25台ものロールス・ロイスとベントレーを一挙大放出|30年かけて集めた極上のコレクション

Dirk de Jager (C) RM Sotheby's

RMサザビーズが6月19日に開催するオークション「A PASSION FOR ELEGANCE」にて、ベントレーとロールス・ロイスのシングルオーナーコレクションが出品される。イギリスを代表する2つのメーカーの黄金時代に製造された25台の車が一挙に大放出される。

このコレクションは、30年の歳月をかけて集められたもので、コレクション専用の美しい施設に展示され、セレクションも素晴らしい。「A Passion For Elegance」では、数十年に渡って最上のカテゴリーの最高級品を集めようとするオーナーのコレクションに対する愛と情熱が伝わってくる。特に、多くの車が世界有数のコレクションから提供されており、個々の車の印象もさることながら、コレクション全体として見ると、影響力と重要性が際立っていることがわかる。

オークションはその施設内で行われ、出席者を制限したライブセールとして実施される。どの車両も、非常に優れた状態で出品され、いつでも走らせることが可能だ。ロールス・ロイスとベントレーを愛する世界中の人が注目するオークションになるだろう。

出品される25台の中から一際目を引いた数台をご紹介しよう。

1958年式 ベントレーS1 コンチネンタル ドロップヘッドクーペ



戦後に生産された多くのベントレードロップヘッドクーペとは異なり、パークワードのコーチワークが施されたボディスタイルナンバー700のS1コンチネンタルは、工場で生産されたサルーンの刻印を「改作」したものではない。それどころか、当時「ジェントルマンズ・エクスプレス」とも呼ばれていた抜群の剛性と素晴らしいチューニングが施されたコンチネンタルのシャシーの上に、コーチビルダーのクラフツマンがアルミ製のボディを一から作り上げた完全なカスタムボディであった。

ジョン・ブラッチリー考えた優美さを絵に描いたようなボディラインは、長い間、現代のBentleyスタイリングの頂点の一つと考えられてきた。このデザインを特徴づけているのは、滑らかで繊細な曲線であり、フロントからリアへと優雅に伸びる長く完全な「フロースルー」フェンダーと、リアホイールの上に「ヒップ」を形成する微妙なキックアップ、そしてテールチップにはごくわずかなテールフィンの痕跡がある。さらに、アロイパネルを採用したことで、シャシーの性能を最大限に引き出すことに成功した。



S1 コンチネンタルのシャシーで生産されたドロップヘッドクーペはわずか94台で、大西洋の両側で最も洗練された自動車愛好家、すなわち産業界のトップやハリウッドスター、世界の王族などの熱心な顧客がこぞって手に入れた。現在では、その伝統を受け継ぐ人々が、レストアを施し大事に乗りつづけている。

このドロップヘッドクーペは1953年3月にイギリスのジョアネス・スミット氏が購入した車でナンバープレート「100FKX」は当時から変わっていない。またシェルグレイにレッドレザーのインテリアというカラーリングも、スミット氏に引き渡された時と同じ状態だ。実際、検査の結果、塗装はオリジナルか非常に古い再塗装であるが、運転には支障のない状態であることが判明した。インテリアはほぼレストアされているため、レザーシートは薄っすらと色落ちしている程度で、ウッドワークも見事な状態だ。



S1コンチネンタルほど、運転を楽しめるベントレーは少ない。後続のS2やS3にもさまざまな楽しみがあるが、S1は真の意味での "ドライバーズカー “であり、デザインがシンプルで、重量が軽く、立ち上がりが若干早いのが特徴だ。電動調整式のリアサスペンションと3ウェイ・セーフティー・ブレーキの安心感に支えられたS1の走りは、ソフトでありながらコントロール性に優れており、上質なレザーに包まれたパッセンジャーは、この車でしか味わえない体験をすることができるだろう。

1929年式ロールス・ロイス 20HP 「プリンスオブウェールズ」3ポジション・カブリオレ



ロンドンの名門バーカー社は、後にエドワード8世やウィンザー公となるプリンス・オブ・ウェールズ殿下にボディを供給するなど、長年にわたってコーチワークのロイヤルワラントを取得していた。プリンス・オブ・ウェールズが所有していたバーカー作品の中には、ロールス・ロイス初の 「スモール 」モデルである20HPがあり、特徴的で美しい4ドアのカブリオレ・コーチワークを備えていた。このデザインの魅力に惹かれて、他のシャシーでも生産されたが、今回出品されたGFN35は、ロンドンのイートン・スクエアに住むハーバート・B・イワート氏が発注したものである。保証書は1929年4月4日にイワート氏に発行された。



ロールス・ロイス社が作成した資料によると、この車にはフルニッケルの付属品、荷物棚、スピーキングチューブ、室内電灯、ポリッシュ仕上げのインストルメントパネル、ディビジョングラスが装備されていたそうだ。ルーカスのヘッドランプには、バーカーが特許を取得したディッピング・システムが装備されており、対向車の目を眩ませないようにヘッドランプを下げることができる。トリプレックスガラスが全周に施され、ディヴィジョンガラスからは取り外し可能なオケージョナルシートが見えた。





現在、多少のひび割れはあるものの、シャーシナンバーGFN35は、その「骨」の部分では満足できるほどオリジナルに近い状態を保っている。実際、オリジナルのボディ番号とシャーシ番号の両方が構造材に刻印されており、オリジナルのエンジンも搭載されているのだ。

ここまで手入れの行き届いた20HPも多くはないだろう。

1990年式 ロールス・ロイスファントム Ⅵ スペシャルリムジン



1968年に誕生したロールス・ロイスのファントムVIは、前作のファントムVを着実に進化させた、ロールス・ロイスが誇る最高級車である。ジェームズ・ヤングが歴史に名を残したことで、ロールス・ロイスは初めて自社のマリナー・パーク・ウォード工場でファントムのコーチワークを一手に引き受けることになったのである。しかし、これまでと同様に、これらは決してプロダクションカーではない。オーナーの個性的なスタイルを反映したオーダーメイドのオリジナル製品である。

これは家具メーカーを退職した慈善家のジョージ・ムーア氏が1990年に購入した車で、ムーア氏はこの車を日常的に使用するために注文し、5年間で10万マイルをという数字を刻んだ。

ムーア氏がファントムⅥを購入したのは実は2回目で、2代目ファントムⅥも先代と同様にマルーン色の上にブラックを配し、さらにステンレス製のエクステリアトリムとクローム製のフェンダーモールディング、そしてリアクォーターパネルにはロールス・ロイスのバッジが取り付けられていた。海外旅行を考慮して、前後のバンパーを取り外し可能にし、20フィートの輸送用コンテナにぴったり収まるようにした。これは、エリザベス女王陛下のファントムVIステートリムジンからヒントを得たもので、フロントフェンダーのフラッグマストも同様である。



フロントフェンダーのフラッグマストは、エリザベス女王6世のステートリムジンから受け継いだものだ。後部コンパートメントは、同色のサーストンベルベットで仕上げられ、ゆったりとしたクッションとラムズウールのオーバーラグ、独創的なデザインのスライド式ガラスサンルーフ、ヘッドライナーに取り付けられた航空機型の温度計と時計が装備されていた。後部には “マガジンネット"があり、雑誌"Times"を入れておくのにも十分な大きさであった。窓にはシルクのドレープが施され、各所には特別にセレクトされた化粧板が使用されている。前後のコンパートメントには、それぞれ独立したエアコン、ドアロック、電話、ラジオのシステムが装備されていた。後席にはカクテルキャビネットもあり、典型的なステムグラス、カットクリスタルのデカンタ、オーナーの最高級ボトル用の備品だけでなく、レモン皿、コルク抜き、トング、ビールタンカ-ドのセットも用意されていた。





天気のいい日には、トランクはローリング・ダイニング・テーブルとなり、「ガマグチ」シートがトランクから出てくる。またベニヤ板のテーブルがフロント・フェンダーの上に設置されており、最高のピクニックを味わえる車となる。実際、トランクリッド自体も大きく開くように改造されており、食事ができるようになっているのだ。銀、陶磁器、ナプキンなどは、トランク内の籐製のハンパーに入れられ、2本の傘のそばに収納されている。



オプションの総数は118項目にのぼり、ここでは説明しきれないほどの数となった。これらを全て組み込むためには、「一般的な」ファントムVIの製造時間に加えて4,300時間という長い期間を要する必要があった。ジョージ・ムーアに60万ポンドで納入されたこの車は、1992年2月号の『CAR』に掲載され、ファントムⅥとして最後のリムジンとなった。


まとめ:オクタン日本版編集部 Photography: Dirk de Jager (C) RM Sotheby's

まとめ:オクタン日本版編集部 Photography: Dirk de Jager (C) RM Sotheby's

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