もしかしたら安すぎる? アルヴィス・グラバーの復刻版|最初の2台は日本へ

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レストア車両ではなく文字通りの“新車”アルヴィス・グラバー・スーパークーペを、マーク・ディクソンがUKオクタンのためだけに試乗した。



安過ぎる? 32万3000ポンドもする車に、普通はそんな疑問を抱くことはない。しかしアルヴィス・カー・カンパニーの「コンティニュエーション」最新モデル(1967年式グラバーボディの3リッタークーペ復刻版)としばらく時間を過ごすと、実はかなりバリュー・フォー・マネーなのではないか、そう思えてくるかもしれない。アストンマーティンの「ジェームズ・ボンド」DB5復刻版が330万ポンド、ジャガーCタイプの復刻版が200万ポンドで販売されている、という現代の背景において、アルヴィスの価格設定は控えめ過ぎるのではないか、と思わざるを得ない。

もちろん、ブランド認知度がモノを言う世界ではある。ジェームズ・ボンドとジャガーは誰もが知っているが、アルヴィスを知っているのはある程度の年齢を重ねた車好きだけ。些か下世話ではあるが不動産大富豪やハイテク企業の天才たちが大金を投じて貴重な車を手に入れるなら、誰もが知っている車であって欲しいだろう。持っているものは見せびらかしたくなるものである。

控えめなルックスに申し分のない性能


だが、スタイリッシュであるためには“背伸び”感を排除することが大切で、その点アルヴィス・グラバー・スーパークーペはうってつけだ。控えめなルックス、3リッター直6エンジンには"現代"の燃料噴射装置を搭載し、性能的に申し分はない。アルヴィスが公表している最高出力はオリジナルの130bhpから172bhpに向上。かなりの「改良」が図られたと言えよう。



しかもDB5やCタイプと違って、あまり知られていないグラバー社製ボディのアルヴィスのほうが注目度は高い。スイスのコーチビルダー、グラバー社は1951年のTAから1968年のTFまで戦後さまざまなアルヴィスを手がけたが、その数は常に少なくグラバー・アルヴィスの中で最も多かったのはTDの50台だった。グラバーTFにいたってはたったの6台で、アルヴィスはクーペ2台とカブリオレ2台の計4台を追加しようとしている。

この復刻版は1994年に瀕死のアルヴィスを買収し復活させた、アラン・ストートが所有するオリジナルのグラバーTFのドッペルゲンガーだ。遡ること2010年、イギリス版『Octane』81号でストート氏のインタビューが掲載されてから、アルヴィスは着々と成長を遂げてきた。2011年には戦前の美しい4.3リッターの復刻版(クーペとロードスターをラインナップ)を投入し、そしてTF仕様のシャシーにグラバーボディのクーペ、カブリオレもしくはパークウォード・ドロップヘッドクーペの3リッターモデルの販売を開始するに至った。

新品同様のグラバーに試乗する


シャシー番号795をアルヴィスの本拠地である、ケニルワース基地周辺のウォリックシャーの小道で試乗するために、このプロジェクトのチーフエンジニアを務めたピーター・バーフォードが同乗した。私も彼も緊張していた。というのも、この車、数日後に日本へ輸送される予定で、文字通り新品同様のコンディションだったからだ。飛び石によるダメージも怖ければ、万が一のことを考えると…



第一印象はとても長く、まるで魚雷のように思えた。グラバーがアルヴィスのために手がけたデザインは最も成功したもののひとつで、車を肥大化させることなくベントレーのような重厚感を与えた。最終モデルはフロントグリルがワイド化され、ヘッドライト周りのクローム処理などがモダンな雰囲気を与えている。ボディに飾り気はほとんどなく、アラン・ストートの車に装着されていたエンブレムから金型を作り、鋳造された「Alvis GraberSuper」のエンブレムをトランクリッドに装着しているくらいだ。ローズゴールドメタリックの塗装は、新車当時のカタログでは色気を全く感じさせない「メタリックベージュ」と謳われていた。ボディのパネルフィットはタイトで、サイドラインの飾り気ない純粋な美しさが引き立つ。



インテリアもエクステリア同様にハンサムだ。現代のIVA(個別車両承認)規制により、スイッチ類の一部はオリジナルとは異なるが、今日の官僚は少しでも硬いエッジを持つものは許さない、というスタンスでいる。現代的な平面状の警告灯とプッシュスイッチが最大の落胆箇所だが、オリジナルの時代に“見合う”ものに交換するのはさほど難しいことではないだろう。ダッシュボードとセンターコンソールの間に配された現代のエアコン吹き出し口は一見、時代錯誤に思えるが実際は存在にほぼ気づかないばかりか、その有用性は疑う余地がない。



品質面では、ほぼ申し分ない出来栄えだ。アルヴィスは自社で内装を手掛け、レザーシートは見た目も感触も素晴らしく、ドア内張上部のスエードが貼りつけられた木製キャップも美しい。合金部分にドリル加工が施されたウッドステアリングは、オリジナルのワイヤースポークよりも些か煌びやかに見えてしまうが、ちょうどいいサイズで扱いやすい。そして、電動パワーアシストされている。

ドアはコーチビルドらしく「ドスン」と耳障り良い音で閉まる。クラッチは重くはないものの、ペダルトラベル量が大きめだ。トランスミッションは1950年代から60年代のZFユニットにありがちな精密だが稀に渋る動作をするが、実際は最新のトレメック製5段MTを搭載している。「戦前のコンティニュエ―ションには6段のトレメックを使っていますが、3リッターエンジンのパワーバンドと回転域では5速で十分、6速は不要、という結論に達しました」とピーターが説明した。

エンジンは逸品だ。1960年代の純正ブロックとヘッドをベースに、当時使われていたSUキャブレターではなく「アルヴィス燃料噴射装置」と名付けられたものを採用している。ツーリング仕様のこの個体、もっとパワーやトルクが出るように調整できるはずだが、グラバーらしく紳士的な走りをするには十分すぎるほどだ。



軽快で小気味良いステアリングを握り、ウォリックシャーの小道に出る。すぐに感心させられたのは、エンジンの洗練性と乗り心地の良さの2点。乗り心地はローバーP6には及ばないまでも1960年代の最高峰な乗り心地に匹敵するもので、しなやかでありながらコントロールされている。巡航中、フロントに収まる6気筒エンジンはハミングしているかのようでタペットの囁きのような音が微かに、窓を開ければ吸気音が微かに聞こえてくる。アクセルペダルを踏み込むと音量は増すが“悲鳴”をあげるわけでも、“遠吠え”するわけでも、“唸る”わけでもなく、歯切れ良く控えめなサウンドとともにスピードが増していく、上質さに包まれる。エキサイティングでありながら上品であるのだ。つまりは、アルヴィスらしいということ。



このエンジンは特段、高回転型というわけではないが吹け上がりは軽妙で、爽快に加速する。ツインキャブのDB6と比べても、さほど変わらないのではないだろうか。クラッチペダル同様、アクセルペダルのトラベル量も大きい。シフトダウンした際、アクセルペダルでブリッピングさせるのは、かなり踏み込まなければならない。積極的に運転したいオーナーならば、リンケージを短くすることを望むかもしれない。なお、そのようなカスタマイズ、アルヴィスなら喜んで対応してくれるはずだ。

「燃焼技術を専門とするエンジニアにオリジナルのエンジン設計を解析してもらったところ、現代の排ガス規制に適合させるために、さほど手を入れる必要がないことに驚いていました」とピーター。

「圧縮比を9:1に上げ、混合気を十分に燃焼させるために新しいピストンを組み込みました。シリンダーブロックとヘッドはオリジナルの部品で、40組をストックしています。滅多にトラブルが発生しないディファレンシャルやリアアクスルですが、主要部品ではあるので新旧のストックを数多く抱えています」

ラダーフレーム、コイル&ウィッシュボーンの独立懸架式フロントサスペンション、半楕円バネのライブ・リアアクスル、とアルヴィスのプラットフォームはTシリーズを通して変わらなかった。伝統的なプラットフォームを受け継ぐコンティニュエ―ション・モデルにおいていかに乗り心地とハンドリングを味付けするか試された、とも言える。試乗した第一号車、低速域ではステアリングのセルフセンタリング不足が気になったが、キャスター角の調整で解決できると、ピーターは考えていた。

電動パワーステアリングの追加は、ハンドリングにプラスとなった。「もともとのステアリングボックスをラック&ピニオンに変更し、電動アシストを自社開発しました」とピーターが解説する。

「次の車では、ドライブシャフトにセンサーを取り付け、速度感応式にするつもりです。1台、1台が微妙に異なる、というグラバーの伝統なのです」と続けた。

写真撮影のためにストップ/スタートを繰り返していたが、結果的にはこの車が日常生活において、いかに気を遣わずに使えるかを知ることができた。全くと言っていいほど欠点は見当たらなかった。唯一、エンジンが熱い状態でリスタートしようとするとグズることがあったが、燃圧調整で解決するとピーターは見込んでいて、既にエンジン・マネージメント・システムのリマッピングを予定していた。また、最小回転半径は大きめなので、交差点の合流では注意を要する。もっとも、ロンドンタクシーのような小回りが効く車が欲しければ、ロンドンタクシーを購入すれば済むだけのこと。

グラバーはコーチビルドされたラダーフレームの車両にありがちな、時折発生する軋み音やビビり音とは無縁だ。走りは見た目の通り、新車らしい。1960年代、もしくはもっと前から自動車媒体が撮影場所として好まれたストーンリーの地は、グラバーに似つかわしい場所だ。大きな馬に乗った狐ハンターが登場すれば、古き良き英国の典型的な風景が完成する。


編集翻訳:古賀貴司(自動車王国)

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