータルとしては、最高出力500PS以上、最大トルク500Nm以上を発揮する。トランスミッションはコスト抑制のために簡素化され、前後機械式デフによる四輪駆動で、シンプルな機械式シフトの5速ギヤボックスする。

そしてエンジンの燃料には合成燃料とバイオ燃料を混合した非化石燃料が用いられる。いまF1でも一部合成燃料が使用されているが、FIA世界選手権のモータースポーツで100%の非化石燃料が用いられるのは、Rally1が初めてだ。世界最高峰のモータースポーツもカーボンニュートラルに向けて着実に動き始めている。

ラリー・ジャパンの最終結果は、トップカテゴリーにトヨタから唯一日本人として参戦している勝田貴元選手が3位表彰台を獲得。母国ラウンドで劇的なフィナーレを飾った。そしてトヨタは、ドライバー、コ・ドライバー、マニュファクチャラーの3部門で年間チャンピオンを獲得している。

最終日のゴール後、勝田貴元選手とコ・ドライバーのアーロン・ジョンストン選手を笑顔で出迎えた豊田章男社長。今大会苦戦したトヨタ勢としてはトップのポジションで、かつ地元での表彰台は何よりの朗報だった。

ちなみにトヨタは2015年にWRCで活躍できる日本人若手ドライバーの発掘・育成を目的に、TGR WRCチャレンジプログラムをスタート。そのプログラムの1期生として選抜され、トップカテゴリーにまでのぼり詰めたのがこの勝田選手だ。今シーズンの活躍が認められ、先日、来シーズンは晴れてトヨタのワークスチームであるTOYOTA GAZOO Racing WRTへと昇格することが発表された。

ラリーカーは公道を走行するため、各国ごとにナンバープレートを取得することになる。ラリージャパンでは、名古屋管轄の臨時運行許可、いわゆる仮ナンバーが用意されていた。10−13は勝田選手の車両のもの。

ラリージャパンは多くの課題を残したラリーでもあった。取材をしていても、日本において、公道でしかも県をまたいで、ラリーをすることの難しさがひしひしと伝わってきた。自治体、警察、地域住民など、あらゆる関係者の理解なしには実現できない。サーキットイベントとはまったく別次元の高いハードルがある。

ガードレールがあるのも日本の道の特徴。日本らしい風景とも言えるが、角度によってはマシンが見えなくなってしまうことも。

石橋を叩いて壊してしまうほどの安全を求める日本において、欧州のように観客の目の前をラリーカーが全速力で駆け抜けるようなシーンを見ることは難しいかもしれない。それにしても、わざわざ会場まで足を運んでくれた観客が見やすい、ラリーをもっと愉しめる環境づくりが必要だと感じた。そのためのカイゼンを続けていく必要があるだろう。

大会3日目、岡崎城前の河川敷に特設された岡崎SSS(スーパースペシャルステージ)のイベントエリアには約3万人の観衆が訪れた。一般客の観戦エリアは対岸に設けられており、さらに砂埃が立ちのぼりやすいコース設定がとても残念。来年に向けてのカイゼンが求められる。

正式発表はまだだが、来年も11月に愛知県と岐阜県でラリージャパンが開催される予定だ。日本メーカーの車が、日本人のドライブによって、日本の地で世界最高峰の表彰台の頂上に立つ、そんな瞬間が見られるかもしれない。

年間タイトルを獲得したのは、若干22歳、史上最年少王者となったトヨタのカッレ・ロバンペラ選手。トヨタは2021年に続いて2年連続で、ドライバー、コ・ドライバー、マニュファクチャラーの3タイトルを獲得した。

文:藤野太一 Words: Taichi FUJINO
Photography: Rally Japan / Red Bull Content Pool / TOYOTA GAZOO Racing

文:藤野太一

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