ハイパフォーマンスカーの掘り出し物!?リスターが手がけたモンスタージャガー

Charlie Magee

リスターというレーシングカー・コンストラクターの名を聞かれたことがあるだろうか。リスターは、1954年に、ケンブリッジで鉄工所を営む傍らレーシングドライバーでもあったブライアン・リスターが、英国・ケンブリッジに興したコンストラクターである。独自に開発した鋼管スペースフレームシャシーに、ド・ディオンアクスル、インボードドラムブレーキという進歩的なレイアウトが特長であった。

当初はブリストル製6気筒2リッターエンジンを搭載。その後にはマセラティ6気筒も使ったが、リスターの象徴的な存在としてよく知られているのが、ジャガーXKエンジンを搭載し、風洞実験によって開発した空力的なアルミボディを持つリスター・ジャガー・“ノーブリー”である。

これによって1957年には、ライバルはアストン・マーティンDBR1だけという競合マシンに成長を果たした。さらに1958年には、空力のエキスパートであるフランク・コスティンと契約してボディをリファインし、シボレー製V8エンジンを搭載したリスター・シボレーを約50台生産し、プライベートチームに供給した。

しかしながら、活躍を期待されつつも、1958年にリスターの会社は経営難に陥り、同年にコンストラクターとしての活動に終止符を打った。マシンの生産を終えたリスターは、ルーツ・グループのコンサルタントとして、フォードV8を搭載したサンビーム・タイガーのル・マン用レーシングバージョン開発に従事したが、その計画を終えた1963年以降、リスターの名はモータースポーツ界では聞かなくなった。

こうして1950年代の数年間という短い時期ではあったが、モータースポーツシーンに欠かせぬアイコンとなったリスターだったが、1987年になって、ブライアン・リスターと親交があり、ジャガー・チューナーであったウォーレン・ピアースによって、伝説になっていたリスターの名が復活した。その新生リスターの象徴、その名も“ル・マン”が本稿の主人公だ。



リスター・ル・マン

フェラーリF40が発売された翌年の1988年、リスター社はリスター・ル・マンを発売した。最高速度が200mph(320km/h!)、タイヤが335/35ZR17サイズのピレリP Zero、価格が約15万ポンドと、F40に劣らないスペックを備えたモンスターだった。リスター・ル・マンは、いかにもスーパースポーツカーらしいというデザインではなかったが、パフォーマンスと存在感はそれに匹敵するレベルの車であった。

ジャガーXJ-Sをベースに造られたリスター・ル・マンは、F40と同じタイヤでありながら、F40を上回る高出力(512bhp)を発揮して驚異的なパフォーマンスを発揮した。タイヤサイズで比べれば、初代XJ-Sが205/70VR15を履いた“285bhpの車”だったことを考えると、リスター・ル・マンがどれほどの改造車であったかがわかるだろう。



私は以前から、リスターはフェラーリよりも「荒々しく危険な車」だと思い込んでいた。まず、アグレッシブなデザインにトルキーな7リッターV12エンジンが搭載されていること。そして、たとえばマラネロなどで高性能車製作に慣れた人々ではなく、サリー州レザーヘッドの工業団地で働く男たちによって再び組み立てられ、改造されたという事実だ。しかし、試乗して間もなく、このモンスターが洗練されていることに気付かされ、車への信頼感が生まれた。また、比較に連れ出した、スタンダードのジャガー・XJ-Sとの大きな違いを実感することもできた。

どちらの車もオーナーはマーティン・ラムである。彼は学生時代に父親が所有していたXJ-Sに乗ったときからXJ-Sが好きになり、その後の、グループ44やTWRが率いたレースでの活躍にも魅了された。『Fast Lane』誌の表紙を飾ったリスター・ル・マンは、まさにその2台を組み合わせたような車だった。

「私は子供の頃からリスター・ル・マンがずっとほしかったのです。標準的なXJ−Sが3~3.5万ポンド程度で手に入るのに対し、リスターのXJ−Sは15万ポンドと非常に高価でしたが、私はとても興奮していました」とラムは振り返った。

2018年、ラムはオークションでワンオーナーだったこの車を8万8480ポンドで購入した。これは、3万5000~5万ポンドが相場だったことを考えると、はるかに上回る価格だったが、最近になって市場が高騰しはじめ、コンディションが良好なうえに、数行距離がたった3345マイルと少なかったため、購入に踏み切ったという。



エレガントなノーマルXJ-S

私はまず、標準のままのXJ-Sに乗り込んだ。4速マニュアル・トランスミッション仕様の美しい、希少な初期モデルだった。それは、まるでライオネル・リッチーの穏やかな曲のような、美しく滑らかな走りを体感することができた。重心の制御とレスポンスはおだやかな柔らかさを持っているが、けっして反応が鈍い車ではない。ステアリングを切ると、俊敏かつ正確に自分の行きたい方向にフロントが向き、重心も大きくぶれることはなく、安定している。



この5.3リッターユニットは、典型的なV12エンジンではないかもしれないが、タービンのように滑らかで、シャシーとの相性も良く、滑らかに回転数を上げていくことができる。シフトチェンジの時も、カチャっと小さな音を立てながらシフトができる。このゆったりとしたグランツーリスモは、せっかちな人には向かないと思う。だが、XJ-Sにアグレッシブな性格を求める人のために、リスターがル・マンを発売したのである。

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.) Words: Ben Barry Photography: Charlie Magee

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