B8グランクーペに見る、ラグジュアリィに対するアルピナの新たな答え

Photography:Masaya ABE

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アルピナのB8と聞くと、ちょっとマニアックなモデルを思い出す。E36 3シリーズのノーズに4リッターもしくは4.6リッターのV8エンジンを押し込んだ90 年代のモデルだ。つまりB8の8は8気筒の8。ゲトラグの6MTを組み合わせていた。ツーリングでも出てくれば今でも欲しいと思う一台である。

もっとも最近のアルピナは、BMWラインナップ名に合わせた分かりやすいネーミングをするようになった。3シリーズベースだからB3やD3S、5シリーズベースならB5、D5Sというふうに。 そうなると最新の B8は当然ながらBMWのフラッグシップクーペである8シリーズがベースということになる。ちなみにその昔にも、これまた90 年代だったが、8シリーズ(E31)が存在していて、その時のアルピナはベースの850が12気筒だったためB12だった。これも欲しい一台だけれども高騰中である。

話を今に戻すと、最近になって日本に上陸したアルピナのモデル名をB8グランクーペ・アルラットという。つまり8シリーズ(G16)の4ドアクーペがベースのアルピナだ。ベースのグランクーペといえば、8シリーズクーペのダイナミックでエレガントなデザインを踏襲しつつ、独自のリアアクスルサイズを採用するなど、クーペの単なるロングホイールベース4ドア版でなかったことがBMWの本気を窺わせたものだった。

アルピナによって追加されたエアロ・パーツが、B8のスポーティなキャラクターを際立たせ、流麗なシルエットとエレガントなラインが見るものを魅了する。

アルピナの定法に則って、B8は上質かつ高性能なグラントゥーリスモへと仕立てあげられている。もとより8シリーズそのものがレース参戦を念頭に開発されておりスポーツカーとしての性能も一級品だ。そんなモデルを "アルピナらしさ"で鍛えた。ハイレベルな出来栄えであることに疑う余地などないはず...。

先にアルピナの三つの魅力=パワートレーン・シャシーチューン・インテリアクォリティ、に沿って順にその概要をリポートしておこう。

まずはパワートレーンだ。4.4リッターのV8ビ・ターボエンジンはN63ユニットベースで、B7用を大きく上回る621psの最高出力を得ている。BMW M製S63のM8用620psエンジンを超え、M8コンペティション用625psに迫る。最大トルク値は800Nm。わずか2000回転から発揮されるというから驚く。これにアルピナ・スウィッチ・トロニック付きの専用セット8速スポーツオートマチックとリアLSD付き4WDシステムを組み合わせることにより、0→100km/h加速は3.4秒、最高速324km/hと、スーパーカー級のパフォーマンスを得た。ちなみにこの数値、M8コンペティション(3.2秒で350km/h)よりも確かに劣っているのだが、そこはアルピナの慎ましさというもので、加速数値は遠慮スペックでありおそらくほぼ同等、最高速に至っては到達地点ではなく巡航で維持できる数値だと解釈した方がいい。

4.4リッターのV8ビ・ターボエンジンは621psの最高出力を発生。全回転域にわたりスムースなスロットル・レスポンスを実現する。巡航最高速度は324km/h。

次の魅力が足回りだ。特に注目したいのがフロントアクスル。ハイドロマウント付きアクスルストラットに独自チューンのアイバッハ製スプリングを組み込んだ。各種ベアリングの高剛性化も図っている。21インチのアルピナ鍛造アロイホイールにピレリによる専用の21タイヤがおごられた。フロントホイールの間からはブルーペイントされた強力なブレンボ製4ピストンキャリパーが顔を覗かせる。

最後にインテリアである。BMWの純正でもインディビジュアルというオーダーメードプランが用意されており、そのコーディネーションにはかなりの自由がある。けれどもアルピナのそれは事実上、無限だ。インディビジュアルプログラムから選ぶもよし、完全にビスポークするもよし。いずれにしてもその仕立ては超一級で、誤解を恐れずに言うと"ドイツ車離れ"している。

ラグジュアリィかつ高品質な素材で仕立てられたエレガントなインテリア。アルピナ社のレザー・ワークショップは、数えきれないほどの組合せの選択肢からカスタマイズすることが可能だ。

では、そのドライブフィールはどうだったか。現世代のアルピナガソリンモデル、 つまりB3、B5、B7にはいずれもじっくり試す機会があった。これら3モデルを乗り終えての筆者の結論は「B3が最高」、である。最新のアルピナの実力を知りたければまずB3からお試しを、というわけだ。

B8にもじっくり向き合った結果、その考えは基本的に今も変わっていない。B3は未だに最高のチョイスである。けれども3シリーズとは真逆の最高級クラスにおけるアルピナのラグジュアリィな表現力に関して言えば、B7以上の衝撃を受けた。 正直に言おう。B5やB7よりも断然にB8は良かった。完成度でも間違いなく上級グレードだ。

B8用のパワートレーンはB5やB7と基本的に同じ。けれども、そのドライブフィールには最もまとまりがあって、ドライバビリティに優れている。スポーツカーとしても超一級でなおかつグラントゥーリズモとしても上質という点で、ドイツ車、否、この価格帯の世界のハイエンドモデルのなかでも、これ以上ない選択だと思えた。加速フィールの凄まじさでいえばB5の方が強烈だった。けれども実際にはB8の方が速く、そして安定感も優っている。ドライバーはたくましいエグゾーストサウンドを楽しみながらフルスロットルを楽しむことができる。そこまでの安心感はB7にもなかった。

リヤ・エプロンに組み込まれたステンレス製のツイン・テール・パイプ。アルピナ・スポーツ・エキゾースト・システムは、走行モードとアクセル開度に応じて、控えめなアルピナサウンドから力強くエモーショナルなスポーツサウンドまで幅広い響きを奏でる。

秀逸なハンドリングも、さすがは8シリーズがベースだと唸った。フロントアクスルの動きは決してドライバーを脅かすほどシャープではないけれども、その動きは驚くほど正確で、かなりのハイスピード領域においても安心して上半身を託すことができる。8シリーズにはそもそも前輪と両腕が一体となったかのようなステアリングフィールが宿っているのだが、B8にはさらに上半身まで組み込まれたかのような錯覚を覚えるほどの一体感があった。 高速道路でも、そしてワインディングロードでも。

さらに乗り心地の良さも特筆しておきたい。実を言うとミシュランタイヤを履いたB7の乗り味が好みだった。古き良き欧州車のライドフィールを残し、路面を確実に捉えて離さないと言う感覚が常に両腕と腰にあったからだ。B8+ピレリでは、その感覚をより現代的に解釈した。段差では少し弱めに衝撃を伝え、そこから自然な弾みをもって塊あるショックを感じさせながら、車の動きに連動して吸収したショックを弱めていく。この一連の動きが驚くほどスムースで、スピーディだ。だから自信を持ってステアリングワークを続けることができる。薄いタイヤであることを実感させるだけの硬さもある一方で、それをまるで不快には感じさせず、むしろ心地よいと思わせる術もまたアルピナのエンジニアは知っていると言っていい。

ラグジュアリィなハイパフォーマンスは英国ブランドの専売特許であった。アルピナのハイエンドは果敢にその領域へと挑戦し、あまつさえ凌駕しようとしている。なるほどそれはジャーマンテクノロジーの代理戦争でもあったのだ。


BMWアルピナB8グランクーペ
ボディサイズ:全長×全幅×全高=5090×1930×1430mm
ホイールベース:3025mm
車重:2140kg 駆動方式:4WD
エンジン:4.4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:621PS(457kW)/5500-6500rpm
最大トルク:800N・m(81.6kgf・m)/2000-5000rpm
タイヤ:(前)245/35 ZR 21 96 Y/(後)285/30 ZR 21 100 Y(ピレリPゼロ)
価格:2557万円(テスト車両:2850万9000円)

オプション装備:ボディーカラー<アルピナグリーン>(63万円)/右ハンドル(45万円)/フルレザーメリノ(56万2000円)/ラヴァリナステアリングバイカラー(17万3000円)/アルピナベロアフロアマット(11万円)/パノラマサンルーフ(28万8000円)/サンプロテクションガラス(11万5000円)/Bowers & Wilkinsダイヤモンドサラウンドサウンドシステム(61万1000円)


文:西川 淳 写真:阿部昌也 Words:Jun NISHIKAWA Photography:Masaya ABE

文:西川 淳 写真:阿部昌也

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