ガソリンorディーゼル、最上のロードカーとは|アルピナ B3 ツーリングの圧倒的パフォーマンスを試す

NICOLE AUTOMOBILES

「そうそう、これだよ、これこれ、この動きだ・・・」
B3ツーリングを動かし始めた私はそう呟いていた。

伏線があった。B3リムジンの驚くべきライドフィールに惚れ込んでからというものの、個人的にはD3Sのツーリングボディへの期待が高まっていた。なぜなら3シリーズツーリングのディーゼルエンジン搭載車こそ最良の実用乗用車というのが持論だったからで、そのアルピナ版となれば最良中の最高は必然であり、D3SもきっとB3と同じように走ってくれるだろうからD3Sツーリングに勝るファーストカーはない、と勝手に盛り上がっていたというわけだ。



おりしもD3Sツーリングで東京から京都まで走る機会を得た。オレンジがかった赤いツーリングボディ。もうそれだけで心が浮き立ってくる。ブルーやグリーンのアルピナも嫌いじゃないけれど、意外に赤系もお似合いでかっこいい。特にツーリングボディのような実用モデルに赤いボディはハズしが効いていて洒落ている。



果たして高速道路でのツーリング性能は極上の部類だった。ディーゼルとは思えないほど滑らかに、そして静かにまわり続ける。低く唸ったサウンドは感応的ですらある。そこは流石にアルピナだ。そしてもちろん中間加速は思いのままで、とても頼もしい。まず間違いなく、いま新車で購うことのできる最も優れたディーゼルモデルだろう。

100km/h巡航を1250回転でこなす。“回さなくても存分に速い”ストレート6ディーゼルターボによる安楽なロングドライブは、私のように週に一度、東京と自宅のある京都をクルマで往復するライフスタイルにはピッタリだ。その上、高速道路での実燃費も上々・・・。



けれども一つだけ気になる点があった。それは低中速域での乗り味に若干、しなやかさがかけていたように思えたのだ。もっともスタンダードモデルのMスポーツあたりに比べればずっと上等なライドフィールで、B3のそれがあまりに極上過ぎただけかもしれないが。

もしくは、ひょっとしてツーリングボディに特有のキャラクターか、とも考えた。ラゲッジルームに荷物を積み込んで走る時のことを考慮して、ワゴンのリア足はセダンに比べてかためられているケースが多いからだ。これは後から判明したことだが、事実、アルピナのツーリングもリムジンに比べて硬いリアスプリングを使っていた。フロント側がもし一緒だとしても、空荷で走った場合には異なる印象を抱くケースもあるに違いない。だとすれば、そもそもツーリングよりもリムジンを選んだ方がいいという判断になるかも知れない・・・。

正解を得るためにはB3ツーリングを試すほか手はなかった。そんなとき、アルピナを扱うニコル・オートモビルズから再び(いや三度)、今度はB3ツーリングの長距離試乗という願ってもない機会を供されたのだった。

B3ツーリングのデモカーを受け取り、走り始めた瞬間が冒頭のシーンだったというわけだ。



やはりB3とD3Sとではフロントサスペンション周りのセッティングも異なるようだ。むしろセダン同士、ツーリング同士ではBとDではセッティングが変わらない。B3の乗り味の方がより好みに思えた理由は前アシの違いによるものだったというわけだ。

何しろ、大きなタイヤ&ホイールの存在を忘れてしまうほどに滑らかに転がっていく。抵抗らしき抵抗を感じないとでも言おうか。ドライバーには路面の状況を逐一伝えつつ、フラットライドを保つ。もちろん、ステアリングを切ればノーズは適切に素早いタイミングで向きを変えるのだが、その最中もタイヤとホイールは常に滑らかに回転している。滑っているかのようである。リムジンに比べるとツーリングの方がやや骨っぽいのは、やはりリアスプリングが硬めだからだろう。もう少し荷物を積んで走ってみたいとも思った。



もちろんB3ツーリングの魅力はシャシー&サスペンションだけではない。いや、もうそれだけで欲しくなってしまうほど上出来だったわけだけれども、そのうえエンジンフィールが高回転域まで官能的だから憎らしい。現行型B3最大のニュースがSエンジン、つまりBMW M用のS58ストレート6をベースとした点で、最高出力や最大トルク、性能カーブなどは後から登場したM3とは微妙に異なっているものの、力強さに気持ちよさを加えたパワートレーンであるという事実は変わらない。



特に三千回転後半から五千回転くらいまでのノリノリな加速フィールがたまらない。胸を空く加速とはまさにこのことだ。スポーツカーではない、ステーションワゴンでそれを
感知するのだから痛快である。やっぱりパワートレーンの魅力はトルクではなくパワーだったと痛感する。



高速道路の続く限り、どこまでも走っていけそうな気分になった。否、どこまでも行きたい気分といった方が正確だ。まっすぐ走っているだけでも気持ちいいのに、道が適度に曲がりはじめたなら、楽しさはいっそう増す。

カントリーロードでも圧巻のパフォーマンスをみせた。ピックアップに優れたパワートレーンを存分に活用しながら、好きなだけ好きなように曲がっていける感覚がB3ツーリングの取り柄である。あらゆる深度のコーナーを手と足で見事に曲がっていく。旋回時の姿勢がまたドライバーの意思ときれいにシンクロしており、右足の操作タイミングも図りやすい。腰と車体の沈み方が常に一致しているという感覚があった。何度もいう。これはステーションワゴンである。



制動パフォーマンスも素晴らしい。よくできたシャシー&サスペンションのおかげでブレーキの性能もフルに使えているという安心感が常にある。微妙なコントロールも容易い。妙な自信が湧いてきて、右足への自制心が緩んでいく。調子に乗っていると理性を失いそうだ。



フロントアクスルとステアリングホイール、シートのランバーサポートあたりとリアアクスル、それぞれをダイナミクス的に繋げて乗り手に感じさせるあたり、ロードカーとしては最上の部類に入ると言っていい。

B3ツーリング。好みのコンフィグレーションを試したくなってきた。




文:西川 淳 Words: Jun NISHIKAWA

文:西川 淳 Words: Jun NISHIKAWA

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