アストンマーティンDB11を駆って、神戸北野ホテルの『世界一の朝食』を

絵になる街の絵、神戸。まるでヨーロッパの街角かと思わんばかりのアストンマーティンと神戸北野ホテルのマッチングだ。当日も行き交う数人がスマートフォンを向けていた。(Photography: Ken TAKAYANAGI)

オクタン日本版では、真のヨーロピアン・ラグジュアリーを提唱する自治運営の協会組織である「ルレ・エ・シャトー」に加盟している日本のホテルを、本当の一流を知るブランド、アストンマーティンで巡る企画を進めている。アストンマーティンが、そして「ルレ・エ・シャトー」加盟のホテルによる世界観がどう共鳴するのかを、車での旅を通じて確かめようという狙いだ。

1950年代のフランスに端を発した「ルレ・エ・シャトー」は1974年に設立。世界62カ国、約580のホテルとレストランが加盟している。加盟資格は、そのホテルとレストランの格式のみならず、「世界各国・地域のホスピタリティーや食文化の多様性と豊かさを大切に守り、より多くのお客様へ提唱していく」という理念を共有できることだ。

エントランスにはよく手入れされたヨーロピアンスタイルのガーデン。実はここに植樹されているオリーブは日本最古の一本の鉢分けだそう。

DB11で向かった先は、日本のルレ・エ・シャトー随一のオーベルジュ


背後に六甲の山を、眼下には神戸港を見る。神戸北野ホテルは異人館が立ち並ぶ北野町でも、ひと際クラシックなレンガ作りの洋館だ。決して豪奢ではなく、建物もどちらかといえばこぢんまりとしている。しかしその堂々とした佇まいは、ルレ・エ・シャトー・グランシェフの称号を得る山口浩代表が率い、日本のルレ・エ・シャトー11軒(ホテル・旅館)の中でもオーベルジュ(宿泊し越つきのレストラン)のコンセプトを色濃く有する唯一の存在としての誇りに満ちているようだ。この神戸北野ホテルに今回はアストンマーティンを代表するモデル、DB11で伺った。

まるで自邸へ帰ってきたかのような落ち着きある佇まい。駐車スペースはスロープを降った地下となる。最低地上高はDB11なら気にするほどではないのでご安心を。

レセプションはシンプルなヨーロピアンスタイル。最低限の良質な調度品による演出が、美食への期待を高めてくれる。

レセプションを過ぎると建屋の中央に広がるオープンエアのパテオ(中庭)。天候と季節が良ければ、こちらで食事をいただくのが最高の贅沢。

こちらもヨーロッパのクラシックホテルにしばしば見られる螺旋階段。建屋は一見するとまるでクラシックホテルの移築のように見えるが、実は最初の開業の1992年に新築されたものだそう。

神戸はその地理的条件から司馬遼太郎の『菜の花の沖』に描かれるように、海運の街として栄えてきた。現在もその役割は変わらず続くが、同時に関西と中国・九州地域へのハブとしての役割も大きい。また明治期に始まる外国人向け居留地開発の名残を残す異国情緒によって、大阪から40km弱の距離しか離れていないにも関わらず、まったく独自の文化を形成している。関東圏で例えるなら、東京と横浜の関係にも似ているようだ。そんなことから大阪と神戸は阪神地区という一大商圏を形成しながら、平日のビジネスから休日のレジャーなど人的往来も盛んだ。

アストンマーティン大阪ショールームから神戸北野ホテルまでは道路状況が良ければ30〜40分程度。今回は阪神高速湾岸線を利用して、45分程度のショートドライブとなる。それにしてもDB11(とくにGTモード)のしなやかな足は、都市の高速道路をクルーズの速度で流すのに最高だ。加えてその外見からは意外なほどに取り回しのいい車体は、五番の目に整備された坂の街である神戸をゆったり走るのにもストレスがない。

阪神高速湾岸線を逸れて、新神戸空港への橋を渡る。目の前に六甲山と神戸港が広がる様は、ここが神戸であることを印象づける瞬間。

フレンチの巨匠が認めた『世界一の朝食』とは


インターネットで”神戸北野ホテル”と検索すると関連キーワードのトップは「世界一の朝食」だ。神戸北野ホテルに訪れた最大の理由はこの『世界一の朝食』をいただくことにある。実は3月21日までの期間限定で”ランチ”でもサーブされるという。ならば大阪からのショートドライブの目的地として、あらためて関西圏の方々にご提案するのもいいのではないか、という次第だ。

それにしても『世界一の朝食』とは何か。同ホテルのホームページの文言を引用させていただく。

「神戸北野ホテル『イグレック』でお楽しみいただける朝食は、総支配人・総料理長 山口浩が、その師ベルナール・ロワゾー氏から公式に贈られたヨーロピアンスタイルです。この朝食が、『世界一』と呼ばれる理由のひとつが、オーベルジュならではの時間の過ごし方です。
ディナーの余韻に浸り、ゆったりとくつろいだ時間の中で眠りにつき、豊かな時間に包まれて迎える朝に待つ食事。これら一つひとつの歓びを重ねる一連の流れが、かつて味わったことのない食べる感動を生み出すのです。ロワゾー氏は、山口浩が神戸北野ホテルをオープンするにあたり、この世界一の朝食を公式に贈ってくれました。そこから、ここ神戸で独自の進化を遂げ、ここでしか味わえない唯一無二の朝食になったのです」

ちなみにベルナール・ロワゾー氏はフランスはもちろん、世界でも有数の料理人のひとりだ。素材の味を引き出すために、バターや油を極力排除したキュイジーヌ・ア・ロー(水の料理)と呼ばれるスタイルを確立した。

サーブされた『世界一の朝食』。コンチネンタルブレックファーストの流儀に従いながらも、日本の食材やお客様の声を反映しながら多様なアレンジが加えられている。

「飲むサラダ」はお客様の声に応えるために誕生したオリジナル


神戸北野ホテルの開業は1992年になる。開業時は別法人だったが、1995年の阪神淡路大震災によって休業状態に。休業中だったホテルを再開させたのが現在もホテル総支配人兼総料理長である山口浩氏だ。以下、運よくご本人から興味深いお話を伺うことができた。

「39歳の時でした。この建物を見た瞬間にロワゾーさんの姿が思い浮かんだんです。私自身も震災でいろんなものを失いましたが、なんとか再興してみせよう、と。それが2000年でした」

そんなホテル再開時にロワゾー氏からいただいたのがこの『世界一の朝食』だったそう。「何も持ち合わせていなかった自分にとって、ロワゾーさんのお墨付きをいただいたこの朝食には本当に助けられました」という山口代表だが、ただ盲目に同じメニューを提供し続けてきたわけではないという。

「時代や地域、お客様の趣味趣向によっても求められるメニューは変わります。お客様の声に耳を傾けていないと進化はありません。例えばこの中央の『飲むサラダ』と名付けた5種類のドリンク。これはお客様の”サラダが欲しい”という声に応えたものです。そもそもコンチネンタルブレックファーストには生野菜のサラダは付きませし、サラダを付けてしまったらコンチネンタルブレックファーストではなくなってしまうんです。それでも朝、目が覚めて、新鮮なものを口にしたいというお客様の声は当然でしょう。であれば、そこに自分が学んできた知識と技術を加えることが役割だと思います。私たちが欲しいのはお客様の”美味しい”というひとことですから」

結果考案されたのが、野菜やフルーツを使った、目にも身体にも優しいジュースだった。

文中に紹介している「飲むサラダ」5種。左手前からセロリとマンゴー、人参とパイン、トマトとフリュイリュージュ、ほうれん草と青リンゴなどをメインとしながら複数の食材をミックスしたジュースに。本来なら奥のオレンジジュースのみ、がコンチネンタルブレックファーストの流儀。

クロワッサンやライ麦パンなどに混じってサーブされる食パンが独特のセレクト。これも文中の通り、お客様の要望による独自のアレンジ。

求められるものに知識と技術で応えることで進化する


「スープはカツオと昆布に少々のキノコ類を使った一番出汁を使っていますし、ヨーグルトは丹波産のものです。最近加えられたのが食パン。これもフランスでは基本的にサーブされないパンですが、お客様からの要望に応える形でサーブするようになった例です」
「お客様の声を聞き、地産の食材でいいものがあれば積極的に使います。その上で、ロワゾーさんが生きていたらきっと作るだろうと思われる”朝食”に仕立て上げる。それが『世界一の朝食』であり続けることです」

その姿勢は、アストンマーティンがそうであるように、まさに様式美と革新性という相反する価値観を高い次元で昇華することを求められるヨーロピアン・ラグジュアリーの真髄とも言えるだろう。

客室は全部で30室だが、同じ部屋はひとつもないという。各部屋ごとに特徴が与えられ、この部屋にはバルコニーがつく。作りはやはりパリの古いアパルトメントのようだ。

こちらは猫足のバスタブが特徴の部屋。この部屋は写真に“映える”とあって若年の女性に人気の部屋だそうだ。

天蓋のついたロココ調のベッドが主張する部屋。どの部屋も巧みに自然光を取り入れ、明るい。天井からの照明は設置されていないところもクラシックだ。

こうして神戸北野ホテルは2010年にはルレ・エ・シャトーの会員入りを果たし、同時に山口代表は当時アジア・オセアニア地区としてはじめて、ルレ・エ・シャトー・グランシェフの称号を与えられ、フランス料理の世界無形文化遺産登録を記念したベルサイユ宮殿での晩餐会(この晩餐会のおよその半分は東日本大震災の義援金に使われた)では「世界の料理人60人」の1人に選ばれることになる。

食文化を守ることが結果次世代のラグジュアリーへの回答に


「震災の後の喪失感は相当なものでした。そこからようやくここまできた。けれども今度は気候変動や天然資源の枯渇といった世界的な激震が襲ってきました。そんな中で自分ができることはなんだろうか、と。それが目の前の海洋資源を守ることだったんです」

その言葉の通り、山口代表はルレ・エ・シャトーの副代表を務めるオリビエ・ローランジェ氏、文化評論家・大学教授の石山徹氏とともに食による海洋資源保護活動の必要性を解く論文を発表、未利用魚の活用にも尽力している。

「日本人はおよそ2000種もの食材を食していると言われます。世界各国の平均が600種程度とされるのと比べると非常に多様です。ところが足元ではその多様性が失われようとしている。自然を守りながら、いかに豊かな食文化を守り、次の世代へと継承していくかがこれからのテーマですね」

山口代表が共同執筆した海洋資源の枯渇状況に関する論文。経過観察だけによらず、料理を通じた保護の可能性と実践についても、詳細なデータを元に論じられている。

SDGsの意識の高まりとともに、フランスはもちろん日本でもラグジュアリーの基準が大きく変わろうとしているという。

知性と社会性が必要となる次世代のラグジュアリー


「アストンマーティンのオーナーの方々なら同意いただけると思いますが、ここ数年価値観の急速な置き換えが進んでいます。例えば、当ホテルをご利用くださるお客様は、当然美味しいものを期待していらっしゃいますが、そこに以前にも増して物語性や驚き、発見を求められるようになってきているんです。それは食を通した知的な旅(山口代表は時空を越えることと表現)のようなものです。先程の未利用魚に話を戻せば、本来なら捨てられてしまうような名前も知らない存在が、実は美味しかったら…そこには単純な驚きと発見に加え、海洋資源の保護に協力しているという知的満足を共有いただけるはずなのです」

今やなかなか使用されることのない真鍮の鍵も神戸北野ホテルを象徴する大切なディテール。

山と海が隣接して独特の文化を生み出す神戸は、伝統と革新が同居するアストンマーティンDB11がよく似合う。

アストンマーティンは言うまでもなくヨーロピアン・ラグジュアリーのベンチマークだ。そんなアストンマーティンを駆って『世界一の朝食』に舌鼓を打てる幸福な方は、ぜひ宿泊の上でディナーも体験いただきたい。そこにはさらに深い物語があるはずだ。

『世界一の朝食』をいただき、大阪へと向かう帰路。ふと旧居留地を訪ねたくなり、古い石造の街並みをアストンマーティンDB11で走ってみた。ここでもやっぱりDB 11は絵になる。六甲山と神戸港を眺めながらの阪神高速湾岸線のクルーズはなんともいえない贅沢な時間だった。次は神戸北野ホテルに宿泊し、ディナーをいただかなくては。

文:前田陽一郎 写真:高柳 健 協力:アストンマーティン大阪/神戸ショールーム
Words: Yoichiro MAEDA Photography: Ken TAKAYANAGI
Supported: ASTONMARTIN OSAKA/KOBE SHOWROOM



神戸北野ホテル
〒650-0003 
兵庫県神戸市中央区山本通3丁目3番20号
TEL:078−271−3711(代)
MAIL:info@kobe-kitanohotel.co.jp

アストンマーティン大阪ショールーム
〒556-0023 大阪市浪速区稲荷1-9-22
TEL:06-4392-1085
FAX:06-4392-2288
MAIL:astonmartin-osaka@hakko-group.co.jp
営業時間:10:00〜18:30
定休日:水曜日


アストンマーティン DB11
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4,750×1,950×1,290mm
●ホイールベース:2,805mm
●重量:1,760kg(乾燥重量)
●駆動方式:FR
●エンジン:V8 DOHC48バルブ ツインターボ
●排気量:4,000 cc
●最高出力:393kW(525ps)/6,000rpm
●最大トルク:700Nm(71.4kgm)/2,000rpm
●トランスミッション:8速AT
●タイヤサイズ:前255/40ZR20、後295/35ZR20
●税込価格:25,070,000円

文:前田陽一郎 写真:高柳 健

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