トルクは?サウンドは? 3台のR107を乗り比べ! 名車メルセデス・ベンツSL 50年間の軌跡【後編】

Marco Nagel

この記事は「当時の開発陣に聞く、名車メルセデス・ベンツSL 50年間の軌跡【前編】」の続きです。



そろそろ走り出してみよう。まずは300SLに乗り込んだ。いくつかのコーナーを駆け抜けると直ちに自分の500SLより前が軽いことを実感する。ステアリングからのインフォメーションが豊かで、ノーズの向きが鋭く変わり、応答性もすこぶるよい。しかもこの300SLは非常に貴重なマニュアル仕様で、1500rpmから4000rpmまで気持ちよく回ってとてもファンだ。最高出力の188bhpは5700rpmで発揮され、レッドゾーンは6200rpmからだ。一方で最大トルクの192lb-ftを4400rpmで発するから、そのあたりの回転域でこのエンジンのほとんどすべてを楽しむことができるというわけだ。V8エンジンと同様にこのストレート6もまた、高回転域まで回して楽しむというよりも充実したトルクを嗜む方が向いている。サウンドも3000~3500rpmあたりが最高だ。





V8に乗り換えよう。3.8リッターではパワー不足で、4.5リッターはパワーはあっても重い鋳鉄ブロックによる前輪への負担が大きく決してファンとはいえない。個人的にベストだと思うのはやはり500SLだ。初期型、フェイスリフト前の500SLでは、205/70の14インチというタイヤと緩いフロントサスペンションのせいで走りがスポイルされていたが、85年にいずれも改善されている。よってそれ以降のモデルであれば、より堅実なロードホールディング性で乗り手を魅了する。はるかに一体感があってモダンで、なおかつ80年代の車に期待するしなやかさや応答性の良さも共存しているのだ。改良型のサスペンションとより高いサイドウォール剛性を持つ205/65の15インチサイズ・タイヤによって、安定した走りを楽しむことができた。









より強力なユニットを積むグレードも後から登場するが、14bhpのパワーアップにとどまっている。おそらくその違いにはさほど驚かされないはずだ。むしろトルクバンドの方が大事で、3000rpmで最大トルクの295lb-ftを発揮する。それ以前のグレードでは3750rpmで299lb-ftだった。いずれにしても十分な数値ではあった。

パワーとトルクの話はもちろんすべてではない。R107はモデルライフが長かったのみならず、最後の車が製造されてから30年が経過するが、その多くは今なお道路上に留まっており、中にはずっとオーナーのガレージに収まっている例も多い。

もはや走行距離など関係ないだろう。最も重要なことはいかにメンテナンスされてきたか、だ。R107は決して安直なモデルではない。複雑な構造の、なかでも面倒な場所が錆びることもあるし、空調システムにはいくつかの弱点もある。V8では、発するトルクのほとんどがゴム製エンジンマウントにかかる傾向があるし、乗らずに放っておくとオートマチックトランスミッションからオイル漏れが発生する可能性も高い。専門家によるメンテナンスを節約してしまうと、結局はより大金を失うことになりかねない。

けれどもメンテナンスが行き届いたR107であれば、その時代の他のスポーツカーではあり得ないレベルで、計り知れないドライビングファンと快適さ、そして信頼性をオーナーに常に与えてくれる。R107よりも上品で洗練されたクルーザー、もしくは10代の若者にして夢を見るに値するような車、を、私は他に思いつかない。

私自身の経験が物語っているように。


編集翻訳:西川淳 Transcreation:Jun NISHIKAWA
Words:Massimo Delbò  Photography:Marco Nagel/Mercedes-Benz

編集翻訳:西川淳 Transcreation:Jun NISHIKAWA

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