いよいよ明日、富士モータースポーツミュージアムがオープン!

Gensho HAGA, Yoshimi YASUOKA



サーキット近隣にくつろぎの場所を


これまで富士スピードウェイは、レースがなければ行かない場所だったかもしれません。しかし素敵なホテルとユニークなミュージアムがあれば、そこはリラックスできる場所となり、ひとが楽しく集う名所になればと願っています。自動車に熱意を持っている世代がこれからさらにお歳を召したときに、果たしてミュージアムは生き残れるのかという危機感があります。若い世代にリピートしてもらうには、好きな車を見てもらうだけではダメで、繰り返し来たくなる雰囲気を作らなければなりません。実は若い人にもノスタルジックな雰囲気が好きな人は多いと感じております。

たとえばトヨタ博物館でも木の質感が感じられる床のあるカフェで、ちょっと買うには勇気がいるかなと思う車の写真集などを見ながら、コーヒーをゆったり味わえるような空間として整えてみました。そういった、ちょっとミュージアムっぽくない空間があってもいいのではないかと思うのです。FMMの3階にミュージアムショップを作ることは決まっていたので、そのまま横のテラスと繋げば、カフェとして気持ちの良い空間ができると考えました。私がヨーロッパに駐在していた頃に外のテラスとつながっているカフェの魅力を体験したこともヒントになりました。テラスに屋根を作ることは構造的に難しかったため、布張りの日よけを仕立てました。いざ作ってみたら、景色の素晴らしさが想像をはるかに越えていました。富士スピードウェイの中でも、最高のビューイングエリアの一つになったと思います。

ミュージアム3階に用意されるショップ&カフェ「FanTerrace」大人の社交場としてのミュージアムを体現する「くつろぎの場」を提供する。

全長 50mにもおよぶ広々としたテラス。VIP席やソファ席を含めて全75席が用意されており、原則としてショップで料飲類を購入された方が入場できる。

ひな壇に用意された VIP席にはエコスマートファイヤーのバイオエタノール暖炉が用意されている。夕暮れ時には暖かみのある炎を楽しむことができる。

テラスから富士スピードウェイを遠望する布垣直昭FMM館長。海外の様々な施設を視察した中で、大人がゆったりと過ごせる場所の必要性を感じ取ったらしい。

TOYOTA7がお客様を迎える


富士スピードウェイホテルは、ハイアットの日本初上陸となるブランド「アンバウンドコレクションbyHyatt」として運営されることとなりました。「アンバウンド」が素晴らしいのは、高級ホテルですが豪華さというよりもその場所の個性を活かすというところです。車が好きな人のためのミュージアムは、時にシンプルかつ簡素な部分があることで、居心地の良さを提供することができます。それは、究極の機能性を追求しているレーシングカーは流麗で美しいけれど、決して豪華ではないことと共通しています。だから調和することが可能でした。

メインエントランスから入場すると、まず真横に建てられたTOYOTA7が目に入ってくる。装着されているターボや敷き詰められたネジ類などディスプレイの工夫に本気度があふれている。3階まですっきりと伸びたエスカレーターも美しい。

入口で皆さんを迎える「TOYOTA7」は特に悩んだ部分でした。あの玄関口はミュージアムとホテル共通のエントランスとなっていて、吹き抜けの構造は建物を作るときからトヨタ不動産と相談して決めていました。展示はフロアごとに分かれてしまうため、スケール感がでない。空間を立体的に感じてもらうためには、エスカレーターが真ん中にある吹き抜けが必要でしたので、動線を考えるよりも先に、構造を決定しました。この効果で、ホテルへは吹き抜け部分に配置したエレベーターが誘ってくれるのですが、ミュージアムのシンボルは当初、空間的に存在しませんでした。シンボリックなレーシングカーを非日常な形で置いてみては、と会議で提案したところ、担当デザイナーが賛成してくれました。では、どんな車を置けば場が締まるのかといえば「TOYOTA7」しかないなと思ったのです。それは、トヨタ博物館へ来場されたお客様の人気ナンバーワンであり、真っ白なボディにシンプルなカラーリングといった多様な魅力があったためでした。流麗で、人気があって、ビジュアルも優れている。トヨタ博物館のシンボルの「トヨダAA型」と同じように、「TOYOTA 7」をミュージアムの象徴として感じ取ってもらいたいと考えました。

世界との繋がり


地域の方々のご理解は、とても重要であると考えています。富士モータースポーツフォレストは小山町さんのご協力がなければ作ることはできませんでした。

トヨタ博物館ではクラシックカー・フェスティバルを開催していますが、今では長久手市の吉田市長から「長久手の風物詩になりましたね」といっていただけるようになりました。そういった地元の方にも喜んでいただけるイベントを考えていきたいですし、地元と一緒に盛り上げていくこと、そしてここから世界に発信していくという2つの考え方が重要だと思います。

幸い、海外を含めた多くのメーカーにご協力いただいたことで、業界にも高い関心を持っていただき、訪問の意思も示されています。レース関係者やファンの方々にも、そして海外からも多くの方に来ていただきたいと考えています。

エスカレーターを上って左右にショップ&カフェ「Fan Terrace」と富士スピードウェイホテルのレセプションがある。今までにない開かれたミュージアムのレイアウトに今後の新しい展開が期待できる。

既にホテルのほうへは、オーナーズクラブの方々などからご予約をいただいているようです。我々はトヨタ博物館を含め、オーナーズクラブの方々を大切にするということには力を入れています。コロナ禍で、全国の博物館は来場者が半減以下になったのですが、実はトヨタ博物館で行われたオーナーズミーティングは、コロナ前より増え続けたのです。

未来も見据えて


いまモータースポーツは新しい局面を迎えています。水素エンジンは、たった1年で出力が20%も30%も上がるとか、水素充填のスピードが分単位で向上していくといった、ガソリンエンジンでは考えられないようなスピードで進化しています。初めは小林可夢偉さんの思いついたことを、豊田社長が「いいじゃないか、やってみよう!」と実践してみたら、どんどん仲間が増えていった。なんとか内燃機関を残したいという熱意も背景にあるでしょうが、レースと進化のスピードがこれほど密接に結びついている時期は、130年ぶりかもしれません。あらゆるものが一気に変わる時代に、差し掛かっています。

仮に電動に切り替わったとしても、それはそれで凄まじい進化になります。ハイブリッドでル・マンに出るようになったとき、標準的なガソリン車よりも重いものを積んでいるというハンデキャップだったわけです。それが、今や、シケインができる以前のタイムを達成するほどに速くなっています。その進化の早さがレースの力です。

このミュージアムは、まだこれからどんどん進化していきます。その過程をぜひ皆さんと共に楽しんでいきたいと思っています。

耐久レースは自動車メーカーにとって、車の信頼性を試すことで製品の優れた点をアピールするには格好のステージであった。ル・マンコーナーの 2台のオーラーは凄まじい。 


富士モータースポーツミュージアム

静岡県駿東郡小山町大御神645
https://fuji-motorsports-museum.jp/


文:オクタン日本版編集部 写真:安岡嘉、芳賀元昌
Words:Octane Japan Photography:Yoshimi YASUOKA、Gensho HAGA

オクタン日本版編集部

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