いよいよ明日、富士モータースポーツミュージアムがオープン!

Gensho HAGA, Yoshimi YASUOKA

富士モータースポーツミュージアム(FMM)が2022年10月7日、ついにオープンする。世界に自動車博物館は数多とあるが、国内外の多くのメーカーやミュージアムの協力を仰ぎつつ、モータースポーツに特化した展示コンセプトを謳うミュージアムは他にない。初代館長となる現トヨタ博物館館長の布垣直昭氏に、開業への想いを語ってもらった。



モータースポーツ専用の博物館構想


もともと私がトヨタ博物館に携わるようになった当初から、モータースポーツをテーマとしたミュージアムが欲しいという声はありました。愛知県長久手市にトヨタ博物館が開館したのは1989年のことですが、基本的に量産車の歴史主体でモータースポーツ車両の展示は一部でした。開館当初は「TOYOTA7」や「ニッサン(プリンス)R380」などのディスプレイもありましたが、展示スペースが限られる中で量産車に絞り込んだという経緯があります。しかし、お客様からは「『TOYOTA7』はどうして見られないのですか?」「歴代の名レース車はなぜ展示していないのですか?」といった声を絶えずいただいており、モータースポーツ車両を展示する必要性は常に感じていました。元モータースポーツ部長からも、過去にミュージアム設置企画が出ては消えていたとも聞いた事があります。トヨタ博物館の敷地の中に専用の別棟を建てることを、考えたこともありました。ネックとなったのが、トヨタの博物館は動態保存を前提としているという点です。

近隣への騒音配慮から、大きな音の出るレーシング車両は、エンジンを掛けることすらできないというジレンマがありました。今回のFMM展示車両の目玉の一つとなっている「トヨタ2000GTスピードトライアル」(1966年10月に自動車高速試験場で実施した車両のレプリカ)は、トヨタ博物館でもときどき展示したり走らせたりしていましたが、エンジン始動時は細心の注意を払っていました。したがって時には自由に走らせることができるような広い場所のそばに、モータースポーツ専用のミュージアムを建てたいという思いが常にあったのです。

一方で東和不動産(現在のトヨタ不動産)は、富士エリアに上質な宿泊施設が存在しないという問題意識を持っていました。したがって宿泊施設とミュージアムを一体的に開発するという構想について東和不動産から打診があったとき、今度こそ多くのお客様の声や先人の想いに応える時だとの思いがありました。

自動車開発の原点を顧みる


当初は専門家の方々をお招きして立ち上げ委員会が作られ、私もミュージアムに携わる人間としてそこに参画していました。 その後、展示内容をお任せいただくようになりましたが、どのようなミュージアムにするかという構想は雲を掴むような話です。まずトヨタ博物館の中に新ミュージアムの専任チームを作り、あらためて世界のレースの歴史を調べ直しました。そこで大きな壁にぶち当たったのが展示車両の集め方でした。すべてをミュージアムで所有するのは不可能。ならば世界の自動車メーカーに協力いただくことはできないかと考えるようになりました。

交渉の過程でコンセプトを再検討していくなか、当初は富士スピードウェイ(FSW)をはじめ「サーキット中心」というテーマもありましたが違和感を覚えるようになりました。自動車メーカーによって表現の仕方は異なるものの、なぜレースをやるのかと問われたときに「量産車につながる技術を磨く」という考え方はどのメーカーも一致していたためです。たとえばラリーを中心に活動をしていたメーカーは、まさに自社の量産車をベースにどれだけの成績を収められるかという点に賭けていました。ラリー抜きに日本車のヒストリーは語れないというのは誰もが認めるところで、そうなると必然的にサーキット以外の競技に参戦した車両の割合も多くなるわけです。ラリーや耐久レースによって自車の技術や信頼性を磨いたというストーリーが集まり、むしろ量産車へ反映される技術の向上という点にプライオリティがあることに気付いたというのが正しいと思います。

ミュージアムの方向性は日本のみならず世界の量産車のメーカーの協力によって、自ずとそう決まってきます。どうして世界の自動車メーカーが、黎明期からのこの130年間も、絶えることなくレースに挑戦し続けてきたのか。マーケティング面でのアピールを期待する部分も大きかったとは思いますが、それだけであれば止めてしまったメーカーも多かったはずです。「レースで車の技術を磨き、進化させる」という視点ならば、世界のミュージアムとの差別化ができるのではないかと考えました。

富士モータースポーツミュージアムは富士スピードウェイホテルと同じ建物の中にある。広いバンケットルームとのシームレスな使い方も想定されていて、様々なカタチでモータースポーツを体感できる施設を目指している。

もともとホテルやミュージアムという構想は、富士スピードウェイに足りないものがあるのではないかという視点から浮かんできたものでした。サーキットが、自動車の文化や将来の自動車に対する期待を醸成していく上でホテルとミュージアムの存在は、新たな起爆剤になるかもしれない。

また地元のご協力もあり、レーシングチームガレージなど2kmに渡るエリアの構想が持ち上がります。さらに新東名高速道路のスマートインターチェンジが計画され、アクセシビリティが画期的に良くなる見込みとなりました。

オクタン日本版編集部

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