モダンクラシックの雄、フェラーリ 575Mとアストンマーティン ヴァンキッシュSを乗り比べ!【前編】

Photography : Gus Gregory

伝統的なアストンマーティンの最後でもあり、新しいアストンマーティン時代の幕開けでもあるヴァンキッシュ。フェラーリの優れたマニュアルトランスミッションを搭載したグランツーリスモ、575M。この2台を乗り比べてみよう。



V12をフロントに搭載したグランツーリスモより魅惑的な車が存在するだろうか?ミドシップエンジンのスーパーカーのような派手さはないが、実用的だ。ハイパフォーマンスなサルーンもあるが、それらが足元にもおよばないエキゾチックでエレガントなデザインは、半世紀以上にわたって車の本質を捉えてきた。

オートマチックの誘惑


2000年代初めのフェラーリの575MとアストンマーティンのヴァンキッシュSは、力強さ、洗練性、存在感、絶妙な扱いやすさ、そして控えめさという、すべてを兼ね備えたモダンクラシックだ。どちらも全盛期にはよきライバル関係にあったが、その成り立ちはまったく異なるものだった。550マラネロの後継モデルとして登場した575は、スタイリングだけでなくエンジンにも改良を受けてパフォーマンスを向上させた。そして、V12フェラーリとしては初めて、F355に搭載された6段型シングルクラッチの“F1”パドルシフト・トランスミッションをオプションに取り入れ、2ペダルコントロールとなった。

2000台ほど生産された575Mのうち、大半がF1トランスミッション搭載車で、マニュアル仕様の575Mは249台と希少で、さらに右ハンドル仕様はたったの69台だった。そのめずらしさゆえ、“跳ね馬”というよりも“ユニコーン”のような存在であり、数年前には6万5000ポンドほどだったのが、現在では25万ポンドにまで高騰している。



アストンマーティンのヴァンキッシュは、革命的な進化を遂げたモデルだった。新しいモデル名、エンジン、斬新なスタイリングを持つヴァンキッシュと、それに続くヴァンキッシュSは、アストンマーティンがフェラーリをライバル視していることが明確なモデルだった。アストンマーティンも2ペダルコントロールを新採用したが、残念ながらヴァンキッシュに搭載されたASM(Automated Sequential Manual)トランスミッションは、フェラーリには劣るものだった。ヴァンキッシュSでは改良されたが、顧客の要望に応えるべく、2006年にアストンマーティンのワークスサービスチームは、マニュアルトランスミッションへの換装を2万ポンドという高額な費用で手掛けるようになった。

マニュアル仕様のヴァンキッシュは、圧倒的な人気を誇った。しかし、アストンマーティンのファンの間では、賛否両論を呼んでいるため、現在の価値は、新車価格とほぼ同じか、それを少し下回ると言われている。ヴァンキッシュとヴァンキッシュSは合わせて2589台(それぞれ1503台と1086台)が製造されたが、アストンマーティンワークス(現在のワークスサービス)によると、これまでにマニュアル仕様に改造されたのはわずか75台だ。そのため、マニュアルのヴァンキッシュがこれほど重宝されるのも不思議ではない。



575Mをイギリス最高のドライビングルートにて試す


この2台で最高のドライビングロードを楽しむことができる1日は特別なものだった。どちらもデザイン性に優れているが、私の目にはフェラーリの方が魅力的に映る。細長いフロントとエアインテークがとてもスタイリッシュに見える。ピニンファリーナが描いたしなやかなラインは、ロングノーズのエンジンフードに沿ってサイドへと流れ、力強く丸みを帯びたリアの部分で頂点に達する。一方のヴァンキッシュは、ワイドでアグレッシブなデザインが魅力的であり、デザイナーのイアン・カラムが描いた流麗な曲線は、それまでのモデルより一層パワフルな印象を受ける。

内装に関しては、575Mがより上品に感じられた。繊細なドアハンドルに指をかけ、窓が1~2インチほど下がるのを待ち、重量感のあるドアを開けて、美しい意匠の“デイトナ・シート”に身を任せる。スポーティな雰囲気とドライブを楽しむためのラグジュアリーな雰囲気が融合した、親しみやすく開放的な空間である。大陸を横断することを前提としたグランツーリスモにとっては、最高のドライビング環境だ。



特徴的な作動音がするスターターモーターが回った途端、5.7リッターV12エンジンは素早く目覚めた。シリンダーの中で12本のピストンが静かに煮えたぎるような、力強い音が聞こえてきて、期待が高まる。重いクラッチを踏み込み、冷たい感触の軽合金製シフトレバーを1速に送り込む。回転数を上げる必要はなく、クラッチプレートをフライホイールに静かに当ててさえすれば、あとはV12の力に任せることができる。このように上品なV12エンジンは、派手に踏み込んで走らせるよりも、より丁寧に扱う方が、この車らしい運転を堪能できる。

575Mのステアリングは比較的ダイレクトであるため、慣れるまでに少し時間がかかる。この車には、フィオラノ・ハンドリング・パッケージが装着されている。赤く塗られたブレーキキャリパーと硬めのパギッド製パッド、15mm短縮された硬めのスプリング、太めのリア・アンチロールバー、硬めのブッシュ、パワーステアリング、電子制御ダンパー用の新しいECUなどで構成されるこのパッケージは、550の硬さと正確さに欠けるという批判に応えるために、575から提供されたものだった。ノースヨークシャー・ムーアを横切るコーナーが続くルートで確認すると、柔軟性とボディコントロールの確実さがこのパッケージによって実現されていることがわかった。575にはライトウェイト・スポーツカーのような俊敏さはないものの、強大なパワーをドライバーの意のままに自在に御せることが魅力だ。



575はどのギアからでも、回転数に関係なくスムーズな加速体勢に入り、スロットルペダルを強く踏むと体が強烈にシートに押し付けられる。V12エンジンが7000rpm以上に駆け上がるときのサウンドはそれほど大きくないが、強大なパワーによる緊迫感と迫力を見せつける。面白いことに、最高出力508bhp、最大トルクが434lb-ftものパワーのために、ギアチェンジをあまりせずとも走ることができてしまう。575のギアボックスの操作には重厚感があり、高いシフトクオリティを備えた素晴らしいものであるだけに、シフトの頻度が低いことは残念だと、そんな贅沢な文句を言いたくなってしまう。シフトといえば、最初のフェラーリから使い続けられている、いわばフェラーリのアイコンであるオープンゲートで、ギアシフトのたびに、紛れもない金属製の「カチャカチャ」という音が鳴り響く。現在では、この伝統的なシフトレバーが造られていないことは非常に残念である。



強力で優れた感触のブレーキと、安心感を与えてくれるフロント・ミドエンジンによる絶妙な重量バランスとが相まった車だ。これほどパワフルな後輪駆動車のドライビングは慎重になりがちだが、強力なトラクションと優れたスタビリティ・コントロールシステムが備わっているため、いざというときでも車を抑制してくれ、安心して運転できる。もちろん貴方が腕に自信があれば、スイッチを押すだけで電子制御のセーフティネットを無効にして、575を限界域まで試すこともできる。

後編に続く。

編集翻訳:伊東和彦 (Mobi-curators Labo.)  原文翻訳:オクタン日本版編集部
Words:Richard Meaden  Photography:Gus Gregory

編集翻訳:伊東和彦 (Mobi-curators Labo.)  原文翻訳:オクタン日本版編集部

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