ハイパフォーマンスカーの掘り出し物!?リスターが手がけたモンスタージャガー

Charlie Magee



リスター・ル・マンの全貌

1987年に復活したリスターで指揮をとったのはピアース息子のローレンスで、レザーヘッドにある1万m2の敷地内で、XJ-S用のチューニングキット生産を手掛けた。5段マニュアル・トランスミッション(4750ポンド)や、ボディキット(6700ポンド)、エグゾースト(1930ポンド)などがあり、かなり高価だったが好評であった。

そして、これらのキットを活用して製作したのがXJ−Sル・マンである。アルピナBMWのように、V5(車検証)のモデル名に“Lister”と記載されるほど、広範囲に及ぶ改造が施されたモデルだった。生産台数は公式には50台に限定されていたが、最終的には19台のクーペと3台のコンバーチブルが1992年から93年まで生産されたが、正確な生産終了時期は不明である。



リスターが手掛けたコンプリートカー、ル・マンの外装は、特注のメタルとFRP製の混成ボディワークと、コンポモーティブ・ホイール社製の17インチ・スプリットリム・ホイール(前輪:10インチ、後輪:13インチ幅)から構成されている。さらに、ツイン・ヘッドランプとロングノーズのボンネットはロブスターのようにゴツゴツとしている。ドアスキンとスカットルパネルだけがオリジナルのXJ-Sから引き継がれ、新しいFRP製のバンパーが取り付けられた。

リスター・ル・マンとリスターMk.1/Mk.2/Mk.3は混同されがちだが、初期型XJ-Sで特徴的なフライング・バットレス(リア・ウィンドウから後方に伸びる“ひれ”)が取り除かれ、新しい形状のリア・ウィンドウと、延長されたボンネットが主な違いである。

機構面の変更も多岐にわたり、新しいプロペラシャフトの両側に沿うように設けられた縦方向のブレース、強化ホイールハブ、強化されたリア・サブフレームなどがある。また、後輪独立懸架の特長であるツイン・コイルスプリングレイアウトを踏襲しながら、コニ製のショックアブソーバーと強化スプリングを組み込んでいる。また、ブレーキは標準のインボード型ではなく、オーソドックスなアウトボードに変更され、APレーシング製の4ピストン・キャリパーとフロント335mm、リア318mmのディスクを用いている。

ジャガーは1988年にXJR-9LMでル・マンを制覇しており、そのエンジンはオリジナルの5.3から7リッターに拡大されたユニットだった。リスターもこれに準じ、コスワース製の鍛造ピストンによってボアを4mm広げ、新設計のクランクシャフトを組み込むことでストロークを14mm延長している。シリンダーヘッドとカムシャフトにも手が入り、バルブは径を拡大している。燃料圧力を高めたうえで、口径の大きなスロットルボディを用い、圧縮比は標準の9:1から11.2:1へと高められた。燃料タンク容量は86リッターから128リッターに増やされた。

車重は1681kgから1800kgと増えたものの、出力はオリジナルの285bhpから512bhpへ、トルクは294lb-ftから500lb-ftへと、自然吸気のロードカーとしては驚異的なパワーアップとなったため、その重さを感じることはない。



インテリアは、白とワインレッドに彩られ、パイピングが施されたコノリー・レザーと豪華なカーペットは、まるでロールスロイスのような雰囲気を醸し出している。レカロ製のシートは、当時のフォードやヴォクスホールに装着されていたものと同じと思われ、標準のXJ-Sよりも体の中央部がしっかりと支えられているものの、背の高い人には着座位置が少し高すぎる。また、新しいリア・ウィンドウによって後方視界が改善され、後席を後方に移動したことでスペースは広くなっている。もっとも、このためにトランクは半分に狭められたが。車体は全長が50mm、全幅が100mm長くなり、ドイツのTUV認証まで受けている。

7リッターV12の実力

V12エンジンは戦闘機のようでも、クラシック・サルーンカーのようでもあり、ドキドキするような鼓動がする。そのエンジンサウンドは、おとなしいい印象を受ける標準のXJ−Sとはまったく別物で、ひとたびスロットルを煽ると、瞬時に雷のような音を立てて、喚く。



クラッチを緩めるといかにも単板クラッチらしい重みを感じる。低速でステアリングをロックまで回すと、リミテッドスリップデフの存在を実感させられるが、これなら、コーナーでテールが流れたときに、正確なコントロールをしてくれるだろう。

サーキットではもちろん、公道でもこのマッスルカーの特性を体感することができる。標準のXJ−Sよりパワーアシストが40%減少し、さらに剛性の高いシャシーと足回りによって、ステアリングは重くなっている。また、ステアリングレシオは変化されていないが、レスポンスが向上しているように感じられる。これは、アクセルペダルを踏んでから、実際にホイールが回転するまでの弾性が大幅に減少したためだと思われる。

固められたシャシーと、重くなったステアリングの相性はよく、標準ぼXJ−Sよりも安定感がある。また、ブレーキは瞬時に効く制動力があり、ウェット路面に対応するために、ABSが付いているのはありがたい。

リスター・ル・マンは、すべてが引き締まったマッスルカーに仕上がっていたが、荒々しさは微塵もなく、柔軟性に富み、落ち着いた走りを楽しむことができる。また、バネ下重量が増加したにもかかわらず、シャシーは路面の段差にも柔軟に対応し、スムーズに走行することができる。驚異的にパワフルな車であるが、走りも洗練されているので、スロットルを恐れずに踏むことができる。



このマシンは恐ろしく速い。このV12は爆発的なエネルギーを発し、高回転まで回る。6200rpmに設定されたレッドラインは、それほど高くないように思えるが、その音と激しさから、特に最後の1500rpmは、どこまでも伸びていくように感じられる。シフトアップやスロットル操作を続ける時だけでなく、ひとつのギアでフルに回す時でも、神経を使う必要がある。

ブレーキやシャシーがこれほどまでにしっかりしており、リスター・ル・マンはそのパワーを上手に対応することができるため、ドライバーは車を信頼することができる。ステアリングは扱いやすく、滑らかにヒール・アンド・トゥができることも、コントロール感を高める要因となっている。もっとも、4人の顧客が注文したという、オプションのツイン・スーパーチャージャー仕様では604bhpを発揮するというから話は別だ。604bhpでは、ウェットの状態ではなくても、十分注意しなければならないだろう。



私は今日、かなり危険なドライブを覚悟していたが、リスター・ル・マンは予想以上に洗練された車だった。並外れたスピードだけでなく、普段使いでも、サーキットでのアグレッシブな走りにも十分に対応できるシャシーが備わっている。

パンフレットでは、ル・マンを「ツーリングカーの豪華さと洗練された乗り心地に加えて、レーシングカーのパワーとハンドリングを備えた車」と表現している。しかし、今日では、最高速、320km/hを謳うこのマシンが、フェラーリF40の何分の1かの出費で手に入るようになっている。かつては破格の値段だったリスター・ル・マンも、今ではハイパフォーマンスカーの掘り出し物となっているのだ。

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.) Words: Ben Barry Photography: Charlie Magee

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.) Words: Ben Barry Photography: Charlie Magee

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