まるで映画のよう!国境を超えた波乱万丈のストーリーをもつフェラーリ デイトナ・スパイダー

RM Sotheby's

フェラーリ365GTB/4デイトナの誕生は、もはや説明の必要もないほど有名な話だ。1967年のデイトナ24時間レースで1-2-3を達成したことにちなんで名付けられた365GTB/4は、当初、水平対向12気筒エンジンを搭載したリアエンジン車の開発が進むなか、いわば“つなぎ”のモデルとして企画された。ジョアッキーノ・コロンボが開発したクラシカルなショートブロックV型12気筒をさらにボアアップして排気量4.4リッターとし、デュアルオーバーヘッドカムバルブ駆動の新型251エンジンを搭載して、フェラーリ初のDOHCロードカーとしてデイトナを完成させた。



ピニンファリーナのレオナルド・フィオラバンティが手がけたアグレッシブな新デザインは、このパワフルなメカニカルエレメントを包み込み、シャークノーズ型のボディは、ロードゴーイングフェラーリとして最も特異なフォルムのひとつとなっている。

デイトナクーペの人気を受け、オープンモデルの開発は不可避となり、1969年のフランクフルト国際自動車ショーで365GTS/4が発表された。フェラーリの伝統であるグランドツーリングの究極の形であるデイトナ・スパイダーは、わずか121台で生産が終了するという希少性も備えていた。フェラーリの伝統であるV型12気筒フロントエンジン搭載のツーリングモデル、その最後にして最高峰のモデルとして、爽快なパフォーマンスと美しいオープンエア・スタイリングを実現し、現在では多くのフェラーリ・コレクションの中心的な存在となっている。



今回RMサザビーズ主催のオークションに出品されたデイトナスパイダーは、ハリウッドの名監督が所有し、後にハリウッド映画に匹敵する国境を越えたドラマチックなヒストリーを歩んだ1台だ。美しくレストアされたこの365GTS/4は、マラネロの名高いスパイダーの中でも最も魅力的な1台である。

ロッソコルサコンサルティングの調べによると、シャシーナンバー14779のこのデイトナは121台中31台目に生産された車だ。エアコンを装備し、マイル表示の計器類を備えたこのデイトナは、もともとネロ内装にアルジェント・メタリーザート・ペイントで仕上げられており、現在とまったく同じ姿をしていた。ロッソやジャッロが多い中、この車は非常に希少性が高く、個性的な仕上がりといえるだろう。



1971年12月に完成したこのフェラーリは、1972年6月にルイジ・キネッティ・モーターズによって、イリノイ州ハイランドパークのカール・A・ハース・オートモビル・インポートに卸された。その後まもなく、365GTS/4は最初のオーナーであるバージニア州ノーフォーク在住のエンスージアスト、H.J.ホフが購入。この頃、ウィスコンシン州エルクハートレークにある有名なサーキット、ロードアメリカのパドックに展示されている。そしてその3年後、デイトナ・スパイダーはハリウッドの映画監督、シドニー・ポラックに売却された。彼は50年にわたる経歴の中で数々のアカデミー賞にノミネートされ、1985年の映画「アウト・オブ・アフリカ」ではアカデミー賞の作品賞と監督賞を受賞した名監督だ。

1979年、メキシコシティのアルベルト・アメスクアがこのフェラーリを購入し、テキサスから来たアメリカ人旅行者に金を払って国境を越えさせ、輸入関税を逃れたと伝えられている。1981年、メキシコ大統領とつながりのある質屋の有力者による強引な策略にはめられ、書類にサインをさせられたうえ、実質的には盗難にあうというトラブルに見舞われた。

その後、1983年春にはこのデイトナはアメリカに戻ってきていたようだ。カリフォルニア州コスタメサのヨーロピアン・オート・レストレーションに修理を依頼したという記録がそれを証明している。

1984年にはオハイオ州在住のコレクター、エド・ザマレリが購入し、2年後に売りに出した。その時点でオドメーターは34,000マイルを指していた。前オーナーのアメスクは、盗まれたフェラーリが市場に出回っていることを知り、法的措置を取り、ザマレリからこの素晴らしいデイトナ・スパイダーの所有権を取り戻すことに成功した。その後1993年にクエイル・ロッジで開催されたFCAヴィンテージ・フェラーリ・コンクール・デレガンスと、1996年にコンコルソ・イタリアーノと共同で開催されたヴィンテージ・フェラーリ・コンクール・デレガンスに出展し、コーチワークをブラックにリファインして、少なくとも10年間はこの車を所有し続けた。



その後2年間、カリフォルニアの3つのコレクションを経て、1999年にフロリダ州ロングウッドのロン・ブリッジズがこのフェラーリを購入し、ヴァンテージ・モーターワークスに依頼してオリジナルファクトリーカラーのアルジェントメタリザートでリペイントするなどショーレベルのレストアを施した。2004年、ブリッジス氏はフロリダ州オークランドパークのデビッド・ネーグル氏にこの車を売却し、1年後にネーグル氏がこのデイトナを出品した。その時点でオドメーターは39,306マイルを記録している。

2006年、アリゾナ州スコッツデールの著名なコレクター、ゴードン・アプカー氏がこのデイトナを入手し、2007年のアリゾナ・コンコルソに出品、FCAプラチナ賞を受賞している。その後、2008年1月にノースカロライナ州チャペルヒルのクリス・コックスに売却され、2009年にニュージャージー州ニューバーノンの著名なコレクター、スティーブ・アドラーが購入した。アドラー氏は、ペブルビーチで受賞歴のあるスティーブ・バビンスキー氏の会社オートモーティブ・レストレーションに依頼し、インテリアをコンクール基準まで再調整するなど、さらなるレストアを行なった。そして最後は2011年、スパイダーはルイジアナ州ブルサードのヘインズ "チップ "マーシャルに渡り、2020年1月までテキサスを拠点とするコレクションで管理されたと伝えられている。

現在、走行距離が40,150マイルのこの365GTS/4には、ツールロールとオーナーズマニュアルが付属している。今回の出品にあたり、圧縮/リークダウンテストや新しいAnsaエグゾーストシステムの取り付けなど、リフレッシュ作業が施された。



この希少なデイトナ・スパイダーは、ネロにアルジェント・メタリーザートという工場出荷時のカラーコンビネーションで美しく仕上げられており、この珍しいカラーコンビネーションをオリジナルで備える車両はわずか14台しか存在しない。それがこの車の希少性と個性をさらに際立たせていることは言うまでもない。

フェラーリを愛するコレクターの多くにとって、その道を歩み始めたばかりの人であれ、長年にわたって深いコレクションを築いてきた人であれ、デイトナ・スパイダーは紛れもなくフェラーリの注目株であり、コレクションの中心にデイトナを据えたいと夢見る人は少なくない。このシャシーナンバー14779は、ダイナミックで特別なフェラーリを求めるコレクターを満足させられる1台だといえるだろう。



この365GTS/4は、マラネロが誇るオープン・フロントエンジン・グランドツアラーの頂点に君臨し、エンジン、ギアボックスともにナンバーがマッチングしている。FCAイベントやコンクール・デレガンスで披露するにも、パワフルで洗練されたドライブトレインを楽しむにも、このスパイダーはベストな1台だろう。

1月27日に開催されるRMサザビーズのアリゾナオークションでのこのデイトナ・スパイダーの予想落札価格は240万~280万ドル(約2億7700万~3億2300万円)程度と推測されている。

オクタン日本版編集部

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