イギリス通なら知っておきたい!古き良き「オールド・イングリッシュホワイト」というカラー

Ryota SATO

自動車は、その色によってさまざまな表情を見せてくれる。イギリス車といえば深いグリーンのイメージが強いのではないだろうか。だが、ここで紹介する「オールド・イングリッシュホワイト」も古き良きイギリスを感じさせてくれる伝統的なカラーである。



ナショナルカラーの時代


かつてモータースポーツの世界において、イギリスのナショナルカラーは「ブリティッシュ・レーシンググリーン」だった。フレンチブルーにイタリアンレッド、そしてドイツはシルバー。そのカラーによって、今では何となくその国の特徴が表現されているように思えるが、当時はれっきとした国際規定としての仕様が定められていた。まるで国別対抗のワールドカップのユニフォームのようだったのだろう。そもそもナショナルカラーが考えられたのは1898年のこと。実際に運用されたのは、1900年から始まった国別対抗レースゴードン・ベネットカップであり、国ごとの自動車製造技術を比較する機会として始まった。その後、このナショナルカラーは60年代まで続く伝統となった。

この伝統的なナショナルカラーに反旗を翻し、最初にスポンサーカラーを持ち込んで、モータースポーツを商業化したのはロータスだったが、今もアストンマーティンやベントレーは、ブリティッシュ・レーシンググリーンを纏って戦うことも多い。それは、やはり歴史やヘリテージへのノスタルジーなのか。英国旗であるユニオンジャックは、赤白青のトリコロールカラーなのに、なぜか今もイギリスを表現するのに一般的にグリーンを使うことが多いように思う。確かにイギリスの曇天に最も似合う色はグリーンなのかもしれない(ただし、スコットランドの国旗色はネイビーであり、モータースポーツ界でもスコットランドのチームはネイビーブルーを使用している)。

この一般的に知られるナショナルカラーとは別に、イギリスには特徴的な色がある。それは「オールド・イングリッシュホワイト」と言われるクリームに近いオフホワイトのカラーだ。特に5〜60年代の英国車全盛期の人気色なので、ミニやジャガーなどで見たことがある人は多いだろう。このノスタルジックなネーミングは、華やかなりし時代を今も彷彿させる。この年代の車のカラーリングは、当時「スゥインギング・ロンドン」と呼ばれたこの時代をよく表している。特に60年代中盤から始まったメンズファッションの革命、ピーコックレボリューション(孔雀革命)により、ダークトーンが主流だったファッションに華やかな色彩が取り入れられた。

このグラマラスでサイケデリックな時代は、映画「オースティン・パワーズ」などで今も垣間見ることができるだろう。ジェームズ・ボンドが愛用する、老舗ドレスシャツのメーカー、ターンブル&アッサーも、これまでのダークでシックな典型的なメンズファッションから、ピンクやパープルのカラフルなフリルがついたシャツなどを発売し、ジェントルマンの戦闘服でもあるスーツですら、ウィリアム・モリスやリバティなどの花柄のアールヌーボーパターンが取り入れられたりした時代である。

自動車業界にもその革命は波及し、淡いスカイブルーやきれいなレモンイエロー、艶やかなペールピンクなど、街中をカラフルに彩る車たちも、この時代の特別感を作るのに貢献した。中でも、クリーンなホワイトではなく、ミディアムトーンでアイボリーに近いこの「オールド・イングリッシュホワイト」は、かつての強大な大英帝国がアフリカから輸入していた象牙(アイボリー)を彷彿させるためか、古き良き時代を思い起こさせるノスタルジックなイメージもあり、時代を体現する人気色になった(ちなみに現代においては、植民地時代を想起させるという理由で「アイボリー」というカラーの名称が徐々に使えなくなりつつある。非常に残念であるが、象牙を乱獲したという悪いイメージがあるのも、一方では事実である)。

古き良き時代へのノスタルジー


1952年Rタイプコンチネンタル。世界でもっとも速い4シーターカーであるとともに、もっとも高価で、かつもっとも美しい車であった。H.J.マリナーにアルミ板を叩かせて空気抵抗の少ない究極のボディを作成。ベントレー100周年時にあちらこちらで見掛けたこの車の色こそオールド・イングリッシュホワイトである。

さて、ここに2台のベントレーがある。現代のコンチネンタルGTと往年のスーパースター、Rタイプコンチネンタルファストバックだ。共通な部分はオールド・イングリッシュホワイトというカラーだけ。どちらも、時代の最先端テクノロジーが詰め込まれた、ベントレーというブランドを体現する2台だ。アピアランスも生産された時代の背景も全く異なるこの2台がまとう、この特徴的なカラー。代表的なブリティッシュ・レーシンググリーンでも、イアン・フレミング原作中でジェームズ・ボンドが愛用するグレーでも、ブルックランズなどで活躍した初期のレーシングカーの精悍なブラックでもなく、実に優しい表情を見せてくれる。最先端テクノロジーの結晶であるベントレーに、古き良き時代のノスタルジーを感じることができるのは、このカラーが影響しているせいかもしれない。

油断をすると「アイボリー」と呼んでしまいそうな暖かいボディカラーだが、正しく「オールド・イングリッシュホワイト」とすれば、その重みがグッと変わってくる。

現代の車選びにおいて、購入の判断基準が性能などのスペックではなくなったと言われて久しい。その車が背景にどんなストーリーを持っていて、そこに憧れが持てるかどうか、自分のライフスタイルにマッチするかなどが購入を決断する理由になってきているのだろう。そのときに「カラー」という選択肢があっても良いのではないかと思う。眺めるだけで優しい気分になれたり、ちょっと懐かしく思えたりすることは、とても豊かなことである。ちょっと「いかつい」風貌のベントレーにこそ、この「オールド・イングリッシュホワイト」を選ぶことは、とても良い選択かもしれない。

日本人にとってもゆかりの深い色


最後にナショナルカラーの話に戻らせていただこう。このオールド・イングリッシュホワイトがナショナルカラーと規定されている国がある。もちろんイギリスではない。それは1964 年からF1に参戦した日本のために用意されたカラーだった。ホンダF1が日の丸をつけて疾走した60年代。我々日本人にとっても、この特別なカラーは、非常にノスタルジックなカラーであることに間違いなさそうだ。


文:田窪寿保 写真:佐藤亮太
Words:Toshiyasu TAKUBO Photography:Ryota SATO

文:田窪寿保 写真:佐藤亮太

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