圧倒的バランス、高次元の走り|フェラーリ SF90 ストラダーレ試乗インプレッション

photography : Kazumi Ogata

ついにフェラーリも電動のパワートレインを搭載する時代を迎えた。

日本で試乗する機会に恵まれた私は、六本木ヒルズでスタッフからキーを受け取った。今回のテストはフェラーリジャパンより走行ルートとモード選択、それとスケジュールが決められたもので、スタッフが後方からフェラーリ・ローマで帯同する形式。目の前にあるSF90のデザインはこれまでのV8モデルのデザインを踏襲しているが、このアセット・フィオラーノという特別仕様は多くのカーボン製パーツを装着しており、また、ボディに用意されたホワイトのストライプが大きなアクセントとなっている。



大きく開いたサイドエアインテークダクトにもカーボン素材は用いられている。サイドミラーにも大きく映るこのボリュームは、まるで航空機のような印象を与えてくれる。

リアから眺めるフォルムは、フロントのシャープな印象とは異なり、迫力あるデザインとなっている。

スタート前に操作の説明を受ける。新しい装備のeマネッティーノは「エレクトリック」、「ハイブリッド」、「パフォーマンス」、「クオリファイ」の4モードが選択可能。「エレクトリック」はフロントモーターによるEV走行モードであり、「ハイブリッド」はエンジンが必要に応じて稼働する、いわゆる通常モード。「パフォーマンス」は常にエンジンが稼働している状態で、かつバッテリー充電レベルが最大化となる。最も高いパフォーマンスを発揮するのは「クオリファイ」。エンジンおよび3基のモーターが稼働するもの。今回の試乗では、この1000馬力を発揮することができる「クオリファイ」モードは使用しないことになっている。

カーボンが捲かれたホイール。強度と軽量化が目的だがデザイン的にも秀逸だ。

288GTOを彷彿とさせる長いステーをもつサイドミラー。この高さが必要なボディフォルムはまるでレーシングマシン。

SF90のスタート儀式はいまのフェラーリとほぼ同じである。センターコンソールにキーをセット。タッチ式の赤いスタートストップボタンに触るとデジタルディスプレイが起動する。再度センサーに触れるとスタンバイモードになるのだが、ここでエンジン初爆音であるお馴染みの「バオオーン」というサウンドが鳴り響かないのが最も大きな違いか。

助手席にグローブボックスをもたないスパルタンなインテリア。

スクエアにキーをセンターコンソールにセットし、スタートボタンに触れることでスタート準備が整う。

ルートは首都高速渋谷ICから東名高速経由で御殿場ICを出て、箱根仙石原にあるKANAYA RESORT HAKONEを目指すもの。まず渋谷ICまでの一般道は「エレクトリック」モードで走ってみた。バッテリーがフル充電状態のSF90ストラダーレは、もちろんエンジンを始動することなくスルスルと走り始めた。このときはFFでの走行となるが違和感などはまったくなくレスポンスも実にスムーズであった。ちなみに最大出力135p/最大トルク85Nmを発揮するフロント2基のモーターによるEV走行可能距離は最大で25km。最高速度は135km/hとなっている。

シート後に搭載されるV8エンジンは780ps/7500rpm、800Nm/6000rpmを発揮する3990ccDOHCガソリンターボ。これに3基のモーターを組み合わせ、システム最高出力は1000psとなっている。高速巡行は驚くほど静か。後退はモーターで行うので8段DCTにリバースギヤはなく、後退はモーターで行う。

高速に入って「ハイブリッド」モードに。一定速度以上では常時エンジンが稼働している状態になるが、EVアシストはもちろんシフトチェンジさえ気づかないほどすべての変化がおだやかだ。一見シートクッションを貼っただけのように見えたシートも、サスペンションの絶妙な動きにより、おだやかなサルーンのような乗り心地を生み出してくれる。ただしワインディングに入って少しアクセルを強く踏んでいくと、先ほどとは打って変わりスポーツカーらしい表情がどんどん現われてくる。アクセル開度に忠実なクイックレスポンスは今までのフェラーリにはなかった感動。しかもトルクベクタリング4輪駆動システムにより、安心感も抜群なのが嬉しい。

カーボンにシートパッドを貼っただけのようにも見えるシンプルなシートだが、これが実に乗り込事がよく、しかも長距離を走っても疲れが出ない。


アセットフィオラノ仕様では、あらゆるところにカーボンが張り巡らせてある。

SF90の魅力はスタビリティの高さと乗り心地の良さが両立した、バランスの高い走りである。まさにスクーデリア・フェラーリ90周年というモデル名にふさわしいパフォーマンスだ。他のハイパフォーマンスカーを操縦する場合、トラックのみなら優れた走りを見せてくれるものの、多くはガチガチに固められたサスペンションで乗り心地がスポイルされたモデルが多いのは事実だ。だがこのSF90は市街地から高速道路を経て郊外の荒れた舗装路に至るまで、一定以上の、いやどちらかというと普通のスポーツカーをはるかに勝る高いレベルの乗り心地を実現している。これは大きな驚きだった。

箱根と都内の往復だけではもったいない。ただし、このSF90ならばサーキットから高速巡行、また都内での走行に至るまで正にオールラウンドに使える1台である。

このSF90の正しい使い方のイメージはこんな感じだ。
週末の朝、閑静な住宅地にある自宅を出発していつものサーキットに向かう。このときに助かるのはEVモードを使えば早朝でも近隣を驚かせることなくスムーズにスタートすることができることだ。サーキット専用車ではないストラダーレなので、自宅からトラックまでこの車で自走して移動することができる。フロントラゲージから取り出したヘルメットとレーシングスーツ&グローブで果敢に攻めて思い切り汗をかき、そして帰路もこの乗り心地の良さに助けられ安全にドライブを楽しむことができるのだ。翌日に不快な疲れが残ることもなく、ウイークデーのスタートからバリバリと仕事に励むことができる。正にジェントルメンドライバーのための正しいスポーツカーである。

ボンネットには適当なラゲージスペースが用意されている。充電装置ほかでだいぶスペースは限られるものの、実用性が全くないわけではない。

ステアリングホイールを握っていて、その大きさをまったく感じさせないデザインも良い。車重が1.6t未満ということもあり、ボディサイズ以上に走りの軽快感は高く、コーナーやレーンチェンジでもストレスがない。これは低くマウントされたミドシップエンジンの恩恵も高いだろう。またいつもは気持ちの良いエンジンサウンドを車室内で楽しめるものの、必要のないノイズやバイブレーション、熱気のようなもので運転の楽しさを妨げられることはない。

いつかこの1000馬力を正しく試してみたくなるほど、その圧倒的なクオリティの高さに驚かされたSF90であった。



文:堀江史朗(オクタン日本版編集長) 写真:尾形和美 Words:Shiro HORIE(Octane Japan) Photography:Kazumi OGATA
 


フェラーリ SF 90 ストラダーレ(アセット・フィオラーノ仕様)

ボディサイズ:全長×全幅×全高=4710×1972×1186mm
ホイールベース:2650mm
車両重量:1540kg
エンジン形式:3990ccV型8気筒DOHCガソリンターボ
(780ps/7500rpm、800Nm/6000rpm)+モーター(162kW/100Nm)
トランスミッション:8段DCT
駆動方式:4WD
タイヤサイズ:(フロント)255/35ZR20(リア)315/30ZR20
価格:5910万円(税込 アセットフィオラーノ仕様)

文:堀江史朗(オクタン日本版編集長) 写真:尾形和美 Words:Shiro HORIE(Octane Japan) Photography:Kazumi OGATA

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