まだまだ現役!キューバの街を彩る「アウトウニオン」愛好家を訪ねる旅

Photography:Matthew Howell

キューバの愛好家グループが、不自由な環境のなか、2ストローク・エンジン搭載のDKWやアウトウニオンをなんとか走らせようと工夫を凝らしている。



私たちはハバナを知っている。 色褪せた建築物の優雅さ、照りつける太陽、葉巻とラム酒。街では、日陰に座って物思いにふける老人の横を闊歩するタイトなドレスに身を包んだ美女⋯。そしてもちろん、今やキューバの観光資源にもなっている、1950年代のシボレー、クライスラー、フォード、オールズモビル、スチュードベーカー⋯などのアメリカ車。

それらに加えて、ハバナにはアメリカ車と同じくらい、1950年代のヨーロッパ車も生き残っている。これからお話するDKWやアウトウニオンのほかにも、オースティンやモーリス・マイナー、ビートル、ヒルマン、サーブ、そして今はなきソ連のモスクビッチさえも見ることができる。もっとも、そうしたヨーロッパ車は、観光客向けの絵葉書の題材として描かれることはあまりない。なぜなら、小さな欧州車の群れを車道に放っておくのは現在では無理だからだ。アウディ・トラディション(アウディのヘリテージ部門)は、キューバのDKWとアウトウニオンのオーナーたちがクラブを結成しようとしていることを知り、協力することを決めると、『Octane』のスタッフを招待してへとハバナに向かった。2016年、いまから5年前のことである。



ようこそキューバへ


なぜアウディ・トラディションなのかを説明することからはじめよう。1932年にアウトウニオンを設立した4社のうちの1社がDKWであり、そのアウトウニオンは現在のアウディの祖である。

では、なぜ『Octane』を呼んだのか。その理由は、1950年代後半の2ストローク3気筒エンジン車をキューバでスペア部品が手に入らない状態で走らせようとするのは、ヒストリックカーファンにとって興味を掻き立てられるに違いないからである。新車を買うことがほぼ不可能なキューバで古い車を走らせるのは、必要に迫られているからとはいえ、オーナーの愛情は実に深いものだ。

ハバナ郊外のアパートに到着したところで、初めてキューバ製DKWに出会った。私たちの今回の旅は、1960年代のフルシチョフ率いるソ連の援助で造られた空港を出てからずっと驚きの連続である。

アパートの室内に落ち着いた私たちは、外から聴こえる2ストローク・エンジン車が奏でる独特のリズムによって、DKWの存在を感じた。窓の外を見ると、そこにはメタリックブルーの塗装にマッチしたかのような青い2ストローク特有の排気煙がたなびき、熱心に手を振っている人の姿が見えた。キューバの売れっ子アーティスト、エドゥアルド・ヤネスと、科学者からアートキュレーターに転身した妻のスセッテ・マルティネス、そして友人でプロのツアーガイドであるオルランド・ガルシア・ミリアンの3人だった。



この車はエドゥアルドが普段使いする車だが、オルランドも運転するという。1959年型のDKW 3=6で、キューバ以外では修復が必要だと言われるだろう。しかし、ここでは1気筒が動かなくなってしまい、3本目のシリンダーが必要なのだとエドゥアルドがおどけた。「たいへんな時に来てしまったね。13年間、一度も修理したことがなかったが、今はエンジンのリビルドが必要なんだ」と彼はいう。

アウディ・トラディションのヒストリアンであるトーマス・エルトマンは、ドイツから新しいディストリビューター・ベースと新しいクランクシャフトを持ってきた。エドゥアルドは、なんとか足りない部品をサルベージするドナーを見つけ出し、エンジン以外の不足部品たちを用意していた。彼らの補修には終着点がないのである。

「今日はあまりいい日ではなかったですが、いつもは3気筒エンジンはよく回り魅力的なビートを聞かせてくれます。普段は完璧なのですが」と彼は言った。エンストすると、エドゥアルドはため息をつき、パナマ帽をかぶって、手巻き煙草に火をつけた。

スセッテとエドゥアルドは、アウディ・トラディションからの救世主に会うために、オーナー仲間を集めていた。彼らは必要に迫られて古い車を駆っているが、それらは単にノスタルジーに浸るだけのものではない。1959年にカストロ政権が誕生した後、それを脅威と捉えたアメリカが経済封鎖を発動したことで、外貨不足になったキューバでは、自動車についていえば、車本体ばかりか部品、燃料の入手が困難になった。新品の輸入車を購入できるのは、役人や医者、政府とのつながりや外貨収入の証明があるごく限られた人だけで、その多くはソ連からの輸入車だった。2011年に自動車輸入が可能になったが、当初は政府の個別許可が必要だったため、莫大な税金が課せられて一般人は買うことができなかった。



編集翻訳:伊東和彦 (Mobi-curators Labo.)  原文翻訳:オクタン日本版編集部

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