まるで翼を取った航空機 !? 夢の高速鉄道「アエロトラン」の美しき流線型スタイル

Tomonari SAKURAI

前回の軍用車両博物館の展示。実を言うとアレはおまけだったのだ。こちらが本命。アエロトラン。1963年からフランス国鉄が関わって開発を進めた高速鉄道だ。感覚的に言うとリニアモーターカーに近い。線路から浮かして抵抗や線路との接点からくる振動を減らして最高速を稼ぐ。ただしこのアエロトランは線路から浮かすのに電気の力ではなく圧縮空気によって浮かせる。推進力は航空機エンジンのプロペラやジェットなのだ。リニアモーターカーに比べ比較的簡単に浮上させることができる。

そして何より空気抵抗を減らすための流線型が美しい。このプロトタイプが、前回の軍用車のコレクションをするアソシエーションのUNIVEMによって保管されている。ということで、この日は同じ会場で披露された。プロペラを持つ試作1号機とジェットエンジンの試作2号機の実物、そして他にも当時作られたモックアップなどが展示された。



1号機を斜め後ろから。

この写真を見てこれが鉄道だと思う人がいるだろうか?実際に記録を出した試作2号機。

2号機の後部エンジン。

無塗装のジュラルミンボディとその形状から、翼を取った航空機に見える。その昔描いた未来の乗り物そのものである。特に1969年に422km/hを記録したこの2号機はコクピットが戦闘機のようだ。

中央に1本だけのレールを使う。このレールから圧縮空気によってほんの5mmほど浮かせて走行させる。レールから浮かせて走行できるということは列車のようにレールに負荷がかからないのでメンテナンス費用も抑えられるなどの利点もあって、パリの二つの空港、シャルルドゴール空港とオルリー空港を結ぶ路線が計画された。しかし1975年にこれを考案したジャン・ベルタン博士が死去したとほぼ同時期に、現在の高速鉄道であるフランスの新幹線TGVの実用化のめどが立ったためにそれを譲る形で計画は消えて行ってしまった。TGVはすでに敷かれたレールを使用できるという利点が活かされているのが何よりも有利になったようだ。

モックアップ。実用化されれば客席がつきこのようなスタイルになった。

1号機の模型。実際にプロペラにより走行する。このプロペラエンジンはかなりの音が出て会場中に響き渡った。

空気で浮かせているという仕組みからトンネルを通過することも難しかった。そして何より航空機エンジンだ。1970年代といえばオイルショック。それもあってこの計画は消えて行ってしまったのだ。ちなみにこの空気によって浮かせる仕組みは我が日本の成田空港で第二ターミナルとの連絡用に1992年から2013年まで実用化されていた。

1号機の後部のエンジンルーム。

使用されたエンジンも展示(放置?)されている。

1号機のコクピットを見てみると、確かに電車ではなく航空機に近い。この1号機は乗客4人と乗務員2名が乗れるスペースが中央にある。

1号機のコクピット。電車のそれではない。やはり航空機に近い。

試作機第1号の乗客と乗務員のコンパートメント。

会場ではこの1号機の模型をラジコン操作で走らせられる模型も登場。大人達が夢中になって見ていた。そういえばフランスではエットーレ・ブガティのデザインした電車もある。スピードを追い求めるのは電車の世界にも存在するわけで、その歴史においてこのようなものも存在したというのが興味深い。スピードを求める乗り物の何と美しいことか。


写真・文:櫻井朋成 Photography and Words: Tomonari SAKURAI

Photography and Words: Tomonari SAKURAI

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事