極上のS12シルビアが海外オークションに|ネオクラシックの波に乗ろう!

The Market

シルビアと言われると、漫画などの影響からS13、S14、S15のシルビアを頭に思い浮かべてしまう。しかしシルビアの歴史は遡ること約60年、1964年にCSP 311型のデビューから始まり、S15までに7世代のシルビアが存在する。

1983年に発表された4代目のS12シルビアは、世界各国で販売され、各市場ごとに多数の異なるエンジン/ドライブトレイン構成と、クーペ(ノッチバック)とハッチバックのボディを選択することができた。後者は同じくネオクラシックなスポーツカーとしても名高い、トヨタAE86ハッチバックに少なからず類似している。



欧州ではハッチバックモデルのみが販売され、当時のスウェーデン女王と同名にならないように「180ZX」のバッジが付けられた。

1.8リッター135bhpエンジンを搭載した軽量シャシーのS12シルビアは、決して本格的なパフォーマンスカーではなかったが、バランスの良い重量配分と軽量構造によって、快適性を犠牲にすることなく、印象的なハンドリングを実現した。



近年、ネオクラシックがブームになっており、街中で新車と見紛うほど綺麗な80~90年代の車を見かけることも少なくない。特に若者世代で、ネオクラシックは流行のひとつになっている。筆者は2000年生まれで、今年で22歳になるいわゆるZ世代なのだが、周りの車仲間を見ると、マツダロードスターのna型やnb型、ポルシェボクスター(986型)など、自分達よりも長く生きている車を所有する者も多く、ネオクラシックのブームをひしひしと肌で感じる。

もちろんこのブームには、ネオクラシックカーは中古車市場でも比較的手の届きやすい価格で、維持費もクラシックカーほどかからないといった、経済的な理由もあるだろう。

しかし個人的にはもうひとつ大きな理由があると考える。それは親の世代の追体験だ。今の20代や30代前半の若者の親の世代は、バブルを経験しており、今の若者はその煌びやかで浮かれた時代の話をよく聞かされて育ってきた。毎晩のようにディスコに行き、週末は親に買ってもらった車で別荘に。といった学生生活の話は、バブルならではのものではないだろうか。しかし今の時代、そんな派手な世界は存在せず、現代の若者はただ想像し、憧れることしかできない。その憧れの世界を少しでも肌で感じてみたい、そんな意識が若者をバブルの象徴のひとつである「車」、それもネオクラシックカーに引きつけているのではないだろうか。



バブル世代のシルビアというと、デートカーとして一世を風靡したS13シルビアを思い浮かべがちだが、S12シルビアも1983年から1988年まで生産されており、立派なバブルのネオクラシックカーと言えるだろう。しかしS12シルビアはなかなか見かけることは少なく、中古車市場においてもS13~S15と比べて、圧倒的にタマ数が少ない。

そんな日本でもすでにレアな存在になってしまったS12シルビアが、イギリスのボナムス社主催のオークション「THE MARKET」にて出品された。



このS12は、2019年に購入され、現在のオーナーの元で大規模なレストアが行われた。

元々イギリスの日産ディーラーのデモカーだったこの車は、その後個人オーナーに売却され、4年間保管された後、2番目の個人オーナーに引き継がれ、現在のオーナーがレストア作業に着手するべく2019年に購入するまで、長期に渡って所有されていた。

エンジン、シャシー、ブレーキ、サスペンションシステムの大規模なオーバーホールが施され、その結果、イギリスで最高のS12のひとつとなったことは間違いない。エンジンのオーバーホールと同時に、ベルト類とウォーターポンプも交換され、次のオーナーは安心してこのジャパニーズハッチバックを楽しむことができるだろう。



ステンレススチール製エグゾーストを除けば、ほとんどがオリジナルコンディションで、まさにコレクターズクオリティの一台だ。

レストア作業完了後、この車はオーナーのコレクションの一部として、カーカバー付きでガレージに保管されている。

エクステリアも最高の状態だ。4カ月間にわたるボディショップでの再塗装により、80年代風のツートンカラーの塗装が施されている。小石の欠けや使用痕はあるものの、よほど目を凝らさなければキズは見つからない。



同様にボディも、凹みや、衝撃や事故によるダメージは見られず、強いて言えば、フロントバンパー下部のプラスチック製リップに経年劣化が見られるくらいだが、気にするほどのことではないだろう。フロントガラスは最近交換されたため、まるで新品のような状態で、その他のライトレンズやウィンドウにもひび割れやダメージはない。バッジやトリムもすべて新品で、リアスポイラーも新品を装着している。

4本のホイールはレストアの際に交換されたが、ガリ傷などもなく、きれいな状態を保っている。



インテリアは、新品に交換されておらず、印象的なブルーの色調は当時のままだ。そのため、まるでタイムワープしたかのような錯覚に陥る。



カーペットはおそらくこの車の最も摩耗した部分で、トランスミッショントンネル周辺、フットウェル、トランク内に多数のシミがあるが、そのまま使用可能だ。

上部のヘッドライナーにはダメージやたるみはなく、他の箇所では各種スイッチ類、ドアカード/プル、ステアリングホイールなどの使用頻度の高い部分に、年式相応の軽い使用感が見られる。



また、すべての電子システムが正常に作動しており、オーナーからは故障の申告もない。

ボンネットの下では、1.8リッターターボエンジンが抜群のコンディションを誇っており、思わずディーラーから初めて持ち出されたのかと見まごうほど綺麗だ。オイルや液体が漏れている様子もないし、ミストも出ていない。走行中も、機械系・電気系に異常はなく、健全な状態であるそうだ。



下回りのシャシーは、レストアの過程で剥がされ、ペイントされ、保護されており、それ以来、乾燥した天候の時にしか使用されていないため、素晴らしい状態を保っている。

この車には、前述のレストア作業の詳細な写真記録、多数の古いマニュアル、ハンドブック、販促資料、オリジナルの購入請求書、4人の元保有者の記録、古い日産OEの請求書の一部、業者が作成したレストア作業の概要、2セットのキー、請求書と部品の領収書が付属してくる。

このような日本のモータースポーツの歴史の貴重な一片ともいえるS12シルビアの落札価格は、約160万円から250万円に達すると推定される。

ただでさえ現存するS12はすでに少なくなってきている中で、ましてこのような素晴らしいコンディションのS12を見つけることは非常に困難だろう。

ネオクラシックカーの中でもレアな極上コンディションのS12シルビアを、イギリスから逆輸入して日本で乗る。こんな魅力的で、ある意味“変態”的なカーライフを送る若者がもし日本にいたら… ネオクラシックの次の流行を作り出すのは彼(彼女)になるかもしれない。


文:吉田龍介(本誌) Words: Ryosuke YOSHIDA (Octane Japan)


オクタン日本版編集部

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