007も乗ったアストンマーティンDB5、生産再開!? ボンドカーのガジェットも忠実に再現

Octane Japan

アストンマーティンDB5は1963年から1965年にかけて生産された名車で、映画「007」シリーズの「ゴールドフィンガー(第3作)」にて主人公、ジェームス・ボンドが乗っていたことでも有名なモデルである。2020年からアストンマーティン・ワークスでは25台限定で、DB5の007仕様を“コンティニュエ―ション”モデルとして復刻することになった。

先日、アストンマーティン・ワークスの社長、ポール・スピアーズ氏が「DB5ゴールドフィンガー・コンティニュエ―ション」のプリプロダクションモデルとともに来日した。同氏は元々、自身でアストンマーティンの中古車販売店を営み、やがてアストンマーティンの老舗正規ディーラー「HWMアストンマーティン」を19年間率いた人物。アストンマーティンが自社のレストア・販売部門を立ち上げる、ということで2012年に引き抜かれ、2018年からアストンマーティン・ワークスの社長に就任している。



DB5ゴールドフィンガー・コンティニュエ―ションは、「コンティニュエ―ション・プログラム」の一環で投入されたもの。コンティニュエ―ション・プログラムはDB4GTを皮切りに始まったもので、DB4ザガート、そして現在に至っている。

「ヴァンキッシュSの生産終了とともにニューポートパグネルは、レストアの拠点になりました。我々がアストンマーティン・ワークスで手掛けるレストアの作業は、ほとんど新しいクルマを作ることと変わりません。そこで思ったのが“ニューポートパグネル時代”のクルマの復刻版を作ることでした」とスピアーズ社長。復刻版を手掛けることになったのは自分の発案だ、と言う人はアストンマーティン社内でも数人居てスピアーズ社長もその一人だと笑いながら語ってくれた。

「コンティニュエ―ション・プログラムで最もネックだったのは、オリジナル(車両)の価値に与える影響でした。しかし、いざDB4GTを投入してみると限定25台が2週間で完売しただけでなく、オリジナルの取引価格が大幅に上昇しました」



だからこそDB4ザガート、DB5ゴールドフィンガーと続いているのだ。次のコンティニュエ―ション・プログラムについて聞いてみると逆に“何がイイと思いますか?”と質問返しにあったので個人的な趣味で「DB2」と返答しておいた。

コンティニュエ―ション・プログラムでアストンマーティン・ワークスが習得したノウハウは様々ある。ボディカラーでも、内装のコノリーレザーでも、細かなパーツでも新車時のサプライヤーへのコンタクトを取り、残されたアーカイブを漁り、見事なまでに復刻させている。例えばドアハンドルは新車時の品質に満足できず、新たに全く同じ寸法(オリジナルのDB5でも装着可能)で触ったときの感触にこだわった仕上がりにしているほどのこだわりよう。また、ボディパネルの歪み、塗装の粗を“意地悪”に探しても一切見つからない。



「ボディパネルは昔ながらの製法で成型しています。ローラーで曲げ、職人たちがジグを使って叩き出します。完成したら塗装部門の責任で品質確認を行います。パネル自体の歪みの確認はもちろん、仮組みしてパネルフィットのギャップの確認も丸一日かけて行われます。塗装してから板金部門に文句を言うことはできない、という制度なんです」とスピアーズ社長。さらにパネルについて突っ込んで聞いてみると、こう続けた。

「具体的な温度は明かせませんがボディパネルは一度、塗装ブースにて熱するんです。こうすること曲げ加工や板金加工でアルミ板に溜まったストレスを解放できるんです。冷めたらクリーニングを施し、最初のプライマーを塗ってから研磨して、2度目のプライマーを塗ったら2週間乾燥させます。また研磨してからボディカラーを2層、ラッカーを2層塗布して、艶消しの状態まで粗目に研磨してから磨き上げる、というプロセスを経ています」

しかし、もっと聞いてみるとこれだけではなかった。なんとオーナーたちの協力を得て複数のDB5をCTスキャンしている。ボディはもちろん、エンジンもスキャンして、半世紀前よりも品質や組み立て精度の向上を図っているという。ちなみにエンジンの鋳造はF1マシンを手掛ける会社に委託している。そう聞くだけで、DB5ゴールドフィンガー・コンティニュエ―ションに価値を感じてしまうほど。

ハンドリング向上のため現代のラジアルタイヤの採用も一時は検討されたそうだが、新車時同様、クロスプライタイヤのほうがしっくりくるはず、というスピアーズ社長の主張がテストドライバーに受け入れられたという。もちろん、エイボン製のターボスピードだ。



アストンマーティンほどの規模の自動車メーカーにとって、コンティニュエ―ション・プログラムは微々たる利益のように思われる。しかし、アストンマーティン社が自らの歴史を重んじているからこそ取り組めることであり、復刻版を製作するにあたっての徹底ぶりからはスピアーズ社長をはじめ、職人たちのアストンマーティン車への情熱が垣間見える。

今回のDB5ゴールドフィンガー・コンティニュエ―ションは映画に登場した“ボンドカー”に装備されているガジェットをすべて忠実に再現している。しかもDB5の寸法には一切、変更を加えていない。各ガジェット、映画では撮影時にさえ機能すればよかったものだがDB5ゴールドフィンガー・コンティニュエ―ションでは、オーナーが“見せびらかす”ことを考慮して、それぞれ5000回の耐久テストを課したそうだ。



文:古賀貴司(自動車王国)

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