27リッター航空機エンジン搭載のモンスターに試乗!爆音奏でるマシンのドライブフィールは?

Evan Klein

この記事は【排気量27リッターの怪物!? 航空機さながらの「冗談のようなクルマ」とは】の続きです。



LAのダウンタウン北部に位置するバーバンクにあるレノのガレージからファントムIIを出すと早速、トランスミッションのケージを擦った。ロンドンの二階建てバスの3分の 2 ほどあろうかという全長の割に、ファントムIIのコックピットは笑えるほど狭く助手席に座るとジェイと仲良く肩を寄り添わせる。ジェイはフロアから高く“生えた”シフト操作しながら、巨大なステアリングホイールと格闘する。あらゆるものがあらゆる音をたて、熱が容赦なく放射されてくる。凹凸を乗り越えるとシャシーはガタガタと揺れ、エンジンとトランスミッションの間にある減速機が物悲し気に吠える。

エレガントなインテリアはステアリングホイールとシフトレバーの存在感が大きく、驚くほど狭い。

「この車で運転免許試験は受けたくないですね」とジェイは運転しながら無表情で言った。実にシニカルで笑いがジワジワこみ上げてくる。

ジェイは天性のエンターテイナーである。22年間で4610回もの「The Tonight Show」の司会を務め70歳になった今でも昔のジョークを繰り出し、過去に何百回も聞いた話をしながら抑えきれないほどの笑いを誘う。ジェイはホットロッド好きでもなければレーシングカー好きでもないので、コレクションに収まる車193台、オートバイ168台はほとんどがオリジナルのもの。だが、一部“変わり種”が混在している。例えば最高出力1000bhpを叩き出す1966年式オールズモビル・トロネード、ヘリコプター用タービンエンジンを搭載したバイク、1950年代のM47パットン(戦車)から取り出した1792立方インチ(29リッター!)の空冷V12エンジンを搭載した“タンクロッド”などが含まれている。タンクロッドは磨き上げられたアルミ製ボディを持ち、まるで魚雷な姿をしている。またマーリン絡みの車はファントムIIだけでなく、1930年式のベントレーでロールス・ロイス製ミーティアエンジンを積んだものを所有している。コレクションのすべてが登録されており、少数精鋭のお抱えメカニックによっていつでも動かせる状態が保たれている。

ファントムIIのアイドリングは約600rpmで、クルージングしていてもせめて900-1000rpmほどだが、排気はまるでリーフブロワーのように路面を覆う埃やゴミを吹き飛ばす。30ガロン入りの無鉛ガソリンタンク2つと10ガロンの航空燃料のほかに、15ガロンほどのオイルを積んでいる。水温はすぐに華氏200度まで上昇するが、オイル温度の針が動くまでには20分ほどかかっている。

排気量27リッターのエンジンの稼働状況を知るためのゲージが多数並ぶ。

レッドラインは3500rpmだが、ジェイはちょうど咆哮が激しさを増し始める2000rpmあたりでシフトアップする。ファントムIIは、私が思い描いていたエアショーで耳にするスピットファイアの音ではないことに少しがっかりしたことを告白する。だが、それは直径11フィートの4枚羽根のプロペラが超音速になるわけでもなければ、機体を時速250マイルで引っ張るわけでもないから、ということに気づいた。時速40マイルでとろとろと走るファントIIが奏でるマーリンエンジンは、まるで直管のハーレーを何台も走らせているようなものだ。周囲のドライバーはファントムIIの音に驚き、黒光りする巨漢に驚き、ジェイ・レノが運転していることに驚く。スマートフォンのカメラが向けられると、ジェイは笑顔で親指を突き上げる。バーバンクでの日常だ。

“撮影会”が終わると、ジェイは私にドライバーズシートを譲ってくれた。2速発進が望ましいと聞いていたが、図太いトルクが何速でも許容してくれそうな雰囲気だった。クラッチ操作でエンストさせるのは至難の業で、機関銃で数発撃ち込まれないかぎりエンジンは止められないかもしれない。もっとも120マイルも走行すれば、60ガロン(227l)のガソリンを使い切ってしまう。なお、ジェイはファントムIIを1100マイル以上走らせたという。思わず電卓を叩いてみたくなる。



1マイルも走れば、このマーリンエンジンを搭載したファントムIIの強烈さを思い知らされる。ステアリングは前輪が動くたびに負荷が目まぐるしく変わる。ある時は、クリームに漬かっているような滑らかに、ある時は石に突き刺さったハンマーを抜こうとするほど重たい。特にコーナーではエンジンの質量が自ら方向を決めようとするため、常にフロントエンドを追いかけることになり、ロングノーズは揺れ動く傾向がある。トランスミッションも独特でスムーズに3速に入ることもあれば、ニュートラルにシフトしてからどのギアにも入らなくなることがある。慣れが必要というよりも、ドライバーの忍耐力が試される場面と言ったほうが適切かもしれない。

ロサンゼルス北部の丘陵地帯を横切る流れの速い210号線フリーウェイに合流し、ようやくフルスロットルを試す機会を得た。何度か軽快にシフトアップをキメると時速70マイルに達し、ファントムIIの爆音で周辺のビルの窓ガラスを割ったのではないか、と思わせてくれた。時速70マイルで6速に入れると、マーリンエンジンは900rpm程度で唸り声をあげる。髪を後ろになびかせ、まるで街を救うために出動するヒーローにでもなった気分に浸った。



ジェイは、高速出口から1マイル手前のところで私にブレーキについて警告を発し始めた。案の定、中央のペダルは私が踏み込めるすべての重量を受け止め、最小限の効力を4つのブレーキディスクに伝達した。ブレーキはしっかり強力に踏み込まないと、反応してくれない。交差点を走り抜けるたびにこの動作を繰り返し、ドライブのあと3日間は右の腰が痛んだ。

ブレーキは倍力装置の装着が必要だろう。

「パワーブレーキを装着しないといけないんですよね」とジェイは言ったが、ドライブ後の疲労は皆無な様子で歩いていた。

マーリンエンジン搭載車と耳にして思い描いた姿が、現実のマーリンエンジン搭載車と全く一致しなかった。マーリンエンジンを搭載するスピットファイアが飛ぶ姿、耳にする音から期待値が高まり過ぎたのだろう。いわば空想の世界のヒーローカーなのだ。それでもジェイのお抱えメカニックたちが、現実の車として仕上げたのは技術力と忍耐力の賜物である。ジェイ・レノは何十年にも渡って、視聴者を楽しませてきた。そんな彼はマーリンエンジンを搭載したファントムII(そして、そのほかのコレクション)で自分を楽しませているのだ。


編集翻訳:古賀貴司(自動車王国) Transcreation: Takashi KOGA (carkingdom)
Words: Jay Harvey Photography: Evan Klein

古賀貴司(自動車王国)

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