ロイヤルファミリーの元愛車がバーゲンプライスで落札|英国マーガレット王女の極上ロールス・ロイス

Collecting Cars

エリザベス女王2世の実妹、スノードン伯爵夫人マーガレット王女(マーガレット・ローズ)が22年間、所有した1980年式ロールス・ロイス・シルバーレイスIIがオークション(Collecting Cars)に出品されていた。

シルバーレイスIIは同時期の兄弟車、シルバーシャドーIIよりも4インチ(10.16㎝)ロングホイールベース化されているもの。6.75リッターV8エンジンには3速ATが組み合わせられている。ルーフに装着されているブルーの“警光灯”が、乗っている人物が只者ではないことを認識させる。



マーガレット王女が乗車している際、もちろん車両の前後には警備車両がいるだろうが、このブルーの警光灯が点けられるそうだ。また、この警告灯上部にはユニオンジャックを掲げるフラッグポールも内蔵。一見、この警光灯くらいしか違いがないように感じるだろうが、実は細かな部分までマーガレット王女によるオーダーがあったのだ。

まず、本来、フロントフェンダーにあるはずの方向指示器は、ボディ横に入るメッキラインの部分に移設されているのだ。本来Cピラー付け根に装着されるはずのロールス・ロイスのエンブレムやトランクリッド右側に装着されるはずのシルバーレイスIIのエンブレムも、新車時に「非装着」でオーダーされている。





インテリアに目を向けてみると、本革ではなく布シートでドライバーズシートには専用カバーが装着されている。ちょっと面白いのはこの布シート、「ペールグリーン」という色でグレーではないそうだ。フロントダッシュボードやドア内張上部には黒の本革が奢られ、フロアカーペットやドア内張下部はグリーンでまとめられている。



グラブボックスの“取手”はマーガレット王女が以前所有していたロールス・ロイス車から移設されたもので、鍵は付いていない。というのも、グラブボックスには警光灯のスイッチが装備されており、必要に応じて即座に点灯させられるように、という配慮から。



インパネ周りにはローズウッドパネルが奢られているが、マーガレット王女のオーダーで艶消しとなっている。最近でこそ珍しくない艶消しウッドパネルだが、マーガレット王女には明確な理由があった。常にマスコミに追われていた立場ゆえに、カメラマンのフラッシュがウッドパネルに反射することが常々、不愉快だったという。



マーガレット王女に身長に合わせ、リアシートの座面はほかのシルバーレイスIIよりも低く取り付けられているほか、リアドアの内張部分に装着されるはずのアームレストも取り外されている。また、リアドア上部には追加でランプが装着されているのも、こだわりの装備だ。そのほか、リアシートのパイピングは乗る人の首に触れないようにオーダーされていた。



2002年2月にマーガレット王女は薨去し、シルバーレイスIIに家族を乗せ葬儀に参列。シルバーレイスIIを相続したのは、マーガレット王女の長男、第2代スノードン伯爵、デイヴィッドだった。ちなみに第2代スノードン伯爵、ビスポーク家具ブランド「リンレー」を立ち上げたほか、一時期は老舗オークションハウス「クリスティーズ」の会長職も務めていた。

第2代スノードン伯爵、デイヴィッド、シルバーレイスIIを「ロイヤル ミューズ」と呼ばれる“王室専用の厩舎(馬小屋)”への寄贈を打診したが展示スペースが無い、ということで老舗ロールス・ロイス販売店、P&A WOOD社に売却。間もなくしてイギリスの英国王室ファン、オールライト氏が購入した。

オールライト氏は当該シルバーレイスIIにまつわる資料や写真、はたまたかつての専属ドライバーや第2代スノードン伯爵、デイヴィッドとのやりとりなどもファイルにまとめて大事に保管してきた。オールライト氏、なんと第2代スノードン伯爵、デイヴィッドにも手伝ってもらい、マーガレット王女が所有していたときに付けていたナンバープレート「3GXM」も入手している。





そして2016年、現出品者(ジェフリー・トマス氏)がJDクラシックス社から当該シルバーレイスIIを8万ポンドで購入した、と言われている。その後、2016年、2017年とオークションに出品されるも直前に出品取り消しされたり、落札価格に達しなかったり、となかなかジェフリー・トマス氏の手もとを離れることはなかった。晴れて落札されたのは2020年のことで「NECクラシック・ライブ・オークション」にて4万9500ポンドで落札された。

そして今年8月14日には、3万5301ポンド(日本円換算約570万円)でコレクティングカーズにて落札された。走行距離4万7369マイルと決して多走行ではなく、それこそ2016年時点からほとんど増えていない。そればかりか、出品前にはブレーキとパワーステアリングのオーバーホールを受けているので、落札してすぐに乗り回すこともできるだろう。にもかかわらず、2020年のオークションよりも安く落札された。

写真を見るかぎり、当該シルバーレイスIIは歴代オーナーによって丁重に取り扱われたことが伝わってくる。ビニールトップルーフ(エバーフレックス)はオールライト氏が購入してから張り替えられているが、とにかく美しいコンディションが保たれている。42年前の車としては「極上車」と呼んで差し支えない。



3万5301ポンドという価格は、どう考えてもバーゲンプライスに思えてならない。それこそシルバーレイスIIで似たような条件の中古車相場より“1割高め”くらいだ。そもそも2135台しか生産されておらず、マーガレット王女がスペシャルオーダーした元愛車というヒストリーまで付いており、文字通り唯一無二な存在である。そんな車が新車の国産中型セダンを購入する予算で狙えるのは、今の円安状態を勘案しても安過ぎる。


文:古賀貴司(自動車王国) Words: Takashi KOGA (carkingdom)

文:古賀貴司(自動車王国) Words: Takashi KOGA (carkingdom)

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