元は捕虜の収容所だった|イギリスの「エデン・キャンプ・モダン・ヒストリー・ミュージアム」

Barry Wiseman

ノースヨークシャー州ほど、イギリスらしい場所はないだろう。そこは世界的にも有名な、緑豊かな実りある場所だ。ただ、少し独特な部分もある。この国で家族連れが好む場所としての地位を得ているものの、元々は、好むと好まざるとにかかわらず連れて来られた外国人の収容所だったのだ。

1942年には、マルトン近郊の広大な土地に仮設キャンプが建設された。それは、戦争捕虜となったイタリア人の、最初の250名のためのものだった。彼らはこの場所に順応し、農業労働にも従順で、イギリスの食糧資源の増加に役立った。彼らは主に友好的な若者達で、歓迎はされていないとはいえ、受け入れられてはいた。戦火で荒れ果てた北アフリカの砂漠から戻った彼らにとって、ヨークシャー州は天国のような場所だったのかもしれない。その後、ドイツ人の戦争捕虜達も到着し、セキュリティは強化されたが、彼らも礼儀に適った生活をし、作業への報酬もが支払われていた。戦後3年間で解放されなかったドイツ人も数名いたが、一部ではイギリスに留まることを希望する者もいた。

敵対関係が終焉した後、このキャンプは空き地となり倉庫として使用された。その後、歴史的重要性が認知され、多くの市民の協力によって戦争期間に関連した工芸品等の収集が開始された。エデン・キャンプ・モダン・ヒストリー・ミュージアムと命名されたこの施設は、第一次世界大戦からアフガン紛争までの期間の展示物を擁した40軒の「ギャラリー」、というか「小屋」で構成されている。

入場エリアには展示物の説明があり、ひとたび中へ足を踏み入れれば目を見張るほどの軍用機械の展示がある。この一連の「小屋」には、順番に入っていくのがベストだ。例えば最初は、ナチ党が権力を伸ばす時代、次の小屋ではUボートでの生活ぶりが紹介される。動く床や、海底とそっくりの音響によって潜水艦の中にいるような体験ができるのだ。

ブリッツ(陸空軍による電撃戦)にフォーカスした小屋は特に注目だ。リアルな音に加え、火や煙の演出もある。ある初老の人物がこの建物から出てきた時は、衣服をその煙に包まれながら大きな笑みを浮かべていた。彼は「見事だ!本物と同じだ!」と叫んでいたほど、見応えのある展示である。その他の小屋では、戦後の民間防衛や爆弾処理の様子を見ることができる。第二次世界大戦でのイタリアの人間魚雷も一見の価値がある。



外には、レストアされたM50スーパーシャーマンとロシアのT34の戦車が展示されている。白色のM16対空自走砲や、水陸両用車のDUKW、高射砲、ドイツの榴弾砲、ロング・トムの愛称の大口径火器(M59 155mmカノン砲)等が展示されている。更に、何台ものバイク、V1飛行爆弾、スーパーマリン・スピットファイア・マーク4のレプリカ、ホーカー ・ハリケーン等のレシプロ機に加え、沢山の興味深い乗り物の展示がある。屋内に戻ると、独特の雰囲気の礼拝堂と安置所、1940年代のガレージ、音楽堂に加え、素晴らしい食堂があり、伝統的な食事が提供される(もちろん配給カードは必要ない)。また、併設される土産物店でさまざまなグッズを購入することもできる。

訪問する際は、最低でも半日程度の余裕を見て頂きたい。可能なら、戦時中の実体験のある友人や親戚と共に楽しむことをお勧めする。そういった時代をご存知の方々なら、当時さながらのプレハブ工法のバンガローや庭も興味深いだろう。子どもたちが楽しめる場所もたくさんある。

それでも足りない方々には、8マイル程行った場所にあるソーントン・デールもおすすめだ。ここには、TV番組『バンガーズ&キャッシュ』で有名になった、マシューソン・ガレージ&ミュージアムがある。ここも一緒に訪れれば、クラシックカークラブ的な小旅行といった感じになるだろう。

エデン・キャンプ・モダン・ヒストリー・ミュージアム
住所:Malton, North Yorkshire, YO17 6RT
開館時間:午前10〜午後5時、無休
※12月23日〜1月第二週は休館
入場料:大人12ユーロ、子ども(5〜16才)10ユーロ、家族割引あり
公式サイト:www.edencamp.co.uk


Words and pictures: Barry Wiseman まとめ:オクタン日本版編集部

オクタン日本版編集部

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