ジェイ・レノが所有する排気量27リッターの怪物!? 航空機さながらの「冗談のようなクルマ」とは

Evan Klein

マーリンエンジンを搭載したロールス・ロイス ファントム?『Octane』誌がアメリカの喜劇王、ジェイ・レノと一緒に、排気量27リッターの航空機エンジンを搭載した怪物に同乗した。



ジェイ・レノが所有する1934年製のロールス・ロイス ファントムIIは、スピットファイアと同じ鼓動を打つ。まるで磨き上げられた黒曜石と純銀からできた精巧なジュエリーのようだ。そして、石油精製所のような造形美も持ち合わせている。コクピットからヘッドライトまでの広さだけでも、人が住めそうだ。ホットロッドではないものの、エンジンカウルから猥雑に突き出たエグゾーストマニフォールドから純粋なロールス・ロイス車とは思えない。エグゾーストはリアタイヤ前方から吐き出され、エンジンが燃焼に用いるシリンダー容積の合計…、つまり排気量は“27リッター”である。



アメリカ屈指の深夜番組の“顔”であり、コメディアンであるジェイは私が「なぜ?」と投げかけた問いに驚いた様子だった。彼は驚いたように青い目を見開いて言った。

「なんて質問なんだ?」と。たしかに愚問だったかもしれない。この車を一目見れば、存在意義は驚きと楽しみを与えることに他ならないことは一目瞭然で、ジェイにとっては半世紀に渡って自身がショービジネスに身を置く立場として大切にしてきたことでもある。

1980年代後半、ポール・ジェームソンというイギリスのエンジニアで、13世紀に建てられた教会の修復家で、軍用の中古ロールス・ロイス製エンジンを積んだ車を作ることに夢中になっている“変人”についての雑誌記事を読んだ、とジェイは回想する。オクタンで過去に取り上げた「ザ・ビースト」を覚えているだろうか?アニメに登場するような“膨らんだ”リライアント・シミターにかの有名なマーリンエンジンの戦車版である、ロールス・ロイス製ミーティアエンジンを搭載。超人ハルクが所有しているかのようなシューティングブレークは注目を集め、現在もスペインのどこかで生息しているようだ。公称最高出力1760馬力で、最高速185mphに達すると言われているが、命知らずのみが試せる世界である。ザ・ビーストもジェームソンが手掛けたものだが、後にジョン・ドッドに引き継がれた。

ジェイの嗜好(彼自身は、嗜好はないと主張するが)を知る者なら、ジェームソンが手掛けた次の作品がハリウッドのNo.1カーガイにとっていかに魅力的であるかわかるだろう。ポップな雰囲気を捨てたジェームソンはクラシックなものを目指し、1934年式ロールス・ロイス ファントムIIに、マーリンエンジンを載せたのだ。当時、マーリンエンジンの調達は驚くほど簡単だったのだろう。ジェイはジェームソンに電話し、売却の意思を確認した。

「答えは“ノー”でした」と振り返るジェイ。引き下がることなく幾らなら手放すか聞くと15万ドルからびた一文まけない、というので15万ドルで購入する旨、伝えた。
「ジェームソンは、ちょっと驚いた様子でした」

数日後、ファントムIIは飛行機で運ばれてきたが、車というよりも製作半ばの芸術作品といった雰囲気だった。問題はジェームソンがエンジンの後ろに取り付けたモス・ジャガー製のトランスミッションだった。数基のトランスミッションを破壊した後、ジェイは車をバラして“仕上げる”ことを決意した。入手してから30年後、マーリンエンジン搭載のファントムIIに戦間期黄金時代のクラシックロードスターを彷彿とさせる、手作業で加工された新しいアルミボディを与え完成した。



ファントムIIの下回りを覗くと、車を動かすために現実を垣間見ることができる。スパゲッティのように張り巡らせられた各種配線は赤と青にアルマイト処理されたANフィッティング(軍需規格)され、燃料や潤滑、冷却のための巨大なポンプが鎮座する。車両中央部分には、最高出力700psほど最大トルクは神のみぞ知るほどパワフルなエンジンに対応した、スチールケージに囲われたニューベンチャーギア製6速マニュアル・トランスミッションが配される。プロペラシャフトは減速ユニットにスプライン結合され、トランスミッションのアウトプットシャフトはクランクから約6インチ下に設けられることに。よってトランスミッションはボディ下に“突き出た”カタチになるので、擦ったり打ったりが日常茶飯事ゆえにスチールケージで囲われている。

ANフィッティング(軍需規格)で信頼性向上。

ヘンリー・ロイス卿が1933年に亡くなる前に世に送り出した、バンク角60度の巨大な水冷式マーリンV12エンジンは、スーパーマリン スピットファイア、ホーカー ハリケーン、ノースアメリカンP-51 マスタングなどに搭載された。ジェイのエンジンは戦時中、英国空軍の双発攻撃機、1944年型デ・ハビランド モスキートMk IVに搭載された歴史を持つ。マーリンは、何かとトラブルが多かったケストレルを進化させたもので、ロールス・ロイス社の規則に従い猛禽類からその名を取った。

48バルブとシャフトドライブ式オーバーヘッドカムシャフトの下には、5.4インチのボアと6.0インチのストロークを持つ12本の巨大な鍛造アルミ製ピストンがあり、1649立方インチ(27リッター)の排気量は、最高出力1700馬力を発生するに十分であった。2段式インタークーラー付きスーパーチャージャーを駆動するために400馬力を必要としたが、車には不要と判断され搭載が見送られた。その代わりジェイの“お抱え”メカニックたちは、ウェーバー48 IDAダウンドラフト・キャブレターを6基、エンジンのV字溝に取り付け空に突き出したインテーク・トランペットがコロンボ・フェラーリV12エンジンを思い起こさせる。もっとも、甲状腺に問題を抱えたような大きさではあるが。エンジンにはジェイの友人の父親でノルマンディーの海岸で戦死して子供に会うことができなかった「トーマス・J・レーンJr」のプレートが貼られている。
「このエンジンがそもそも何のために作られたか、思い出してもらうため」だとジェイは言う。

戦闘機に搭載された由緒正しきエンジンだが、エトスは別物。

エンジンの始動には航空機さながらの“チェックリスト”が必要だ。ジェイ自身、エンジンを始動させるのに正しい手順を踏んだか分からなくなるほど。まずオイル循環ポンプを10秒押す。スターターマグネトーのスイッチを入れる。左右のメインマグネトーのスイッチを入れる。始動・停止専用のタンクから航空燃料を送り込むポンプをオンにする。ダッシュボードに備え付けられた第一次世界大戦時代のスターターマグネトーの小型ハンドクランクを勢いよく回し、シリンダー内に火花を散らしながらスタートボタンを押す。一連のプロセスを経て…、エンジンはうんともすんとも言わない。

「いつもならすぐにエンジンかかるのに」とジェイが一瞬、慌てた。アクセルペダルのポンピングを繰り返し、ハンドクランクをさらに回す。燃料ポンプが後部で大きな音をがなりたて、やがてエンジンがかかった。フロートボウルに十分な燃料が送り込まれるまで、待っていなかったことが原因だった。

・・・【後編】に続く。


編集翻訳:古賀貴司(自動車王国) Transcreation: Takashi KOGA (carkingdom)
Words: Jay Harvey Photography: Evan Klein

編集翻訳:古賀貴司(自動車王国)

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