車好きのための理想の地、英国「ビスター・ヘリテージ」が着々と進化中

Bicester Heritage

ロンドンから北に1時間、バーミンガムから南に1時間、シルバーストン・サーキットから30分、というロケーションにかつてイギリス空軍の兵舎と格納庫があった。2009年に民間へ払い下げられ、2013年から本格的な改装が始まった。そして、今ではクラシックカーの楽園「ビスター・ヘリテージ」へと姿を変えている。

以前にもoctane.jpではこの場所の紹介をしているが、最近さらにパワーアップしている様子だ。

改装までに時間を要したのは、歴史的建造物の保存を求める政府側と開発業者側のすり合わせが必要だったためだ。同地は2011年、イギリス「戦略的開発用地」に指定され、“チャーウェル地方計画2015”と呼ばれる地元政府の都市計画において、ホテルや会議施設の開発を含む遺産観光用途、レジャー、娯楽、雇用、コミュニティ用途を支援する「観光開発」の場所として選ばれた。

現在、ビスター・ヘリテージには50にも及ぶスペシャリストたちのショップが集結している。イギリスでクラシックカーの修理を得意とする腕利きのメカニック、板金職人、塗装職人、内装職人が一同に会しているだけでなく、保管用ガレージもある。つまり、ここに愛車を持って来たら“なんとかなる”という便利な場所になっているのだ。



そほのか、ジャック・ブラバムの息子が創設した「ブラバム・グループ」、「モルガン」のドライビングスクール、「シンガー・ヴィークル・デザイン」や「ポールスター」のイギリス拠点、旧軍用車を貸し出す「SWBエンジニアリング」などユニークな顔ぶれも面白い。

空きスペースは既になく、ウェイティングリストができているというから、その人気ぶりが伺える。ビスター・ヘリテージには周回路が設けられているほか、ホテルやレストラン、クラフトジンやクラフトビールの蒸留所までが誕生している。クラシックカーを軸にした“小さな町”ができている、と言っても言い過ぎではない。

約42万7000坪という広大な敷地や周回路を活かして、ビスター・ヘリテージでは定期的にクラシックカーが集うイベントや走行会が開催されている。元格納庫は爆撃機が収まっていたほどなので、“それなり”の大きさを誇るもので最大2000人のインドアイベントを開催することもできる。また、クラシカルな建物を利用した映画や雑誌の撮影場所にも用いられている。





ビスター・ヘリテージが掲げたビジョンは、専門家コミュニティの育成、過去・現在・未来の自動車のための国際的な卓越した中心地を作ること、そして自動車遺産へのアクセスを確保することである。自動車にまつわる革新と技術を通じて、スキルと知識の移転を容易にする、という崇高なもの。

実際、“入居”しているクラシックカーのスペシャリストたちのショップが雇用を生んでいるだけでなく、弟子たちの育成を行うことで技術の伝承がされている。単なるクラシックカーのアトラクションではなく、自動車文化の継承にも貢献しているのは見事な町づくりと言えよう。



若者の車離れが叫ばれて久しい日本ではあるが、日本には大小様々なサーキットが点在し、新旧の自動車イベントも盛んに開催され、実は“クルマ愛”に溢れている。それでも昨今、エンジニアやメカニックたちの技術の伝承は、大手自動車メーカーでさえ問題となっている。いずれ、日本でもビスター・ヘリテージのような技術の伝承を重んじた“町”ができることを願ってやまない。




文:古賀貴司(自動車王国) 写真:ビスター・ヘリテージ
Words: Takashi KOGA (carkingdom) Images: Bicester Heritage

文:古賀貴司(自動車王国)

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