北へ、南へ、シトロエン2CVと30年|第31回:コールマン200Aと2CV

Yoshisuke MAYUMI

今までキャンプにはまったく無縁だった筆者であるが、昨年10月と今年の4月に行われた「2CV Camping」に参加して以来、すっかりキャンプにハマっている……、と書きたいところだが、その後はなかなかキャンプ場に足が向かない。やはり寒いのと暑いのは苦手である。4月のキャンプだってなんだかんだ理由をつけて日帰りで参加したくらいだ。



キャンプが苦手な筆者ではあるが、しかしガジェットは大好きだ。テント、焚き火台、ストーブ、寝袋、コットなど、キャンプライフを取り巻くギアには魅力的なものが多い。4月のキャンプに行った時に気がついたのは、多くの参加者が半年前よりもキャンプ道具をグレードアップしていたことだ。







アサブキさんは2CVと連結したテントを張っていたし、「一人豪華グランピング」と呼ばれていたサトウさんは、TPO(?)に合わせ、やや控えめな(しかしこだわりの)テント構成に切り替えていた。前回は筆者と一緒に宿泊棟に泊まっていたサイトーさんに至っては、ピカピカのテントをなぜか2組購入して事前練習を重ね万全の態勢で乗り込んできた。ちなみに主催者の一人、ハラシマさんだけは変わらず「ハギス」の普及に努めていたが、もう一人の主催者であるイワサキさんは今週末11月のキャンプに新調したヴィンテージテント(もちろんフランス製)を持ち込むことを予告している。









前回、キャンプの花形は焚き火台でありランタンであると看破したが、4月のキャンプで改めて2CV乗りたちはキャンプそのものよりもガジェットが好きなんだと確信した。

実は筆者も2回のキャンプ参加を通じて、あるキャンプアイテムに心を鷲掴みにされた。コールマンのガソリンランタン「200A」だ。真っ赤なボディが印象的なコイツは1951年から1984年まで生産され、現在も絶大な人気を誇る、最も有名なランタンである(200Aの歴史などについてはこちらのサイトが詳しい)。



タイトル写真に写っている200Aはイワサキさん所有のもので、彼からその魅力を散々聞かされた筆者は、キャンプから戻るやいなや、原稿を書くよりもはるかに早く200Aを手に入れた。コールマンのランタンには製造年月が刻印されており、自分の同じ誕生年月のものを「バースディランタン」として探す人が多い。それも200Aの人気の理由だ。数多くデリバリーされた200Aでも生産されていない年月があるが、幸いにも筆者のものはあった。あったのだが、ここでちょっと迷いが生じた。



ピカピカにレストアされたものと、整備はされているもののノンレストアで経年による傷やヤレのあるもの、どちらにするかという問題に直面したのだ。まるでクラシックカーの購入と同じだ。しかし迷っているうちにピカピカの方は売れてしまい、結果的にベンチレーターにハート型のハゲ、いや塗装欠けのある200Aが我が家にやってきた。まあ自分も気づけば50代半ばを過ぎて、ハゲてはいないもののシワやらシミやら経年劣化は進んでいる。同じように歳月を感じさせるコイツで良かったかなと思う。



200Aの人気を支えているのは入手のしやすさに加えて、潤沢なパーツ供給とそれを支えるコールマンや専門ショップの存在が大きい。外装パーツ、特にタンク側面やメインバルブのステッカーなど一部入手難のものもあるが、実際に使うにあたっての消耗品の調達は容易だし、メンテナンスについてもコールマンジャパンや専門店から有益な情報が公開されている。この辺り、2CVやビートル、クラシックミニと状況は似ている。



200Aの魅力を「にわか」の筆者があれこれ書くのも気が引けるが、端的に言えばシンプルな仕組みの堅牢な道具、ということに尽きるだろう。つまり2CVと同じだ。大衆向けのマスプロダクトでありながら、同時に愛着をもたれている道具ということだ。

200Aはホワイトガソリンで満たされたタンクを手動ポンプで圧縮し、ジェネレーターと呼ばれる管の先端の小さな穴から噴射して気化させ、その混合気をバーナー部分からマントルへと送り込み燃焼・発光させる。



電気に頼らないメカニズムは、旧車のキャブレターと同じように物理原則に基づいたものであるが、その仕組みに詰まった先人の知恵には敬意を表したくなる。マントルが発光する原理が発見された過程などは調べるとなかなか興味深い。しかし、旧車のキャブレターエンジンの多くがセル一発で掛からないのと同じで、200Aの点火にもちょっとしたコツが必要だ。

200Aの点火手順は、一般的には以下の通り。

1、ポンプでガソリンタンクを20~30回加圧する。ポンピングが終わったらポンプを押し込み右に回してロックする。
2、ジェネレーター出口のクリーニングを担うL字型レバーを2〜3回転させた上で下位置にする(全開にする)。
3、メインバルブを1/4だけ開く。シューッという噴射音がするのでチャッカマンなどで点火する。
4、安定して燃焼するようになったらメインバルブを全開まで開く。

一般的にはこうなのだが、キャブレターエンジンの始動と同じで自分の200Aにあった手順を微妙に加えなければならない。特に点火から安定した燃焼までの間にコツが必要だ。うまく点火できなくて生ガスが溜まると爆発的な燃焼が起こってメラメラと炎が上がる。安定してきたと思い込んでバルブをいきなり全開にすると、またメラメラと炎上する。「コールマン ランタン 炎上」などでググっていただくと、数多くのページや動画がヒットする。

ネット上ではジェネレーターのプレヒートやメインバルブを開いていく際の追加ポンピングの必要性を唱える声もあるが、その辺りは個体差なのだと思う。

うちの2CVもしばらく動かしていなかった時の始動はちょっとコツがいる。何回かアクセルペダルをあおってから、少しだけアクセルを開けたままセルを長めに回す。掛かりそうになったら、またアクセルペダルを何回か軽くあおる。30年以上乗っていると、もはやこのあたりの行動は無意識である。原稿を書くために先ほど2CVのエンジンを掛けにいって再確認したくらいだ。こういったクセはキャブレターの整備や調整、燃料ポンプの状態次第で、同じ2CVでも一台一台違うのではないだろうか。そしてそれが愛着ということにつながるのかもしれない。



5月に手元に来てから毎晩のように自宅の狭い庭で200Aを使い続けた筆者は、ようやく自分と同じ歳の愛機の点火のコツを掴んだ。ポンピングをしっかり行うこと、バルブを1/4開けたらなるべくライターの強い火を近づけること、2回転くらいバルブを回したあたりで一瞬炎上するが気にせず全開にすること、この3点だ。特にタンクの内圧管理は重要で、サードパーティが出している圧力計付きのタンクキャップはとても役に立った。

200Aはシングルマントルながら驚くほど明るく、この点では極めて実用的だ。またシャーというかシューというか安定した時の独特の燃焼音は耳に心地良い。本来の使い方ではないので推奨はされていないが、L字クリーニングレバーで燃料を絞ると光量の調整も出来る(微妙な光量に調整するためには、これまた微妙なコツがいる)。LEDランタンの手軽さも素晴らしいが、燃焼による微妙な揺らめきを放つガソリンランタンの灯りには、魅入られる何かがある。2CVと同じように長い付き合いになりそうだ。



ちなみに今週末に開催予定の「2cv camping 2022 秋」には35台の2CV&Amiとその他10台の合計45台、前回の倍以上のメンバーが集う見込みだ。筆者ももちろん(日帰り&ランタン一つで)参加するが、今回はモータージャーナリストの内田俊一さんが参加して「レスポンス」に寄稿するようだし、日本のシトロエンの公式コンテンツである「Avec CITROËN」チームの取材も入るようだ。みなさんお楽しみに!(←)


「キャンプベース安中榛名」http://mscraft.under.jp/camp/

文・写真:馬弓良輔 Words & Photography: Yoshisuke MAYUMI

文・写真:馬弓良輔

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