ランチアファン羨望の的、幻のランチアデルタインテグラーレ

Oliver Sold


“ヴィオラ”

エボルツィオーネはトリノの本社工場で組み立てられたが、1993年の後継モデルである“エボ2”は、名門コーチビルダーのマジョーラ社がフィアット・ランチア社と契約し、キバッソの旧ランチア工場で生産された。タイムド・シーケンシャル・マルチポイント・フューエル・インジェクションと新しいターボチャージャーの採用により、最高出力は212bhpに向上し、外装では特徴的な新しいホイール、“雨どいの”モールディング、スムーズな形状のワイパーアームなどが採用された。



1979年から生産されていた初代デルタの世代が終わり、次の世代が登場したのは93年だったため、工場のラインは2世代目に使用されていた。そのためエボ2は主に手作業で組み立てられ、1日に12台から15台がラインオフされた。ブルーノ・マジョーラ自身も、自分の会社が製造していた特別なインテグラーレには終わりが見えていた。そこで1994年、彼はトリノ近郊のフィアット経営陣に、これほど象徴的な車を終わりにするのは間違っていると説得するために、ヴィオラを発表したのである。

基本的にはプロトタイプであるヴィオラの外観上の最大の違いは、ブルーノ・マジョーラの提案により、塗料のスペシャリストであるPPG社が調合したバイオレット色の豪華なマルチコート・ペイントである。イタリアの『TuttoRally』誌の夏号に掲載された比較レビューに登場したヴィオラは、17インチのテクノマグネシオ製ホイールを装着し、パワーは237bhpとかなり向上していた。



パワーはマニエッティ・マレリとウェバーの新しいエンジンコントロールユニットによって237bhpにまで高められ、パワーカーブの最適化によって、2500rpmから6000rpmまでの幅広い回転域で234lb-ftの最大トルクを発揮した。

フロントアクスルには、バーフィールド社製の非常に軽量でコンパクトなビスカスカップリング式ディファレンシャルが採用されたことにより、インテグラーレのアンダーステア傾向が若干緩和され、ダンパーも改良された。ヴィオラは、0-62mphでは通常のエボ2より0.5秒速く、フラットアウトでは6mph速かった。マジョーラ工場にあるランチアの旧テストコースで、標準のデルタ・エボ2と対決したとき、テストドライバーのパオロ・オリベロは、パワーが増しハンドリングも向上したことに非常に感銘を受けたそうだ。



しかし、ブルーノ・マジョーラが自分の作ったものに自信を持っていたとしても、残念ながらトリノのパオロ・カンタレッラをはじめとするフィアット上層部の面々を納得させるには十分ではなかった。

私が初めてヴィオラを見たのは1996年、フィアットとランチアがイタリア・アルプスで開催した公式イベントで、マジョーラ社の社員がプロトタイプを走らせ、ハンドリング・クオリティを披露したときだった。その3年後、キバッソにあるマジョーラ社の工場を見学する機会があった。当時はフィアット・バルケッタやランチア・カッパ・クーペを生産していた工場で、デルタ・エボ2のボディパーツが入ったワイヤーパレットのケージを見て私は驚いた。外には、トンガ国王のために造られた装甲使用の白いランチア・カッパ(隠しマシンガン付き!)、緑のフィアット・バルケッタ・クーペ、そして薄く埃が被ったヴィオラ・デルタがあった。ヴィオラは2005年にドイツに渡り、2015年から現在のオーナーが所有しているという。

唯一のヴィオラ

2000年に、クラブ・イタリアNo.06のオリジナルオーナーであるジュゼッペ・ヴェロネージが、ジュネーヴのブルックス・オークションに出品したところ、南ドイツのランチア愛好家が購入し、2001年にオーストリアで開催されたランチア・ミーティングでヴィオラは初公開された。



インテグラーレに乗ったことのある人なら、素晴らしいトラクションとターボエンジンを備えたコンパクトなアナログ車で何ができるかはご存知だろう。この2台のアイコニックなデルタは、狭いカントリーロードでは驚異的な存在だ。クラブ・イタリアはあらゆるエボリューション1よりも優れており、ヴィオラはあらゆるエボリューション2よりもさらに優れている。そして両車とも、ベースとなったモデルのドライビング特性を完璧に再現している。このクラブ・イタリアには、可変ブースト・コントロールが搭載されており、ドライビング・プレジャーが格段に向上している。

ブルーノ・マッジョーラは、ヴィオラでさらに過激なアプローチをとった。発表から26年経った今でも、ランプレディの傑作エンジンを始動し、インテグラーレ特有のサウンドを聞くだけで思わず笑みがこぼれる。また、最適な状態にセッティングされたサスペンションとデファレンシャルは、完璧なパワーディストリビューションをドライバーに感じさせる。パワーがわずかに向上しただけにもかかわらず、このパープルメタリックのスーパーラリーマシンは、どんな状況でもコントロールしやすく、ダイレクトなフィーリングが存分に伝わってくる。



すべてのインテグラーレファンにとって、このマシンは究極のデルタといえるだろう。それゆえにブルーノ・マジョーラがランチアを説得して、エボ3として生産させることができなかったのが残念でならない。


編集翻訳:オクタン日本版編集部 Words: Werner Blaettel Photography: Oliver Sold

編集翻訳:オクタン日本版編集部 Words: Werner Blaettel Photography: Oliver Sold

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