女性だけのクラシックカーラリー『ラリー・デ・プランセス』|優雅に華やかに、そして力強く

Kazuhiro NANYO

フランスで20回以上もの開催実績をもつ女性だけのクラシックカーラリー「Rallye des Princesses」が3年ぶりに開催された。決して「お遊び」ではない競技ラリーではあるが、そこには参加者とオーガナイザーの楽しみがあふれ、最高のおしゃれ感覚が散りばめられていた。これこそが彼女たちへの、1週間におよぶ「自分へのご褒美」なのだ。



5月14日から19日にかけて、第21回目の「ラリー・デ・プランセス リシャール・ミル」が開催された。フランスはパリ、ヴァンドーム広場を起点に、5日間にわたってレギュラリティ競技を繰り広げるこのラリーは、エントラントが女性に限られることで有名だ。とはいえリエゾン区間まで含めれば1日あたり300㎞以上の行程をほぼ高速道路を一切使わずに移動し、5日間での総計はおよそ1500㎞にも及ぶ。単なるツーリング・イベントどころか、FIAの公認ルールに則ったレギュラリティ競技ラリーで、それでも女性ドライバーならびにコドライバーだけが参加を認められる本格的なヒストリック・イベントという、公道ラリーとして独特の位置づけをもつ。

同ラリーはパンデミックがために一昨年、昨年と中止の憂き目に遭っていた。それだけに再開催を待ちわびていたエントラントたちの期待と熱気は、14日のヴァンドーム広場つまり車検会場の雰囲気からして、例年と同じようで違っていた。着いたばかりの車を見つけるなり、久々の再会を喜んでウインドウ越しに話し込む女性たちもいれば、初参加の女性たちは周りを見渡しながらおずおずと荷を解いている。その一方で、サポート役に回った夫や息子たちやパートナーに囲まれ、車の調子を確かめるようにコクピットから指示を出すマダムも。おもに男性エントラントが多い通常のラリー・イベントの忙しない緊張感とは一風違って、女性たちがラリーに臨むことは、まさしく家族や友人といった周囲を巻き込んだ、ファミリー・アフェアなのだ。



そんな独特の賑わいは通行人にも自然と伝わるらしい。自慢のヒストリックカーに合わせたウェアに身を包んだ女性たちに、道行く人々もついスマートフォンを向ける。居並ぶヒストリックカーも、今年の冠スポンサーはBMWだったが、1958年式の507ロードスターを筆頭に、1964年式の502、1972年式の3.0CSi、1984年式M635CSi、1991年式325に2001年式Z8、加えてアルピナまで、各年代のBMWがすべて女性オーナー&エントラントたちで占められたのは圧巻だった。他にもC2、C3コルベットや多数のポルシェ911にアルファロメオのジュリア・スパイダー、MG Aやビッグ・ヒーレーやTR3といったミドルウェイトスポーツ、あるいはスプライトMk-IやMGBといったライトウェイトスポーツ、ランチア・ベータ・モンテカルロやイノチェンティ・ミニ・クーパーなど、車両のバラエティや質も通常のヒストリック・イベントと遜色ない。無論、こうした参加車両には彼女らの所有であるパターンが大多数ながら、家族の持ちものやレンタカーも含まれており、女性に大事なヒストリックカーを委ねられるメンタリティやサービスが存在すること自体が、そもそも進歩的といえる。



また女性だけのラリーは、走りを楽しむのは当然だが、誰とどんな装いで旅して、道中で何を食して楽しむか、その辺りも肝心のようだ。スタート前日、ヴァンドーム広場での前夜祭パーティは、パリのプレステージなケータリング・サービスとして知られるポテル&シャボの仕出し、そして競技前ゆえにカジュアルだが茶目っ気も洒落っ気もたっぷりに装ったエントラントたちのファッションも見ものだ。



一方で今年はもうひとつの焦点として、象徴的な挨拶とセレモニーが行われた。今開催より、ラリー・デ・プランセスの運営はファウンダーであるザニロリ夫妻からピーター・オートへ受け継がれ、パトリック・ピーター代表やリシャ―ル・ミルを交え、新旧のオーガナイズ関係者全員が壇上に上がり、エントラントたちの前で感謝と新たな決意を語った。ラリー・デ・プランセスのコンセプトそのものを考案したヴィヴィアヌ・ザニロリは後見人として、三菱パジェロのパリ・ダカール初制覇に導いた元ワークスドライバーのパトリック・ザニロリ氏は競技委員長として、このイベントに関わり続ける。ル・マン・クラシックやシャンティイのコンクール・デレガンスの開催者として強力な実績をもつピーター・オートが、21回目の節目を迎えたラリー・デ・プランセスをどう新しく変えていくか、そこがエントラントたちにも大きな興味の的だったのだ。





文・写真:南陽一浩 Words and Photography:Kazuhiro NANYO

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