クラシックカーはパリを走れないのか?...と旧車クラブが政府と交渉した結果、勝ち取ったもの

Tomonari SAKURAI

毎年、年始めの自動車関連イベントといえばパリ横断。これを皮切りに、レトロモービルへと冬のパリはヴィンテージカーシーズン真っ盛りとなるわけだが、パリ横断は開催の3日前にキャンセルとなった。コロナのせいだ。クリスマスから一気に感染者が増大し、現在でも毎日30万人以上の新規感染者を出している。フランスは実質ワクチン接種の義務化を進めているため、以前のように飲食店への営業制限などもできない。今さら経済を麻痺させる措置をとったらワクチンへの不信感をいだかせるからだ。毎週土曜はフランス全土でワクチン接種に対する政府への怒りで10万人以上のデモが行われている。こういった状況になるとレトロモービルの開催もちょっと不安になる。そんなわけで年が明けてからイベントのお知らせができなかったのだ。

そんな中、パリから北へ100kmほど離れたノルマンディー地方のルーアンで開催されるノルマンディー・ヴィンテージというイベントの知らせが届いた。50年代をテーマにしたものらしく、告知では50年代の車が使われている。車がメインのイベントではなさそうだが取材してみることにした。

ルーアンといえばジャンヌ・ダルクが処刑されたことでも有名だが、車好きにとっては世界で初めてのレース、パリ-ルーアンが1894年に開催されたことでも有名。F1グランプリレースも開催されたルーアン・レゼサール・サーキットもあり、ルーアンは古くから車に関わってきた都市なのだ。

…と、勝手に期待して出かけた。イベント最終日の日曜ということもあってチケット売り場は長い列ができていた。ただ車のイベントとは違う雰囲気でもあり、なんとなく違和感もある中、入場してみると… ルーアンにある広い展示場の中には車はまったく見えず、びっしりと並んだスタンドは骨董屋さん。骨董市のようだ。もう入ってしまったので引き返すこともできず、プラプラと骨董市を眺めていた。

骨董市の会場で見つけたモンレリサーキットで記録を出した2CVの当時ものポスター。

しかし、違うホールに入ると雰囲気が変わった。そこからはなんとなく50年代っぽい感じになっている。なるほど。ルーアンで定期的に行われている大きな骨董市と同時開催という手法のようだ。

会場でボンボン(飴)を売るブース。地元ルーアンで1885年創業の老舗バルニエ。ルノー 1000kg Goéletteの荷台に満載したボンボン。

その一角に50年代っぽいガソリンスタンドを再現したところを発見。その回りに数台の車やスクーターが置かれている。このルーアン近辺にあったガソリンスタンドを再現したものだという。このスタンドを、そしてヴィンテージカーを保存していこうというRSS27という旧車クラブの出展だったのだ。張りぼてだが再現されたガソリンスタンドのウィンドーに飾られるオイル缶などは当時のオリジナル。2台置かれたガソリンポンプはよく見ると何とLEGOでできている。

ルーアン近郊に実際にあったガソリンスタンドを再現している。

ウィンドー内の小物までこだわった作り。

このガソリンポンプ。よく見るとレゴ!

パリのイベントやレトロモービルなどと違って何とものんびりとゆっくりと流れるイベントで、とても居心地が良かった。さて、この後月末からのイベントやレトロモービルは予定通りの開催されるのか?普段はとっくに始まっているプレスでの申請窓口は閉じたままだ。(編集部註:レトロモービルは2022年3月16日~20日に延期すると表された)

そんな中でフランスの旧車ファンに朗報が飛び込んできた。フランスの大都市では車両の排気ガスの度合いで5段階にカテゴリー分けされるCrit’Airがある。大気汚染の度合いでその都市を走行できるカテゴリーが適用される。「今日は大気汚染が酷いのでカテゴリー1の電気自動車と、カテゴリー2のここ数年に生産された廃棄規制をクリアしている車のみがパリを走行できる。3以降の最新の基準を満たしていない車は走行不可」といった具合だ。このカテゴリーに加え生産から20年を超えると自動的にそれらの大都市の走行が制限される。僕のBMW R1100Sは2000年製なのでパリには入れない。ちなみにカテゴリーは4。

こうなると旧車はパリを走れないのか?ということで、旧車クラブが政府と交渉し、ついに「カテゴリー・クラシック」を勝ち取ったのだ。この「カテゴリー・クラシック」は30年以上経った車が対象で、普段の足となる現行の車両を所持していていれば取得可能。「カテゴリー・クラシック」を取得した車両はいかなる規制からも除外され、いつでも走行できるというものだ。クラシックカーイベントの開催がまた難しくなってきた今日このごろ、旧車が法律で認められ保護されたという素晴らしいニュースを年明けにお届けできてよかった。

写真・文:櫻井朋成 Photography and Words: Tomonari SAKURAI

写真・文:櫻井朋成 Photography and Words: Tomonari SAKURAI

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