極上のトライアンフGT6に出会ったのに...|「ひとつ買ったら、ひとつ手放す」ガレージ事情の悩みは万国共通!?

Andrew English

「ロックダウン中には車を買うべきじゃないよね」、私はシトロエンのコヴェントリーでの発表会の場でPR担当者のマーク・ミルネに言った。「でも、“その車”はまだ半マイル先にあるんでしょう?」と彼は言い返し、「帰り道ですれ違うことになるかもしれませんね」と付け加えた。

“その車”は1967年式のマーク1トライアンフGT6だ。オーナーのレズリー・ロバートソンからずっと購入を勧められていた車で、彼女からは「GT6を探していると伺ったけれど。私のところに1台ありますが、ご覧になりますか」と電話越しに言われた。もちろんだ、だが実際に購入するとなるとイギリス家庭のルールである「ひとつ買ったら、ひとつ手放す」というルールに違反することになってしまう。

私が到着したときレズリーは既に、彼女の素晴らしくゴージャスなガレージから“トリクシー”(ベアトリクスの略称。ここでは車の愛称)を出してきて、2.0リッター直列6気筒エンジンを始動してくれていた。



驚くべきことに、この車は並外れて素晴らしいコンディションだった。54年間でわずか30,000マイルを走行したのみ、しかもリアサスペンションはオリジナルだ。このような小型で洗練されたルーフ付きスピットファイアの初期型はもはや存在しないものかと思っていた。ウェブサイト「How Many Left」によると、1967年から現存している車両は29台しかないという。



当然のことだが、この車には年式相応の部分も見てとることができる。カーペットは茶色く色あせているし、ボディのシーラントも同じような色合いになっている。フロントバンパーのパネルはジャンジャンと音を立てるし、リアウイングには錆びたくぼみが存在している。



しかし、それ以外の部分についてはタイムマシンのように当時のままのものなのだ。サイドシルにはクロイドン地区のスタンダードハウスであるカーズ・オート・セールスのオリジナルのディーラー・プレートがある。フランク・カーは1946年に設立されたトライアンフの有名なディーラーだ。寄木細工の床、真っ赤なラグ、反射を減らすための窪んだ窓、そしてスリーピースに身を包んだ魅力的なセールスマンのいる、とてもゴージャスなアール・デコ様式のショールームだった。

このトライアンフは、20年ほど前に現在のOctane副編集長であるマーク・ディクソンが試乗した個体で、その当時からほとんど何も変わっているものはなかった。これ自体は特に私が欲しいと思っていた車ではなかったが、逃すにはなんとも惜しい代物だ。私はレズリーと常識的な距離を保ちつつ、トリクシーを私のものにするまで静かな押し問答の末にオファーが適った。

昨年1月のことだ。手付金を支払ったものの、私が残額の工面をしたり、ロックダウンで引き取りに行けない間は納車を待ってくれたりと、レズリーは非常に我慢強く対応してくれた。その間、私はトライアンフTR3Aラリーカーを売りに出した。

「それで、どうなったの?」と、次の発表会ではマーク・ミルネが尋ねた。私は肩をすくめ、「トリクシーは義理の姉妹の家のガレージにいるんだが、まだ家に迎え入れることができないんだ、TRがまだあるからね。非常に悩ましい問題だよ」



これが「ひとつ買ったら、ひとつ手放す」というルールのジレンマだ。

文・写真:Andrew English まとめ:オクタン日本版編集部

文・写真:Andrew English まとめ:オクタン日本版編集部

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