北海道・道東を3日間たっぷり駆け抜ける|「トロフェオ・タツィオ・ヌヴォラーリ」参戦記

TTNオフィシャルカメラマン鎌田廉平

“フライング・マントヴァーノ(空飛ぶマントヴァ人)”と称され、四輪ドリフトテクニックを生み出した1930年代に活躍した伝説のレーシングドライバー、タツィオ・ヌヴォラーリ(イタリア人)。彼の名を冠するクラシックカーラリー『Trofeo Tazio Nuvolari(トロフェオ・タツィオ・ヌヴォラーリ)』が日本で22回目を迎え、7/15-17の三日間にわたって開催された。

タツィオ・ヌヴォラーリの故郷イタリアのマントヴァ市では彼の功績と栄誉を称え、毎年秋に『グランプレミオ(GP)・ヌヴォラーリ』が開催され、これはミッレミリアと並ぶ人気のイベントだという。ちなみにそのマントヴァでは今年、タツィオ・ヌヴォラーリ生誕130周年を記念した様々なイベントも企画されているそうだ。

「トロフェオ・タツィオ・ヌヴォラーリ」とは


『Trofeo Tazio Nuvolari(トロフェオ・タツィオ・ヌヴォラーリ=以下「TTN」と略)』はGPヌヴォラーリを主催するマントヴァ・コルセと提携し日本で開催される“姉妹イベント”のようなイベント。さらにTTNは2022年の今年からは、公道を使用して行われるクラシックカーラリーを国際的に統括する団体「FIVA」の国内認定イベントに認定。またイタリアのクラシックカー(バイク)に係わる組織「ASI」の後援も受けることとなったそうだ。20年以上継続して開催されるTTNの実績が評価されていることがわかる。が、はじめにそんなことを知らされていたなら、「なんだか敷居が高そう!?」と、私は楽しみよりも不安の方が大きかったかもしれない。コロナの影響もあり今年も以前の半数ほどの参加台数だったというが、3日間を振り返ると参加者皆さんの笑顔ばかりが思い浮かぶ、とてもほのぼのとしたイベントだったおかげで初参加の我々も大いに楽しむことができた。



参加車両は旧いモデルでは1933年製の508ヴァリラ・コッパドーロ(FIAT)や1936年製のFIAT508スポーツ・スパイダーなどの戦前モデルが参加。コッパドーロのタイヤむき出し、乗員も現代のオープンカーとも違ってむき出しなスタイルは想像できたけれど、508スポーツ・スパイダーのような現代的なフォルムのスポーツカーが存在するとは知らなかった。真っ赤なボディ、グリル中央にもう一つのライトが備わる“顔”とともに個性を放っていた。





車好きとしては1940年代からたった20年だけ存在した『オスカ』のモデル(『S-950』)と同じイベントに参加できたことも嬉しかった。これまでは「眺めるだけ」だったから、だ。



まるいフォルムが可愛いアルファロメオSZ(1959年製)やポルシェ356SCスパイダー(1964年製)、今見ても優雅なオーラを放つシトロエンDS-21(1970年製)、多くの人に人気のある“マルニ”ことBMW2002ターボ(1972年製)と3.0CSI(1975年製)が並んで停まる姿には目を細めるばかり。今となってはコンパクトで見るからに軽快さが伝わるフェアレディSRL(1968年製)やアルファロメオ・ジュリア1300ジュニア(1969年製)etc、名前を挙げるだけでもキリがないが、様々な色も鮮やかな個性溢れるモデルが北海道内はもちろん全国から参加者が集まった。



そんななかに混ぜていただくべくオクタン日本版編集長と筆者である私がお借りしたのは1972年製の真っ赤なアルファロメオ1600ジュニア・ザガートだった。シュッと延びたノーズ、フロントウインドウ上端からリヤに向かって低く傾斜し、ストンと切り落とされたテールエンド、ギョロリとした瞳がおかっぱ頭の前髪にかかるように見えるグリルに左右2灯のライトが埋め込まれた顔。美しさとカッコ良さは、多くの個性的なモデルの中にあっても埋もれることのない存在感があり、車に恥じぬ走りをしてあげなくてはと思うのだった。



細いピラーが時代を感じさせ、想像以上にガラスエリアが広く視界は良好。想像以上と言えばトランクスペースもたっぷりと保たれ、二人分の3泊の荷物も余裕で納まるほどだった。驚いたのはそのラゲッジを開閉するリアハッチはセンターコンソールにあるスイッチで電動開閉を行うこと。現代の常用車だって高級車から徐々に普及してきたというのに、1970年代にすでに電動開閉を採用していたなんて!このハッチの機能性は単に開閉するだけでなく、開閉度合いを調整でき、車内のベントレーションの役割も果たすから凄い。“手動式”のサイドウインドウを開けて走れば一層風通しも良くなり、雨のなかの走行でもガラスが曇りにくく助かった。こんな新しい発見もあった素敵なモデルを貸してくださったオーナーさんには感謝しかない。

3日間のラリーは変わりやすい天候のなか帯広から道東を巡るルートを走った。今回は堀江編集長と私がドライバー/コ・ドライバーを交代しながら走ったので、両方の役割を経験することもできた。ちなみにコ・ドライバーは助手席でナビをするのだけれど、加えてドライバーの交代要員として認められていることもラリーのルール(予備知識)としてお伝えしておこう。

アルファロメオ1600ジュニア・ザガートとともにスタート


Day1。帯広の『いけだワイン城』をスタートしランチポイントの『THINK’A』→PC会場の『釧路圏摩周観光文化センター』→レストポイントの『インフィールドワイナリー』→ゴールの『屈斜路プリンス』まで、そのほとんどを下道で走る300km強の道程だ。堀江編集長がコマ図(スタート地点からの距離やルートをシンプルな図で表したもの)入りのルートブックを読み、私がトリップを(スタート時にゼロにする)確認しながらドライブ、ポイントを追っていきながらランチポイントの「THINK’A」を目指した。時間設定にも余裕があり、急ぐ必要は全くない。



アルファロメオ1600ジュニア・ザガートはドライブするのにクセがなく、私にとっては低速でハンドル操作をするときに少々重たくて「エイっ!」とするくらい。ただし、コマ図に示された距離がこのジュリアとピッタリ一致する訳ではなく、誤差を計算しながら指示を出す必要がある。堀江編集長が慣れていたからスタート地点から速やかに行っていけたけれど、ビギナー同士では混乱をしていたかもしれない。参加してみようという方はくれぐれもご注意ください。



ランチポイントの『THINK’A』では沢山のサラダにキーマカレー、それにトウモロコシやタマネギのグリルなど、地元の素材にこだわったランチボックスをいただき大満足。時系列的には前後してしまうけれど、このラリーではレストポイントが設けられていて、会場ではちょっとした地元の“美味しいモノ”もいただきつつ休憩をする。初日の午後のレストポイント『インフィールドワイナリー』ではジューシーなハンバーグをいただいた、午後3時。それでも夕食のコースもペロリといけたのは北海道の美味しい空気と充実したラリー初日を終えることができたからだろう。



ランチの後は最初のPCポイントとなる釧路圏摩周観光文化センターの駐車場に向かう。PCは別名“線踏み”と言われ、決められた区間を設定時間にいかに近い時間で通過できるかを競うもの。ココでは一筆書きのコース内に7つのポイントが設けられ、例えば50mを8秒で通過とか40mを7秒で通過などの指示に従って走る。ラリー常連の方たちにとっては本気を出す(百分の一の争い!!)時間だが、ビギナーにとってはゲームみたいな感覚で走る人=ドライバー/時間を読む人=コ・ドライバーが挑むのであった。より指定時間に近いほどポイントが沢山もらえるのだが、今回は私がドライバーを務め、最短で0.07秒、その逆では1秒以上オーバーし1ポイントももらえないという場面もあり・・・、難しい。しかしふだん経験できないことなので、楽しく挑戦することができた。



ところで今回は開放感たっぷりかつダイナミックな“北海道らしい”風景の中のドライブがなんといっても魅力のラリーだった。左右にカラフルな畑、白樺並木、森のなか・・・etcと変化する景色に加え、真っ直ぐに伸びる道、そこに関東ではなかなかお目にかかれないダイナミックなアップダウンがあったりとまったく退屈することはない。

午後はドライバー交代を行い、今度は私がコ・ドライバーとなると一層、景色を眺める余裕が生まれ、どちらのシートも楽しめた今回は私にとっては理想的だった。

北海道らしく信号のないルートをひた走る


Day2。参加者の方たちとどこでソフトクリームを食べようか、なんて話もすでにできるほど打ち解け、和気あいあいな一日を過ごせた二日目。屈斜路プリンスをスタートし北海道最東端の納沙布岬をAペックスとするように半島をグルリと巡り「道の駅スワン444ねむろ」でレストタイム、→「明郷 伊藤☆牧場」でランチ→『道の駅 厚岸グルメパーク』でレストタイム、そして『屈斜路プリンス』に戻る400キロ弱のコースだった。

朝のミーティングで「ほとんど信号のないルートで北海道のドライブをお楽しみください」と主催者がおっしゃった通り、数十キロ信号のないルートもしばしば、ギヤを5速に入れたまま延々と走ることもできた。初めて走る根室の半島ドライブはとにかく新鮮だった。オホーツク海を左に納沙布岬を目指し所々で小さな漁港や町を通り、目の前に表れる雄大な断崖、かと思えば内陸には牧場などの牧歌的な風景も広がる。納沙布岬からは太平洋を左に眺める「北太平洋シーサイドライン」を厚岸まで走り、レストポイントの道の駅で厚岸牡蠣や花咲ガニのどんこ汁をいただいた。風景と道、胃袋まで満喫できた根室のドライブ、イベントに参加したからこそ駐車スペースの心配もなく地元グルメも楽しめるのだと改めてラリーの楽しさを再発見できた。

Day3。最終日は「屈斜路プリンス』から本ラリーのゴールとなる『十勝モータースピードウエイ』を目指し、レストポイントの『道の駅 阿寒丹頂の里』を経由する230kmを半日走り、サーキットでPCを行う予定だった。しかしこの日は朝から走行エリアの雨量が5-7ミリの予報。とにかく無事にゴールにたどり着けるルートを選ぶが各自に委ねられたのだった。果たして一台が初日から抱えていたトラブルによってゴール目前でストップした以外は皆さん無事に完走。PCもキャンセルされてしまったが、個人的には2日間の走行があまりにも充実していたので、あまり残念だとは思わなかった。唯一の心残りは堀江編集長がPCにチャレンジできなかったことくらい(苦笑)。三日間、ときに景色に見とれたり、話に夢中になってミスコースをしそうになったこともあったけれど、無事に完走。本当に素晴らしい時間を過ごさせていただいた。

TTN参加者からの声


ランチア アウレリアB-20(1957年製)で参加された竹本さんは今回のラリーを振り返り「二日目の400キロルートを信号のない風光明媚豊かなドライブルートはトスカーナにも引けを取らない」と絶賛。



アルファロメオジュリア1300GTジュニア(1969年)で参加した高松ファミリー(札幌在住)はご主人の彰洋さんがお友達(今回もBMWのマルニで参加されていた原田さん)とTTNを観に行き、楽しそうだねということでまずはお友達と参加。そして「これは面白いから家族で出よう」ということになりTTNへ家族で参加するようになり、今年が三年目になるという。「海外にも行けないし、家族で旅行がてら車で自由に動けるのがいい。新潟のラリーの帰りには佐渡まで足を延ばしました」という高松さんは912を関東近県に預け、家族でラリーを楽しんでいる。ゆえに車選びは4人乗りがマストだという。「ナビは間違えること沢山あるけれど凄く楽しい」と奥さまの容加さん。「喧嘩にもなるときはあるけれど、PCだって、まっ、いっか、という感じです(笑)」。ただ一日、何となく助手席でドライブしているよりずっと楽しいし会話も増え、お子さんもお二人とともにラリーのルールを楽しんでいた。



また今回最も古いモデル508バリラ・コッパドードで参加された岡野正道/大介兄弟の正道氏(オーナー/ドライバー/弟さん)は会社経営も兄弟で、またこれまでマリンスポーツなどオフの時間も兄弟で楽しんできたそう。2009年からクラシックカーのラリーに参加。「ラリーは走っているときはそれぞれの楽しみがあり、そんななかにも仲間たちと同じルート/ゴールを目指して走る一体感がまた良いんですよ。でもね、最初の頃は僕たちマナーが悪くてご迷惑をおかけしていたんです。そんな僕らが今では自分たちでもラリーを主催するようになるほどハマっています。今回も主催者のルート設定やランチ/レストポイントでの過ごし方までよく考えてくださっているなぁと感心、感謝するばかりです」と正道さん。



ドライブをするように旅するようにラリーを楽しむ。私にとっては4度目のクラシックカーラリーだったけれど、今回、道東を巡りたっぷり走った三日間は北海道らしいゆったりとしたドライブを楽しむ“余裕”もたっぷり。また新たな魅力を発見してしまった。自分もお気に入りのモデルを一台で良いから所有して年に1~2度でもラリーに参加できるようなカーライフを過ごしたい、という想いがますます沸々と込み上げるのであった。


文:飯田裕子 写真:TTNオフィシャルカメラマン鎌田廉平

文:飯田裕子

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