漆黒!謎多きブルネイ国王によるワンオフフェラーリコレクションの1台、マットブラックのエンツォ

RM Sotheby's

フェラーリほど、生みの親の物語と密接に結びついたブランドは他にないだろう。戦前のアルファロメオをチューニングし、ロードゴーイングスポーツカーを生産する世界一のメーカーへと成長させたのは、勝利への意志と「最高」への希求が原動力となったのはもちろんだが、その成功はほとんどイルコメンダトーレの功績にほかならない。彼の指揮のもとで製作された最後のハイパーカー、F40は、かつてないほど性能の限界を押し広げ、その世代の最も象徴的な車となった。そしてエンツォ・フェラーリを偲ぶにふさわしいマシンが登場するまでには、彼の死後14年の歳月を要した。



エンツォの名を冠したこの車は、その技術力と性能の高さゆえに、フェラーリに捧げられただけでなく、彼の名を冠したのである。エンツォの心臓は、フェラーリで最も高く評価されているハイパーカーに続いて、全く新しい自然吸気の5,998cc V型12気筒エンジンを搭載し、ライバル車の出力を完全に凌駕する651psのパワーを発揮した。グラツィアーノ・トラズミッシが設計したパドル式のF1マチックは、アグレッシブなウィップクラック・シフトアップとエンジンの低速トルク、8,200rpmのレッドラインの組み合わせで、まさに瞬間的なドライブ体験を実現するものだった。



カーボンファイバーとアルミニウムで構成された最新鋭のシャシーに、ピニンファリーナの奥山清行氏の手によるカーボンコンポジット製ボディパネルを組み合わせたこの車は、個性的なドライブトレインと同様に、他の部分も特別なものとなっている。風洞実験やミハエル・シューマッハに世界チャンピオンをもたらしたグランプリカーを参考に、先代F50のような巨大なリアウイングを排除し、グランドエフェクトエアロダイナミクスによるダウンフォースを重視した近未来的なデザインに仕上げられている。F50やそれまでのハローモデルと同様、エンツォはパフォーマンスとスタイリングの水準を引き上げ、カーボンセラミックディスクブレーキなどフェラーリ初の試みを次々と取り入れ、現代で最も魅力的で人気のあるハイパーカーのひとつとなった。

ザ・ロイヤル・エンツォ

生産台数わずか400台というフェラーリ・エンツォは、希少かつ希少なハイパーカーであり、どのようなコレクションの中にあっても強い存在感を放つ。鋭いコレクターは、シャシー136069が桁外れに特別な車であることに気づくだろう。今回、RMサザビーズ主催のオークションにこのエンツォが出品された。



エンツォは、フェラーリの歴史の中で、ロードカーのカラーパレットがまだかなり限られていた時期に発表されたモデルだ。大半のフェラーリはレッド、イエロー、ブラックのいずれかであり、ごく一部のモデルがブルー、シルバー、グレー、ホワイトといった色調だった。この時代、真のワンオフカラーを選ぶには、特別な影響力と地位が必要であり、エンツォをこの特別なカラーリングでオーダーしたのが、ファクトリーワンオフやオーダーメイドの車に関し長い歴史を持つブルネイの王族であるのは、まさにふさわしいといえる。ネロ・オパコ(マット・ブラック)は、今日の市場で最も人気のあるテーラーメイド・カラーのひとつであり、このエンツォが、最も印象的なカラーリングのフェラーリ・ハイパーカーであるのは間違いないだろう。

2004年6月8日に製造が開始され、10月15日にマラネッロのワークショップから出荷された。この画期的なハイパーカーは、ネロ・オパコ・ペイントにネロ・レザー・インテリアとネロ・カーペットを組み合わせたユニークな仕様になっている。さらに驚くべきトリプルブラックの仕様に加えて、シートや計器類もさらにパーソナライズされている。このワンオフエンツォは、ロンドンで保管され、ハムステッド、メイフェア、ナイツブリッジの街角を走る姿が時折見られ、その後、アジア太平洋地域に持ち込まれた。



最近、この車はフェラーリのハイパーカー、テーラーメイド・エディション、アイコナ・シリーズの公式ペイントショップであるカロッツェリア・ザナシによって、外観の修復が施された。ザナシは総額11万ユーロで、劣化してベトベトになってしまったスイッチ類(これはイタリア車には頻繁に見られる症状だ)、フロントとリアのヘッドライト、リアボンネットのガラスなど、必要なアイテムを交換し、数々の小物に加えて、この車の見事なオリジナルネロオパコへのフルリペイントを行った。



フェラーリ250テスタ・ロッサ、250GTO、F50と続いたV型12気筒エンジンのフラッグシップ・モデルとして、エンツォは大きな存在であった。しかし、2002年に発表されたエンツォは、その期待に応えるだけでなく、その後のすべてのハイパーカーに対するハードルを永遠に引き上げることになった。マラネッロにとって最後の自然吸気、非ハイブリッドのV型12気筒ハイパーカーとして、その重要性を確固たるものにしたのだ。



ヴィンテージカーの世界では、王室が過去のオーナーとして名を連ねる車は非常に価値が高い。実際、1950年代から60年代にかけて、ベルギーのレオポルド国王とリリアン・ド・レティ王女をはじめとする多くの著名人が、フェラーリを王室の車として使用することで、フェラーリの価値を世界有数のコレクターに知らしめたのである。現代の自動車市場では、色と走行距離の2つが最も重要な差別化要因となっており、ワンオフのカラースキームを誇る低走行距離のエンツォが非常に高い価値を持つことは言うまでもない。しかもこのエンツォは王室の愛車という独自のカテゴリーに属するものでもある。王室御用達という実績、低走行距離、ワンオフの素晴らしい仕様、今回のオークションはこれ以上ないエンツォを手に入れる極めて貴重なチャンスだ。

オクタン日本版編集部

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