今だからこそ、空冷ポルシェにこだわる|ベールに包まれた「R-GO」を緊急取材

Kazumi OGATA

ポルシェ911のレストア工房「R-GO」ファクトリーを緊急取材。整然とした作業現場から目指している方向が見えてきた。


なぜ原宿に


2022年5月、東京・原宿にあるアートスペース「StandBy」に1974年ポルシェ911Sが忽然と展示された。コンクリート打ちっぱなしの無機質な空間に置かれたライムグリーンのボディ。そのディスプレイ方法は、まるで車が宙に浮いているようにも映っていた。「Old Porsche is new Porsche」と大きく書かれたビルボードにあったのは「R-GO」というブランド名。そしてその名前の由来となる二つの船の逸話が英文で書かれていた。説明はそれのみ。いわゆるプライスボードの類はまったく見当たらず、この展示が販売を目的にしていないことは一目瞭然であった。とはいえ普段見掛けないユニークな原宿での景観に、老若男女に関係なく道往くひとが写真に収めていく。この時代のポルシェのもつ底知れない圧倒的な存在感、そしてそのパワーを垣間見た瞬間でもあった。

「R-GO」を空冷ポルシェのレストア工房と表現して良いものなのか。それを知りたくてファクトリーを訪ねたが、公式のアナウンスはまだこれからとのことだ。ちなみにこの場所は一般の顧客を迎えることは原則行っていない。

レストアにもスケールメリットを


ファクトリー内を自由に見ることは許された。かなり大勢のベテランと思えるスタッフが、無駄なく仕事をしていることはわかった。一般的に工員の熟練度を増すためには、同じ作業を一定時間以内に何度も繰り返して行っていくことが肝要と言われている。しかもそのためには十分なパーツストックや作業スペース、そして何より連携作業を行うチーム全体のコミュニケーションが重要になってくる。

993RSがほぼ最終チェックの段階に入っていた。エンジンルームの整然さと同じくらいにアイドリングも安定している。

めずらしいフラットノーズも在庫車両として保管されていた。これだけ多くの911がストックされていても、それぞれの車両状態はしっかりと管理されている。

ここではその一連のスムーズな流れが出来ていることは一目瞭然であった。60台ほどはあるのだろうか。見渡す限りにストック車両が屋内に保管されているが、一体どのくらいのペースで修復復元を行っているかはわからなかった。

シートだけで何セットが保管されているのだろうか。中にはRSやクラブスポーツ用など、とても希少なパーツも並べられていた。

丁寧な仕事は、憧れの職場作りから


気付いたことは、とにかく作業場と車がきれいだということだ。見る限り「R-GO」はオリジナル状態を大切にしながら、まず徹底的にパーツやボディ、機関系などを清掃することを大切にしているようだ。レストアの基本は見掛けをきれいにすることではなく、機械として正しく作動する状態を永く保つことである。塗装も一律に吹いているわけではなさそうで、タイヤハウス裏などは適度に下地がわかる程度に抑えている。新車当時を知っている方なら、この状態がオリジナルに近いことは理解できるだろう。

塗装前の下地を処理しているところ。人気のタルボットイエローに変更されていたが、今回はオリジナルのブラックに戻すという。

見えないところも徹底的にきれいにするのがR-GO。この車はまだ仕上げの途中であるが、エンジン下部やマフラー周りは、指で触れても人肌ほどしっとりとした感覚となる。

撮影の許可が降りなかったのはメカニックやスタッフの仕事風景である。どうやらレストアのクオリティを上げていくために、「働き方のデザイン」そのものを新しく創造すること考えているらしい。

原宿での展示活動から想像するに、ターゲットとしている市場が日本にとどまらないことは明白である。新車状態に近い空冷ポルシェを求めている世界中のカスタマーに、安定して空冷ポルシェの供給を続けていくために、まだ何か必要なことがあるのかもしれない。少し具体的な内容がわかれば、あらためて取材を行い、レポートをしたい。


文:オクタン日本版 写真:尾形和美 Words:Octane Japan Photography:Kazumi OGATA

オクタン日本版編集部

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