テーマは「アンバランス」|相関関係から楽しむ「照明」と「椅子」

美しい暮らしを実現させる家具たちの中でも、照明と椅子は、語り所が多く、知る楽しみのあるアイテムだ。この記事では、「アンバランス」というテーマで、その相関関係からみた魅力を読み解いていきたい。

一般的に優れたデザインというのは、多くの人々の心にストンと収まるモノである。そしてそういった美しいデザインの多くは、黄金比やフィボナッチ数列といった数式で説明することができる。人類が美しいと感じるモノには何らかの法則があり、デザイナーもその法則をうまく利用してプロダクトを作っている。

しかしFLOSの「IC Lights」に多くの人は、不思議な感覚を覚えるはずだ。収まるべきところに収まっていないというか、あるべきところにないというか。とにかく違和感があるのだ。しかしそれこそが、デザイナー、マイケル・アナスタシアデスが狙ったところ。

細い棒の上に、ガラスの球体が絶妙な均衡を保ちながら鎮座している様は、どこか“アンバランス”でありながら、しかし不思議な調和がとれている。その心をモヤモヤさせる感覚は、モデル名にも表れている。“IC”というのは、英国に入る移民を分類するための識別コードのこと。キプロスで生まれ、英国で活動するマイケル・アナスタシアデスの不安定な心の内を、このアンバランスなデザインで表現しているのだろう。

こういったアンバランスに揺れ動く心の内面を具象化した椅子がB&B Italiaの「UP5_6」だ。これは1969年にガエターノ・ペッシェによってデザインされた7点からなる家具シリーズ「SERIE UP 2000」の一部。購入すると真空パックになって配送され、開封するとむくむくと大きくなるユニークなコンセプトは、今でも家具史に残るアイディアである。アームチェアの「UP5」は、母体をイメージした柔らかなフォルムが特徴。そして球体の「UP6」はオットマンなのだが、「UP5」と繋がっている。スケッチ段階は鎖でつながっていたそうで、これは「女性は自ら、女性であるとの考えに縛られている」というメタファーが込められているという。ポップな配色とフォルムの裏には、ジェンダーというテーマが隠れている……。その深みが、この作品を更に特別なものとしており、その発売50周年を記念したのが「UP50」だ。

誰もが“美しい”と感じるデザインも素晴らしいのだが、誰の心にも引っ掛かりを残すデザインもまた魅力的だ。椅子や照明は、座ったり照らしたりするという機能性を持った実用品だが、その一方で愛でて楽しむアート的な要素も無視することはできない。単に美しいだけでなく、心を揺さぶるアンバランスな表現と心の内を照らすメッセージを知る。そんな知的な家具に囲まれる暮らしも、悪くはないだろう。

フロス
アイシーライツ フロアー2
近年、めきめきと頭角を現している人気デザイナー、マイケル・アナスタシアデスが2014 年に発表した出世作。乳白色のガラス製のセードに細いパイプフレームを組み合わせた照明は、ペンダントタイプやフロアタイプも用意される。アンバランスの中にある詩的な美しさと、そこに隠されたメッセージを感じ取りたい。全高185.2cm、直径30cm。21万5000円/日本フロス TEL:03-3582-1468

B&Bイタリア
UP 50
アームチェアは、フォルムから「ラ・ドンナ(女性)」というニックネームが付いていた。現在は膨らませる方式ではなく、発泡ポリウレタンをアームチェアの形に成型。2019年に発売50周年を記念して、発売当時のオリジナルカラーのベージュとペトロールグリーンを復刻。全高103cm、座高42cm、幅120cm、奥行130cm。オットマンの直径57cm。102万4100円/B&B Italia Tokyo TEL:0120-595-591


文:篠田哲生 監修:窪川勝哉 Words:Tetsuo SHINODA Adviser:Katsuya KUBOKAWA

文:篠田哲生 監修:窪川勝哉

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