LUXURY CARDが贈る閉館後の美術館を貸し切るエクスクルーシブな時間。大回顧展『大竹伸朗展』で見た、半世紀近くにわたり漲るエネルギーの塊

中央《男》(1974-75)富山県美術館

東京国立近代美術館で開催中の『大竹伸朗展』は、現代日本を代表するアーティストとして高い評価を得る大竹伸朗氏の約500点におよぶ作品を紹介する大回顧展である。Mastercard®️の最上位クラスとして、日常から旅行シーンまでの様々なパーソナルサービスを展開しているラグジュアリーカードが閉館後の東京国立近代美術館を特別に貸し切り、同美術館の成相肇主任研究員による解説付きでゆったりと作品を鑑賞できる「ナイトミュージアム」にカード会員を無料で招待するイベントを開催した。今回、その「ナイトミュージアム」に参加する機会を得た。

通年優待のひとつに「東京国立近代美術館と国立新美術館での企画展の無料鑑賞(Black Card会員以上)やすべての会員向けの国立美術館の所蔵作品展の無料鑑賞」がある。

あらゆる素材、あらゆるイメージ、あらゆる方法が用いられた作品の数々は、ただならぬ迫力を感じさせる。それらは作者が「既にそこにあるもの」と呼ぶテーマで制作されてきたというが、「既にそこにあるもの」をどう捉え、重ね、貼り合わせ、創造されていくのか?を解説ガイド付きで目の当たりにすることができるのは非常に貴重な体験であった。

この企画展の特徴として、時代順にこだわらない「自/他」「記憶」「時間」「移行」「夢/網膜」「層」「音」という7つのテーマに基づいて構成されている点が挙げられる。少年時代の作品から最新作まで、彼の作品について「いつ創ったのか」に意味を見出すことは、ナンセンスなのかもしれない。そう感じさせる、半世紀近くにわたり揺らぐことのない情熱が、展示作品約500点を通してひしひしと伝わってくる。

たとえば、9歳のときのコラージュ作品《「黒い」「紫電改」》(1964)から、《モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像》(2012)、そして最新作の《残景 0》(2022)まで、「既にそこにあるもの」を重ねていく手法は綿々と受け継がれている。

中央《「黒い」「紫電改」》(1964)

《モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像》(2012)

《残景 0》(2022)

30年間、放置されていたフィルムを現像して表出した模様がそのまま作品になったものもある。これも「既にそこにあるもの」の代表といえるだろう。

《網膜/太陽風 1》(1990-2020)植島コレクション

上記のように長い年月を経て作品になったものがある一方で、30分という短時間で創り上げられた作品もあった。何を描こうか思いを巡らせるところから30分で完成させる、というルールを自分に課して創作に取り組んだものだという。

左《4つのチャンス》(1984)、右《赤いヘビ、緑のヘビ》(1984)

「既にそこにあるもの」の究極の作品のひとつが《ニューシャネル》(1998)だ。これは居住地で出逢ったスナックのドアで、命名のユニークさ、味のある文字、パネルの絵柄、さらには誰かが蹴った痕なのか、凹みがあるところまで、そのすべてに魅了され、大竹氏が譲り受けたものだという。

《ニューシャネル》(1998)

大竹氏がほぼ毎日制作を継続しているというスクラップブックの展示も圧巻だ。71冊におよぶ冊子は、冊数はもとより、その厚さや大きさ、そして重量も凄まじいものがある。もはや根気強さを通り越して狂気すら感じるほどの、積み重ねの迫力だ。

《スクラップブック #71/宇和島》(2018.9.10-2021.1.31)

貼り重ねていくのはスクラップブックばかりではない。音の表現も大竹氏独自の世界観があり、会場ではその世界に没入することができる。《ダブ平&ニューシャネル》(1999)のユニークなバンドマンたちは、離れたブースからリモコン操作できるという。なんと会期中に大竹氏自らが訪れてパフォーマンスをすることがあるというから、幸運な来館者は偶然そのタイミングに居合わせることができるかもしれない。

《ダブ平&ニューシャネル》(1999)公益財団法人 福武財団

この企画展を通して「無駄」とは一体何なのだろうかと思いを巡らせた。他人にとってゴミ同然の不必要なものでも、別の人にとっては宝物かもしれない。要・不要の判別は主観的なものであって絶対的なものではない。時間も空間も、世の中には何ひとつ「無駄」なものはないのではないだろうか。

「無駄」を辞書でひくと「荷駄が無いこと=役に立たないこと」とある。しかし大竹氏の約500点の展示作品を鑑賞した後に、ふと思った。「無駄」とは、もしかすると「駄」の語が意味する「値打ちのないこと、意味のないこと」を打ち消す言葉、つまり「値打ちのあること、意味があること」なのではないか、と。多分に天邪鬼的な発想ではあるが、実際に「無駄、万歳!」とでも叫びたくなるほどのエネルギーに満ちた晴れやかな気持ちになったのである。


大竹伸朗展
2022年11月1日(火)~2023年2月5日(日)
東京国立近代美術館
https://www.momat.go.jp/am/exhibition/shinro-ohtake/
https://www.takeninagawa.com/ohtakeshinroten/

大竹伸朗(1955-)
1980年代初めに華々しくデビューして以来、絵画、版画、素描、彫刻、映像、絵本、音、エッセイ、インスタレーション、巨大な建造物に至るまで、猛々しい創作意欲でおびただしい数の仕事を手掛け、トップランナーであり続けてきた。近年ではドクメンタ(2012)とヴェネチア・ビエンナーレ(2013)の二大国際展に参加するなど、現代日本を代表するアーティストとして海外でも評価を得ている。


取材協力:ラグジュアリーカード
https://www.luxurycard.co.jp/

オクタン日本版編集部

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