2台のブガッティを時速300kmで乗り比べ!|ヴェイロンとシロンを限界まで踏む

Graeme Fordham / Bugatti



山道を二台のブガッティで駆け抜けた。果たしてどちらが筆者の好みだったかと問われたならば、より刺激的だったヴェイロンだと答える。シロンはチャレンジングなコース上でも穏やかさを失わず、マナーは常に良好で、いっそうの力強さを安全かつ確実に発揮していた。実際のところ視界も素晴らしいのだ。その意味するところは、自信を持って速度を保つことがシロンの方が易しいということである。その代わりシロンには、爆音を響かせ過激に変速するヴェイロンの如きヒリヒリするような刺激には欠けていた。シロンは挑戦しがいのある道で1500psを発揮するという難しい企てをほとんど滑稽なまでに簡単なレベルへと落とし込んでみせている。それが技術の進歩というものだ。



もうひとつの国境を跨ぐと、話は冒頭のシーンへと舞い戻る。オーストリアの国境からシュトゥットガルトへと向かうドイツのアウトバーン、A7とA8だ。このルートは十分に長く、速度制限がない。速度無制限区間であることは白地に5本のストライプが斜めに入った標識でそれと分かる。

二台のブガッティはまさに水を得た魚となった。デビューから15年も経ったヴェイロンでさえ、異次元の速さを見せつける。まるで優先走行ボタンが備わっているかのようで、普段ならアウトバーンの獰猛な捕食者として牙をむく高性能車たちもたちどころに追い越し車線を譲り、鳴りを潜めてしまうのだ。テールパイプから煙を吐き、眼をかっ開いたドライバーがいくら必死にブガッティを寄せ付けまいとしたところで、無駄な抵抗でしかない。なにせヴェイロンはアウトバーンの常連が250km/hへ達するまでに要する時間で、それもさらに短い距離で、300km/hに達してしまうのだから。

どうすれば1000PSを超えるアイコニックなハイパーカーをリプレースできるのかって?簡単だ。1500PSのエンジンを積んだ新型を開発すればいいだけのこと。

速度が上がってくるにつれて、キャビンの中では轟音が響き始める。アクティブサスペンションによる乗り心地は明らかに快適性よりもスタビリティを重視するべく硬くなった。交通量が多くなり高速をキープできなくなると、とてつもなくパワフルなカーボンセラミックブレーキの恩恵を受ける。油圧によって最も抵抗の高い位置へと競り上がるリアウィングの盛大な音もまた、強力な制動力を支えている。

ヴェイロンより速い車などもはや必要ないのだ。けれども我々にはまだシロンが待っていた。シロンの膨大な出力は、実際のところ低い速度域(とはいえ160km/h以下のことなのだが)では明らかに何の意味もなさない。けれどもひとたび先行車がいなくなると、シロンは凄まじい加速を披露すると同時に、もはや車というよりも軽飛行機級の速度域においてさえ驚くべきスタビリティを発揮し、ドライバーをしてそのままずっと走っていられそうな気にさせる。

実はエアコンの操作系には隠しモードがあって、走っている間に達成した最高回転数と最高出力、最高速度が記録されている。ウォレスが私の順番の前にリセットしておいてくれたので、アウトバーンを走り終えた後にチェックしてみれば、私の記録は1504PS(カタログスペックを上回った!)、6772rpm、そして325km/hだった。ウォレスに指摘されるまでもなく、これでも彼がエーラ・レッシェンで昨年記録した数字のちょうど3分の2でしかない。

エアコンの操作系にある隠しモード。本稿訳者、西川氏の場合は最高回転数:6702rpm、最高出力:1475PS、最高速度:320㎞/hを記録している。アンディ・ウォレスからも「悪くない数字だ!」と高評価を得たそうだ。

そう、シロンはかろうじて汗をかいた程度の仕事しかしていなかったのだ。ドライバーはというと、もう冷や汗でベトベトになってしまっていたのだけれど。ブガッティの本拠にて⋯モールスハイムで素晴らしい旅を終えることとなった。フランスに入ってすぐ、そこは旧ドイツ領のアルザスだ。エットーレ・ブガッティの時代からはかなり様相が変わったとはいうものの、修復されたシャトー・サン・ジャンは現在、オフィスとブランド史を展示する建物として活用されている。



木々の向こうにはガラスで囲まれた四角いモダンな建築物がある。21世紀のアトリエ。そこで最新モデルが完全ハンドメイドによって組み立てられている。伝統と現代が融合した様子は今のブガッティを象徴するかのようだ。今となっては自分の名を冠した最新モデルについてエットーレがどう思うのか知る由もないけれども、きっとそのパフォーマンスと頂点を極めたブランド性の両方に賛辞を贈るに違いない。

ブガッティがホームへと戻った。シロン(左)とヴェイロンが、かつてエットーレ自身が所有し、今ではモールスハイムの本社として活用されているシャトー・サン・ジャンへと帰ってきたのだ。

ラグジュアリーブランド帝国を築き上げたフェルディナント・ピエヒは2019年8月にこの世を去っている。戦前とは異なる、彼が創り上げた現在のブガッティに思いを馳せながら、これまでとはまた変わっていくであろうブガッティ・ブランドのあたらしい時代の幕開けに心を寄せていきたい。1990年にイタリアで短い期間"復活"したブガッティの"青いファクトリー"。今回、アルプスを超えてオーストリア、ドイツを経てフランスはモールスハイムへと至るドライブツアーの出発地となった。


2013年 ブガッティ ヴェイロン EB 16 . 4 グランスポーツ ヴィテッセ
エンジン:7993cc W16、DOHC、クワッドターボ、電子制御式燃料噴射装置
最高出力:1184 bhp/6400rpm
最大トルク:1100 lb-ft/3000 - 5000rpm
トランスミッション:7段デュアルクラッチ、四輪駆動
ステアリング:ラック&ピニオン、パワーアシスト
サスペンション:(前/ 後)ダブルウィッシュボーン、セルフダンピング、油圧
ブレーキ:カーボンセラミックディスク 
車重:1888kg
最高速度:254mph 
0 - 60mph 加速:2.6秒

2020年 ブガッティ シロン
エンジン:7993 cc W16、DOHC、クワッドターボ、電子制御式燃料噴射装置
最高出力:1479bhp/6700rpm
最大トルク:1179 lb-ft/2000 - 6000 rpm
トランスミッション:7段デュアルクラッチ、四輪駆動、リアLSD
ステアリング:ラック&ピニオン、パワーアシスト
サスペンション:(前/ 後)ダブルウィッシュボーン、コイルスプリング、油圧
ブレーキ:カーボンセラミックディスク 
車重:1995kg
最高速度:261mph 
0 - 60mph 加速:2.4秒


日本でのブガッティ販売に関するお問合せ
ブガッティ東京 TEL: 03-3447-1909 https://www.partner.bugatti/japan/Bugatti


編集翻訳:西川 淳 Transcreation:Jun NISHIKAWA
Words:Mike Duff Photography:Graeme Fordham / Bugatti

編集翻訳:西川 淳 Transcreation:Jun NISHIKAWA Words:Mike Duff Photography:Graeme Fordham / Bugatti

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