「どうしてもその車が欲しかったのです」エンスージアストを虜にした一台とは?

Porsche newsroom

日の出から1時間も経つと、砂漠の熱はペルシャ湾から何千リットルもの海水を吸い上げ、大気中に細かい霞として拡散する。するとドバイの街並みが霧のドームから姿を現し、朝の光は乳白色と金色の輝きを放つ。ドバイ沖に浮かぶ人工島パーム・ジュメイラには、青く輝くプールと砂色のヴィラが立ち並んでいる。そのうちの1棟を目指し車を走らせた。アラブ首長国連邦のポルシェアンバサダー カリム・アル・アジャリという人物に会うためだ。ポルシェクラブUAEの会長を務めている彼は、世界的に有名なポルシェコレクターでもあり、レーシングドライバーでもある。

「私はおそらく、ポルシェだけを愛しているというような古典的なポルシェファンではないでしょう」と、やわらかいカーペットが敷いてあるリビングルームに置かれた、ゆったりとしたソファに座りながらでアジマリは話し始めた。ポルシェクラブUAEの創設者でもある彼は、少し間を置いた。「私は完璧なテクノロジーを賞賛しています。その美しさと意味、明確な機能、そして精度と知性に優れた素晴らしい感覚。ポルシェはそれらすべての要素を完璧に兼ね備えているのです。ポルシェほど優れた車に出会ったことがありません。それほどまでにシンプルなのです」



話しながら部屋を進んでみると、ヤシの木、砂浜、海の波が床から天井まで広がるパノラマビューが見えてくる。そして最後の扉を開けると、そこにはドイツ製の特別なエッチングガラスがある。「他のオフィスもありますが、ほとんどここで仕事をしています。自由が好きなんです」

横の棟には、ホームオフィスを併設している。床はいぶし銀のような輝きを放つ磁器タイル、壁はダークカラー、窓はアラビアン調の丸いアーチ。ここは、48歳の彼が建設業や不動産開発の会社を経営している場所だけではない。レーシングドライバーの仕事場である。床から天井まである棚には、何百ものトロフィーが所狭しと並べられている。「カートから始めて、2006年からはいろいろなクラスでレースをしています。ツーリングカー、ポルシェ・カップ、耐久レース、そしてニュルブルクリンクのノルドシュライフェもよく知っています」。彼は部屋を横切り、デスクの後ろに腰を下ろした。「毎日、この景色を楽しんでいます。中庭の反対側には私のポルシェコレクションがあります。夕方になると、あそこに明かりを点けて...ショータイムの始まりです」



しかし、車を見るにはまだ時間が必要だ。まず彼が説明したいのは、アメリカで学生時代に初めてポルシェ944を購入したこと。16歳の時だった。「当時、私の生まれ故郷であるアブダビでは944が何か特別な存在で、どうしてもその車が欲しかったのです」それ以来、彼はポルシェマジックにかかり次々とポルシェを乗り継いでいった。「昔も今も、ポルシェには驚かされるばかりです。ひとつひとつに個性がある。それぞれが異なっていて、ひとつひとつを知りたいと思ったのです」

そしてポルシェクラブUAEを1998年に設立した。アラブ首長国連邦においては最も古い自動車クラブのひとつになる。「ポルシェを所有するだけでなく、ポルシェを体験し、理解することが重要です。私たちは、ドライブ、数日間のラリー、ドライバートレーニングなどを企画し、活発で非常に親密なコミュニティになっています」

思い出話を続けながら、彼は宝物たちが眠るドアのほうに向かっていった。彼がガレージへの扉を開けると、そこにはポルシェ911 (991) GT2 RSとカレラGT、911 (930) ターボフラッハバウと911 (964) ターボが並んでいる。さらに違うガレージにはダークブルーの911カレラRSアメリカ、赤いレザーインテリアの白い993ターボ。彼は楽しそうにそれぞれの車が持っているストーリーを教えてくれた。話を聞きながらさらに見渡すと、アジャリが今でも毎日乗っているナンバー1の944ターボを発見した。愛情を注がれてきた一台である。

944に乗りたいところだが、この日はカレラGTと911 GT2 RSでドバイ市街をドライブすることにした。中庭を抜け、隣家の間をすり抜け、パーム・ジュメイラ周辺の外周防波堤に向かうトンネルで数秒間、アクセルを踏み込む。10気筒の排気音に包まれた炎が、音を立ててクレッシェンドしていく。「いつも考えているんです。ドライブについて。ライン、馬力、トルクについて......」



ドイツのポルシェ社で公式インストラクターコースを修了した現在、彼は首長国連邦のポルシェファンにレーストラックでドライビングを指導している。ドライビングトレーニングは、クラブカレンダーの重要な部分を占めている。「多くの人と車に同乗し、ヒントを与えてきました。私を通して初めて、本当のドライビングとは何かを知ったという人もいますよ」。新しいことが可能になったときの喜びは、まさに彼の真骨頂だ。

また、彼には3人の息子がいるため次世代のエンスージアスト育成もおこなっている。今は、ペルシャ湾に沈んでいく太陽に照らされるプールで遊んでいるが、明日彼らはカートに乗り訓練に励んでいることだろう。いつかは父、息子4台でポルシェツーリングに行くこともひとつの夢。この美しい情景のもとでポルシェを走らせれば、自然と家族の絆も深まるだろう。

オクタン日本版編集部

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